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前例は自分ではない

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 国王に良い婿を迎えられそうでよかったなと声をかけられた宰相だったが、何故か反応がイマイチだ。やっと肩の荷が降りたと、娘が好きだった相手と一緒になれた事を喜んでいたはずだが。


「随分と彼に甘やかされているのか、ミリアが屋敷に戻ってくると、途端に空気が重たく暗くなるのですよ」

「どうしてだ?毎日会っていると聞いたが?」

「はい・・・さっきまで会っていたというのに、もう寂しいのだと言うのですよ・・・」


 国王はポカンとしていた。宰相の娘であるミリアは、実は第二王子のアルバートの婚約者候補にとも考えていた事もある。もしアルバートに思いびとがいなければ、今頃は婚約者となっていたかもしれない。結局の所、マリーリアとの事が諦めきれなかったアルバートに、縁談はまだ何も進めないで欲しいと請われていた為実現はしなかったが。それだけ小さい頃から親戚の子どものように、そして成長するにつれて王子どちらかの婚約者にでもと見るようになっていた。ミリアは、父を宰相に持つ影響なのか、年若い令嬢特有の恋に焦がれるという印象は全くなかった。それはレティシアにも言えることだが。自身が政の駒になり得る事を幼い頃から自覚はしていたのだろうと思う。アイオロスとの縁談が決まり晴れて婚約者となったが、実は両思いだった二人。互いに互いを好きでいて、片方は身分違いで叶わぬと諦め、片方は叶わぬ恋と思いながらも恋焦がれ。どちらからも近付く事もなかった。そんな二人が晴れて婚約者になったのだ。浮かれて当然の事だろう。


「ならば一緒に住まわせればいいのではないか?」

「い、一緒にですか!?」

「あぁ、そこに前例がいるではないか」


国王はそう言うと、ウィルフレッドを見る。


「えぇ、離れがたいものでしたからね。しかし、陛下、私だけを前例と言われるのは心外ですね」

「なんだ?」

「私は父の子ですからね」


ウィルフレッドはふっと笑うと、レティシアを抱きしめる腕に力を入れた。


「そうだったな・・・公爵も・・・ディアルドも夫人を婚約者にすると意気込んで、屋敷に連れ帰ったと聞いたことがある」

「はい、私はシアとは婚約者となってからでしたが、父上は婚約者にするために生家から母を攫うように連れ帰ってきたらしいですからね。上には上がいるものですよ。前例と言うならば、私ではなく父でしょう」


ウィルフレッドは自身ありげに言い切ったが、周りはさすが親子だなと思っただけだった。父も父なら子も子だ。結局、好きな女を側に置いておかないと落ち着かない性分なのだろう。国王も宰相もそう思うことで納得した。


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