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医師と古傷
しおりを挟む「エルサ様!」
急いで駆け寄る騎士達の声に、エルサが振り返る。その視線の先、近い距離にフィーノの姿もあった。エルサがそっと手を伸ばすと、その手にフィーノが鼻を擦り寄せた。
「いい子ね。ちゃんと人を連れてきてくれたのね」
エルサはいい子だとフィーノの顔を撫でる。そして騎士達が声をかける。
「エルサ様、コルテオ様は・・・?」
「どうなされたのです?」
「何があったんですか?」
騎士達は次々と思ったことを口にしていく。
「詳しくは後で説明するわ。とにかくコルテオ様を救護室へ。誰か砦に戻って担架を持ってきて。それからドーラン医師を呼んでおいて」
いつもの冷静な様子と違い、焦りの見えるエルサに、騎士達もただ事ではないと急いで行動に移す。そう時間のかからぬうちに、担架を持った騎士が数名の騎士を連れて戻ってきた。騎士達の手によって砦の救護室へと運ばれていくコルテオに、エルサは声をかけた。
「コルテオ様、今から砦の救護室へと運びます。直につきますので、もう少しだけ頑張ってくださいませね」
「・・・すみません。皆さんにご迷惑をかけてしまいました・・・」
「謝らないでください」
「でも・・・」
「コルテオ様は私を守ってくださいました。ご心配なさらず。辺境の騎士達にとって怪我は日常の事です。手当てなどは慣れておりますのでご心配には及びませんわ」
「・・・そうですね。その点は何も心配などはありません」
「ですから、今は大人しく運ばれてくださいませ」
「わかりました」
コルテオは申し訳なさそうに微笑むも、、額には汗が滲んでいる。苦痛に耐えているが必死に隠そうとしている。そんな様子が手に取るようにわかった。エルサがコルテオの頭を撫で、手のひらで瞳を隠す。その仕草に、コルテオは居心地の良さにつられて安心したように瞳を閉じていた。騎士達がエルサの合図と共にコルテオを運んでいく。救護室では、白髭を生やした穏やかそうな老齢の医師が待っていた。
「さぁ、こちらへ寝かせてくれるかな?」
騎士達は、医師であるドーランの指示に従い、コルテオをゆっくりと静かに診察台へと横たえらせた。しばらくして厩舎へフィーノを預けたエルサが救護室へと入ってくる。医師のドーランがコルテオの診察を始めたところだった。
「コルテオ殿、肩が痛むようだね?」
「え、えぇ・・・」
「少し触らせてもらうよ」
ドーランはコルテオの肩を触診する。コルテオは触れられた痛みに顔を歪めた。
「怪我はないね。という事は古傷が今でも影響しているという事かな?」
「・・・そう・・・です」
コルテオはエルサに聞かれている事に気付かずポツリとこぼしていた。
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