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身体と心の痛み
しおりを挟む眩しさに目が覚めると、全身が痛い。何が起きたんだとのそりと身体を起こす。
「・・・なんで床で・・・あぁ、昨日そのまま寝てしまったのか」
身体の痛みが、心の痛みを現しているようで、少しずつ昨日の事を思い出す。
「・・・王都か・・・」
辺境に何年もいて、大事なものがいくつもできたから、素直に喜べずにいる自分がいた。だが、この痛みと向き合うには、その距離が救いのようにも感じる。これまでエルサの隣に立てる存在になりたい、伴侶となることは叶わなくとも、一番側にいたいと、自分にできることを精一杯してきたつもりだった。足りなかったのは努力ではなく、寄り添う気持ちや、相手を全て受け入れる心だったのかもしれない。ただ許せば、ただ同意すればよいのであれば、それは無関心とかわりない。それでは意味がないのだ。相手が思うこと、相手が望むもの。受け入れて最善を探す。砦でソハナスの刺客に遭遇したときも、エルサはいつもと変わらぬ強い態度でいただろう。怯えて震える姿など想像できない。騎士達から聞いた話では、あのコルテオ・ハッサルが剣で払い除けたという。彼女を守ったのだ。それだったら自分にだってできた。辺境で剣技に関してはクレイドルに続くと自負している。何が足りなかったのか。今になればわかる。そう、コルテオは、自分の考えを押し付けないのに、いざというときに頼りにもなる。女は守られてればいいなんて思わせる事はない。共に戦い、慈しみ合う。同等の立場でいること。それができる男なのだろう。そして少し、抜けたダメなところもある。普通は女性にダメなところを見せたい男などいないだろう。隠しきれなかったダメな部分に、彼女が興味をもった。ただそれだけ。それもわざとではなく、本当に情けない部分を。完璧でいようとした努力は無駄だったのか。エルサの隣に立つために、最後には自分を選んで貰うために。その考えが間違っていたのかもしれない。騎士でいるという事。一人のために戦うのではない事を身を持って教えてくれたのだろう。もし、もしもだが、エルサが自分を選んでくれていたならば。もっと、まだまだだと剣の腕を磨こうと思っただろうか。更なる高みを目指しただろうか。釣り合う地位を、力を手に入れ、彼女さえ手に入れば。それが自分の最終目標地でゴール。それで満足したのかもしれない。その後は?幸せな未来しか想像していなかった自分に気付く。その点、コルテオの研究は、一人のためにではない。国全体に恩恵をもたらす可能性だってある。それは幸運でもなんでもなく、彼のこれまでの努力の賜物だ。騎士であればそれはできなかったか。いや、できる。そもそも、この国境を、しいては国を守っているのだから。コルテオにあって自分にないもの。ソルディオは、床に座ったまま、ぼんやりと考えを巡らせていた。
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