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本来の姿と心のもや
しおりを挟む「そうか、受けることにしたんだな?」
「はい」
ソルディオは頷き、クレイドルの目を見る。
「お前にとってもまたとないチャンスだ。いい経験になるだろう」
「はい」
あれから、部屋で考えを巡らせ結論を出した。辺境の地にいても後悔はないだろう。何年も頑張って地位も築いてきた。自分のやり方に、指導にとついてきてくれる部下達も沢山いる。知らない土地で、今の地位と環境を手放してまで挑戦すべきなのか、自問自答した。
「俺はな、お前の頑張りを、努力をこの目で見てきた。いずれ俺のあとを継ぐ男になるだろうと期待していた」
期待はずれだったと言われるのだろう。ソルディオは少しだけ俯くと、拳を握りしめた。
「お前はしっかりと期待に応えた」
ゆっくりと顔を上げると、そこには慈愛に満ちた表情でこちらを見るクレイドルがいた。
「娘はあと一年も立てば、二十歳になる。エルサが誰にも興味を持たず、そのまま二十歳を迎えたら、お前を婿として迎えることにしていたんだ」
クレイドルの言葉にソルディオは驚きを隠せない。次の言葉を待っていた。
「お前は婿としても申し分ない男だった。辺境伯家としてはな・・・だが」
クレイドルが言葉を切ったことに、緊張が走る。
「お前はエルサの心を掴めなかった。何故だかわかるか?」
クレイドルの優しかった目が、細められ、試されているようにも感じた。
「・・・地位でしょうか・・・それとも・・・いえ、だからダメだったのでしょうね。エルサ様の望むものに気付けなかった事、でしょうね」
「うむ・・・辺境領の騎士としては一流だ。だが、男としてはまだまだだった。お前は完璧を求めすぎたんだ。ソルディオという一人の男として、お前自身をさらけ出せなかった。強さはあれど、想いも弱さも、お前らしさをエルサに見せることができなかった」
そう、ソルディオは、エルサの前で完璧であろうとした。微笑みを絶やさず、常に寄り添う優しい男を演じていた。素のままでいること。そのままの自分を見せることができなかったのだ。けっしてコルテオがスマートにエルサの手をとったわけでもなく、見目だって飛び抜けていいわけではない。そのままの自分。弱いところも、ダメなところも。全てを見せて、それでもあなたがいいと想って貰える事がどれだけの奇跡なのか。ウィルフレッドも、第一王子であるヴィンセントも、まるで子どもかと思えるような行動も見せている。それでも女達は仕方ないわねと寄り添ってくれる。時には格好悪くても、ダサくても、全てをさらけだす。それを見て離れる女は上部だけしか見ていないのだろう。ソルディオはクレイドルの言葉に、気付かされ、少しだけ心のもやが薄れたようだった。
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