太陽と月の禁断

東 万里央(あずま まりお)

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第2部

08.大地と樹木(2)

 瑠奈の暮らす部屋は六畳一間の日に焼けた部屋だった。家具は恐らく古道具で最低限しか置かれていない。けれども洗面所のタオル類も台所の調味料も、あらゆるものが丁寧に整理整頓されている。きちんと暮らしているのだと分かった。それだけでもほっと胸をなで下ろしてしまう。

 けれども彼女が大好きだったはずのテディベアのぬいぐるみはない。雑貨も小物も花の咲く鉢植えもない。代わりに箪笥の上に写真立てが置かれていた。写真は旅先で撮影したものだろうか。花畑を背景に瑠奈を挟んで荘田のご両親が笑っている。十七歳まで彼女が手にしていたはずの幸せだった。

「麦茶しかないんだけどごめんね」

 瑠奈はローテーブルに盆を置いた。僕の向かいの席に腰を下ろし、グラスに入れたお茶を音もなく配る。かつて白く滑らかだった手はひどく荒れている。僕はまた胸がずきずきと痛むのを感じた。

「いいや、押しかけてきたのにありがとう。子どもは……大地君は大丈夫なのか」

 大地君の名前を聞き瑠奈の顔が一瞬明るくなり、またあっと言う間に曇ってしまった。

「うん、何とか持ち直したの。でも、慣れないね。あの子が苦しむのには、ずっと慣れない……」
「大地君は陽君の子供なんだろう?」
「……」
「なぜ陽君は君たちを放っておいているんだ」

 瑠奈はグラスを手に取り麦茶の水面を見つめた。

「……陽とはもう別れたんだ。あの子は、大地はわたしだけの子だよ」

 何でもないことのようにあっさりと答える。

「陽が気持ち悪いって感じるようになって、だから家を出てきたのよ。いくらカッコよくても弟だしおかしいでしょう。やっぱりないわって嫌になったのよ」

 お茶を一口飲み気まずげに僕から目を逸らす。

「もういいでしょう?お茶を飲んだら、帰ってください……。帰り道が危ないから、タクシー呼んでおくね」

 僕は瑠奈をじっと見つめた。

――君は、やっぱり嘘を吐くのが下手だ。

 細い肩が、手が、声がかすかに震えている。目が潤んで泣き出したいのを必死に堪えている。

「お茶、お代りをもらっていいかな」

 え、と瑠奈は顔を上げた。僕は三年間の社会生活で培った、対外用の笑顔を浮かべる。

「喉がかなり渇いていてね。もう一杯もらえると嬉しい」
「う、うん……。沸かさなくちゃいけないから、時間かかるけどいい?」
「ああ」

 瑠奈は戸惑いながらも台所へ向かった。
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