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21.スカーレットvs異世界転移者
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スカーレットは、短剣を構えたまま男を睨んでいた。
彼女にとっては見慣れない服装とはいえ、Tシャツとジーンズは戦闘をするための服装にはみえないのだろう。本当に剣を向けていいのかと迷いを感じているように思えた。
「相手は異世界転移者だ。遠慮なんてしていたら……あっという間にやられるよ」
そう伝えると、スカーレットは短剣を構え直した。
彼女も冒険者として、異世界転移者の恐ろしさは重ね重ね聞いているのだろう。
さて、僕は転移者でもウマになる程度の能力しか持っていないが、目の前にいるこのオタクはどうなのだろう。何か特殊な力を持っているのだろうが、まだ手の内がわからない。
「さあ、いくよぉ……オイラのヴァルキュリアぁぁ!」
そう叫ぶと、男は素手のまま向かってきた。
ちょっと待てと言いたかった。仮にもスカーレットは短剣を構えているんだぞ。戦闘訓練を受けている人間に丸腰で突っ込んでいくなど無謀もいいところだ。
スカーレットも、身体全体から張り上げるように声を響かせながら短剣を突き出した。
彼女の攻撃はオタクの腹部に突き刺さった……かと思いきや、肉を切り裂くどころか、Tシャツも切ることができないまま突き抜けていった。
「捕まえたあ!」
男が飛びかかろうとしたら、スカーレットは男の顔面に蹴りを入れ、翼の部分を軸にバックターンして、そのままバク転しながら距離を取った。
スカーレットの軽やかな身のこなしではなく、僕は蹴りを入れた瞬間に度肝を抜かれていた。
なんと男の顔面に、スカーレットの蹴りが命中したとたんに、顔だけでなくメガネまでクッションのように凹んで威力を削いでいたのである。
「く……なんて相手なの……まるで綿を蹴っているみたい」
「さっきので捕まえられなかったのざんね~ん、だけど……まだまだいくよお!」
男はそう言いながら腰を低く構えて突っ込んできた。
「このっ!」
スカーレットは短剣を突くのではなく、切り伏せる方法で対応しようとした。
その刃先が男の腕に命中していたが、腕を切り落とすどころか、本当にクッションでも攻撃したかのように『ノレンに腕押し』という状況になっている。
「ひゃあぁっ!」
「くっ!」
男もまたパンチをしてきたので、スカーレットは攻撃を受けた。
ワタのように柔らかい体なら……と思っていたが、今度はしっかりとパンチの重みがあるようだ。
今度はスカーレットの蹴りが男の脇腹に入ったが、こちらは脇腹が綿のように凹んで、威力が削がれただけでなく、男にしっかりと足を取られてしまった。
「くっ、このっ……!」
スカーレットは翼をバタつかせながら、男の腕から逃れようとしたが、なぜか足がぴったりと突いたまま動かない。
いや、さらに身体を引き寄せられて、男に密着されてしまった。
「くふふふふ……これでもう逃げられないよ。オイラのヴァルキュリアちゃん」
「はぁッ!」
その直後に、スカーレットは男にヘッドバッドを見舞ったが、男の不意をつくことは出来なかったようだ。
男の頭は綿のように凹み、逆にスカーレットが首筋を掴まれる形になってしまった。
「おしかったね……オイラのアビリティが手動型だったら、今のは決定的だったよぉ」
「何と言う……アビリティなの?」
「ひみつだけど……スモックとでも呼んでくれ。これがあるかぎり、オイラは不死身だね!」
そこまで言うと、男は笑った。
「では、天使のような君にも、オイラのヴァルキュリアになってもらおうか!」
そう言いながら、男がスカーレットを抱きしめると、スカーレットの身体は水晶のような塊に囚われ、そのまま小さくなっていき、通信が遮断された。
その光景を目の当たりにした、僕とキンバリーはがく然としたまま、何も映っていない水晶玉を眺めていた。
「…………」
「…………」
キンバリーは、やっとの様子でこちらを見た。
「今の力は……いったい……?」
「わかったことはただひとつ。僕と同じ存在がいるということだね」
そこまで言うと、僕はキンバリーを眺めた。
まだ会っていないが、彼女には両親や兄弟たちがいる。
恐らく、行方不明になっているクロエや、先ほど捕まってしまったスカーレットも、彼女たちの家族からすれば、代わりなどいない大切な存在なのだろう。
そこまで考えていたら、僕は無意識のうちに手をしっかりと握りしめていた。
彼女たちはゲームのNPCじゃないんだ。珍獣でも捕まえるようなノリで、オモチャにするんじゃないと、あのオタクのような風貌の男に説教したくなった。
「スティレット支部長のところに行こう」
そう言いながら立つと、キンバリーは眉根をつり上げながら僕に言った。
「待ってください! あの能力を見たでしょう……どうやって破るのです!?」
「確かに難敵だけど……放ってはおけないよ!」
僕が感情を高ぶらせたのには理由があった。
アキノスケが、こうして一般冒険者として呑気に生活できているのはキンバリーが側にいたからだ。
もしかしたら、僕の状況や所有アビリティによっては、同じことをしていたかもしれない。
自分の背中にHPやステータスが表示されていると知ったら、この世界の人間はNPCだと勘違いして、同じように人間狩りをしていたかもしれないと思ったら、呑気にしていることなんてできなくなってしまった。
【囚われたスカーレット】
彼女にとっては見慣れない服装とはいえ、Tシャツとジーンズは戦闘をするための服装にはみえないのだろう。本当に剣を向けていいのかと迷いを感じているように思えた。
「相手は異世界転移者だ。遠慮なんてしていたら……あっという間にやられるよ」
そう伝えると、スカーレットは短剣を構え直した。
彼女も冒険者として、異世界転移者の恐ろしさは重ね重ね聞いているのだろう。
さて、僕は転移者でもウマになる程度の能力しか持っていないが、目の前にいるこのオタクはどうなのだろう。何か特殊な力を持っているのだろうが、まだ手の内がわからない。
「さあ、いくよぉ……オイラのヴァルキュリアぁぁ!」
そう叫ぶと、男は素手のまま向かってきた。
ちょっと待てと言いたかった。仮にもスカーレットは短剣を構えているんだぞ。戦闘訓練を受けている人間に丸腰で突っ込んでいくなど無謀もいいところだ。
スカーレットも、身体全体から張り上げるように声を響かせながら短剣を突き出した。
彼女の攻撃はオタクの腹部に突き刺さった……かと思いきや、肉を切り裂くどころか、Tシャツも切ることができないまま突き抜けていった。
「捕まえたあ!」
男が飛びかかろうとしたら、スカーレットは男の顔面に蹴りを入れ、翼の部分を軸にバックターンして、そのままバク転しながら距離を取った。
スカーレットの軽やかな身のこなしではなく、僕は蹴りを入れた瞬間に度肝を抜かれていた。
なんと男の顔面に、スカーレットの蹴りが命中したとたんに、顔だけでなくメガネまでクッションのように凹んで威力を削いでいたのである。
「く……なんて相手なの……まるで綿を蹴っているみたい」
「さっきので捕まえられなかったのざんね~ん、だけど……まだまだいくよお!」
男はそう言いながら腰を低く構えて突っ込んできた。
「このっ!」
スカーレットは短剣を突くのではなく、切り伏せる方法で対応しようとした。
その刃先が男の腕に命中していたが、腕を切り落とすどころか、本当にクッションでも攻撃したかのように『ノレンに腕押し』という状況になっている。
「ひゃあぁっ!」
「くっ!」
男もまたパンチをしてきたので、スカーレットは攻撃を受けた。
ワタのように柔らかい体なら……と思っていたが、今度はしっかりとパンチの重みがあるようだ。
今度はスカーレットの蹴りが男の脇腹に入ったが、こちらは脇腹が綿のように凹んで、威力が削がれただけでなく、男にしっかりと足を取られてしまった。
「くっ、このっ……!」
スカーレットは翼をバタつかせながら、男の腕から逃れようとしたが、なぜか足がぴったりと突いたまま動かない。
いや、さらに身体を引き寄せられて、男に密着されてしまった。
「くふふふふ……これでもう逃げられないよ。オイラのヴァルキュリアちゃん」
「はぁッ!」
その直後に、スカーレットは男にヘッドバッドを見舞ったが、男の不意をつくことは出来なかったようだ。
男の頭は綿のように凹み、逆にスカーレットが首筋を掴まれる形になってしまった。
「おしかったね……オイラのアビリティが手動型だったら、今のは決定的だったよぉ」
「何と言う……アビリティなの?」
「ひみつだけど……スモックとでも呼んでくれ。これがあるかぎり、オイラは不死身だね!」
そこまで言うと、男は笑った。
「では、天使のような君にも、オイラのヴァルキュリアになってもらおうか!」
そう言いながら、男がスカーレットを抱きしめると、スカーレットの身体は水晶のような塊に囚われ、そのまま小さくなっていき、通信が遮断された。
その光景を目の当たりにした、僕とキンバリーはがく然としたまま、何も映っていない水晶玉を眺めていた。
「…………」
「…………」
キンバリーは、やっとの様子でこちらを見た。
「今の力は……いったい……?」
「わかったことはただひとつ。僕と同じ存在がいるということだね」
そこまで言うと、僕はキンバリーを眺めた。
まだ会っていないが、彼女には両親や兄弟たちがいる。
恐らく、行方不明になっているクロエや、先ほど捕まってしまったスカーレットも、彼女たちの家族からすれば、代わりなどいない大切な存在なのだろう。
そこまで考えていたら、僕は無意識のうちに手をしっかりと握りしめていた。
彼女たちはゲームのNPCじゃないんだ。珍獣でも捕まえるようなノリで、オモチャにするんじゃないと、あのオタクのような風貌の男に説教したくなった。
「スティレット支部長のところに行こう」
そう言いながら立つと、キンバリーは眉根をつり上げながら僕に言った。
「待ってください! あの能力を見たでしょう……どうやって破るのです!?」
「確かに難敵だけど……放ってはおけないよ!」
僕が感情を高ぶらせたのには理由があった。
アキノスケが、こうして一般冒険者として呑気に生活できているのはキンバリーが側にいたからだ。
もしかしたら、僕の状況や所有アビリティによっては、同じことをしていたかもしれない。
自分の背中にHPやステータスが表示されていると知ったら、この世界の人間はNPCだと勘違いして、同じように人間狩りをしていたかもしれないと思ったら、呑気にしていることなんてできなくなってしまった。
【囚われたスカーレット】
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