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第一部 勇者パーティ追放編

36 ネイヴァの助言

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 数日後、国王陛下から宣言されたアーサーとソニアの「相当に重い処分」について明らかになった。
 
 国民の大きな注目を浴びて、号外の新聞が飛ぶように売れていた。
 そこに書かれていた注目の内容とは。
 
 第四王子のアーサーは城の地下牢に幽閉されて、伯領領地権や王位継承権を剥奪され、事実上王家からの追放をされた。

 そして、ソニアは投獄よりも生活が厳しいと言われる、極北の一年中雪で覆われる修道院に送られて一生を神に捧げる生活をすることとなった。
 死刑は執行されなかったものの、両者とも死刑の次に重い処分が決定されたようだ。
 
 この決定に従わなければ最終手段である処刑の執行されることが誰の目にもわかるため、大人しく従うしかないだろう。
 
 国中を引っ掻き回しておいて、かなり甘い処分であるが、当人からすれば徹底的に性根を叩き直されるに違いない。アーサーは王子ではなくなったし、ソニアは極北の修道女となったのだ。
 
 現行の勇者パーティは解散が決定し、しばらくは伝説の勇者パーティが再集結して魔物討伐を行うらしい。ネイヴァは「伝説の勇者パーティの仲間にならないか」と誘われたらしいが「自分の力不足を痛感したから、一緒に行くことはできない」と言って断ったという。潔いのはネイヴァらしい。

「ロザリーは伝説の勇者パーティに誘われなかったのか?」

 聞いてきたのは、私の家へ遊びに来たネイヴァ。
 誰かと話の共有をしたかったから、うってつけの話し相手だ。

 魔道具屋のロウは最近忙しいようで、長期休業の看板が出てるんだよね。大魔法使いさまの影の相棒だから当然か。

「オフィーリアさまが家にいらっしゃって、直々に誘われたけど、私も断ったわ」

 オフィーリアさまは伝説の勇者パーティの聖女で第二王子の奥さまだ。事前に手紙でアポももらってたのに、申し出を断ったのはさすがの私も心が痛んだわね。

「どうして?」
「だって……伝説の勇者パーティが再集結するからいいんじゃない! 私が入っちゃうと水入らずに邪魔しちゃうでしょ?」
「そんなことはないと思うけど……」
 
 即座に否定してくれるのはネイヴァの優しさだ。
 
「伝説の勇者パーティの方々が尊すぎて、邪魔できないわ! もし、私の力が必要だったらソロ冒険者として協力するけどね」
 
 私の力説に、ネイヴァはやれやれと静かに息を吐いた。
 
「ま、ロザリーらしいといえば、ロザリーらしいか」
 
 そう言って、口元に笑いを滲ませている。
 勇者パーティを脱退したときも、ネイヴァには先に事情を話しておければ良かったのになと思う。そんなことはあのタイミング的には無理だったけど、しっかり話せば彼女なら理解してくれたのに。
 
「今日私がこうして来たのは、ティータイムを楽しむだけじゃなくて、一つ物申したいことがあったんだ」
 
 ネイヴァはカップの紅茶を一口飲むと、新しい話を切り出してきた。
 
「どうしたの? 急に改まって……」
「ロザリーが気づいていないみたいだから言わせてもらうけど……」
「私が気づいてない? 何、それ?」
 
 まったく心当たりがないから恐い。でも、心当たりがないから、親切にも教えてくれるのだろう。
 
「あの、魔道具屋の店主のことで……」
 
 ネイヴァが硬い顔をしているから反射的に構えちゃったけど、拍子抜けした。
 
「なんだ、ロウのこと? 本人から聞いてるよ!」
「え? 本人から聞いている?」
 
 怪訝そうな顔で問い返されたけど、私は自信を持って答えた。
 
「実は大魔法使いさまの影の相棒って話でしょ!」
 
 正解を当てるつもりで自信満々に言ったのに、今度はネイヴァがすててーん! と転げた。
 付き合いの長いネイヴァはすぐに気を取り直して、聞き返してくる。
 
「大魔法使いさまの影の相棒? それは魔道具屋の店主がそう言っていたのか?」
「そうよ! 大魔法使いさまの影の相棒みたいなものだって!」
 
 『みたいなもの』って曖昧な表現は若干気になるけれど、本人がしっかりと認めた。言質は確かに取った。間違ってはいないはずだ。
 
 今度はネイヴァが大きな溜息を吐いた。彼女は「まったく、損な役回りだ……」と小さくぼやいて、言った。
 
「どうしてこんな風に話がこんがらがったのかは置いておく。私は冗談言わないからな。落ち着いて聞いてほしい」
「う、うん……」
 
 ネイヴァの顔の迫力に負けてこくこく頷いた。
 
「魔道具屋の店主のロウさまが大魔法使いさまご本人だよ」
「え、え――――――!?」
 
 ありったけの声で叫んだ。
 頭の中が真っ白になるとは、まさにこのことだ。
 
 ロウが大魔法使いさま!? そんなのありえない! 憧れの大魔法使いさまが、実はこんなに近くにいた?
 今まで大魔法使いさまにどんな態度を取ってた?
 
 頭に浮かぶのは数々の無礼な言動たち。私、大魔法使いさまを中級の魔物討伐に誘って「あんたやるじゃない!」って言った……。他にもピーなことや、ピーなことまで。や、やばい!
 
 恥ずかしい! 恥ずかしいを通り越して、穴の中に隠れたい。むしろ頭まで埋まりたい。
 どんな顔でロウに会えばいいの? いや、恐れ多くて会えないよ!
 
 過去の自分に戻って、最初からやり直したい!
 なぜ、私よ、気づかなかったの? 大魔法使いさまなら、そもそも影の相棒なんて必要なくて、ご本人だけで十分じゃない! そんな簡単なことくらい、どうしてわからなかったの? 私の鈍感にも程があるわ!
 
 天井の梁(妖精のリアが来客があったときに身を隠す)へ視線をやると、顔を覗かせたリアと目が合った。特に驚いていない。むしろ、やっと気づいたとでも言うかのようにホッとした顔だ。ということは、彼女もとっくにロウの正体を知っていたんだわ!
 
 そもそもロウが妖精のリアを見えたのも、大魔法使いさまだったからだ。大魔法使いさまである証拠が芋づる式に出てくる。
 
 リアだけじゃなくて、他にも私とロウが一緒にいるところに接触した人物がいる。

「フィアルから『悪いことは言わないから、ロウさんには失礼がないように』って言われたことがあるの。それって……」
「それは、彼なりの忠告だったんだろうな。大魔法使いさまの正体に気づいてほしいっていう」
 
 ネイヴァの冷静な分析を聞いて、もはや頭を抱えたくなった。
 やっぱりそういうことですよね! あのときのフィアルの忠告も見事にスルーしてしまったわ!
 あああああ! 私史上最大のやらかしかもしれない!
 もしかして、気づいていなかったのは私だけってこと~!?
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