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真実を知った俺

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 はじめて逢った時シルファが言ったように俺たちは二人で宴に参加した。シルファが第3師団の軍人だからかそこまで格式張ったものはなく、俺もそんなに緊張せずに参加することが出来た。
 たまに、要塞にいた兵士が実は貴族の子息だったり、見たこともないケモノがいたり、思ったより同性カップルが多かったりと驚くことも多かったが概ね順調にことは進んだ。これまで外に出てこなかった俺を見ようとたくさんの人に会ったが、父からの叱責がないところ見ると、そこそこ評判は良いようでほっとした。

 砂浜での夜を過ごしてから俺たちはもっぱら要塞で逢っていた。本屋敷まで行く必要がなくなった俺は気が楽になった。塔の前でシルファを出迎え二人で砂浜まで降り、散歩をする。リタが用意してくれたランチボックスと敷布を敷いてそれを平らげると、相変わらず俺たちは会話もそこそこに身体を求め合っていた。さすがに最後まではしていない、それでも徐々にではあるが俺の身体が変わりつつある。
 シルファに触れられるだけでアナルが疼く。中に欲しいと収縮してしまい、シルファの指を食いちぎらんばかりに締め付けてしまう。婚約中ではあるがまだ婚姻前で、これは政略結婚ではなかっただろうか?とぐるぐると頭を悩ませる夜もあるのだが、シルファに逢うと一切忘れてしまうのが、時折恐ろしい。番とはこんなにも気持ちを強制させてしまうものなのだろうか?

「疲れた?」
「大丈夫、まだ平気」

 宴の最中であることを忘れて物思いにふけっていたら心配されてしまった。これではなんのために宴にきているのか分からない。頭を切り替えて笑顔を見せるとシルファも答えてくれた。
 傍から見れば十分仲の良い婚約者として見えるだろう。実際仲は良いはずだが、やはり父の影響かこの婚約に納得していない人たちも中にはいる。
 その筆頭が義妹なのはなんの冗談なのかと頭を抱えるのだが……


 塔で逢うようになってからしばらくして、義妹が突然塔を訪れた。

「あなた、シルファ様に我儘を言っているんじゃないの?こんな汚いところに呼び出すなんてどうかしてるわ」

 義妹の言葉に意味がわからず首を撚ると、義妹はハンカチで口を抑えながら続きを話しだした。

「別にあなたじゃなくても良かったのよ?シルファ様の婚約相手は。お父様が頑固だからこんなことになってしまいましたけど、今お母様が説得してくださってるの」

 やっぱり何を言ってるか分からない。というか、匂いが辛いのは俺の方なんだが……鼻で息をしないようにして話を聞いていたが彼女の言うことは理解した。つまり彼女はシルファのことが好きなんだろう。あの父が義母の説得ごときで彼女と婚約させるとは思えない。ケモノを嫌う父がシルファを跡継ぎの父親にするはずがない。そう考えるとやはり男の俺である必要があったんだろう。なんせ、王命。断ることは出来なかったと思われる。
 跡継ぎか……俺はどうすべきなんだろうなぁ。このままシルファと結婚し家を継ぐことになっても結局はこの義妹の子を跡継ぎにするんじゃないだろうか?だったら最初から俺が後を継ぐ必要もない。目の前の義妹をよそに思案していたら彼女が激昂した。

「ちょっと話を聞きなさいよ!あなたは知らないかもしれないけど屋敷にいらしている時シルファ様と私で跡継ぎのことも話しているのよっ」
「え?」

 跡継ぎのことを考えていたからその言葉に反応してしまった。シルファが彼女とそんな話を?俺とはそんなこと話したことないのに?

「ふふっ驚いたでしょう?あなたが彼に執着してるみたいだから言っておくけど別にあなたじゃなくても良かったって彼も言ってたわ」

 それはないだろうなぁと心に思ったけど口には出さないでおく。

「だから、あなたなんて必要ないの。お父様からも実の母親からも捨てられたあなたなんて、いなくなってしまえばいいんだわ」

 それとこれとに何がつながるのかやっぱり彼女の言ってることは分からない。

「話はそれだけ?俺、具合が悪いから帰ってくれない?」

 面倒になった俺は彼女の目の前で扉を締めた。心配していたリタを宥めて部屋に籠もる。
 実際このところ調子は良くなかった。熱があるような火照りとだるさ、それに目眩がする。シルファに逢うと落ち着くのだがこれはケモノ特有の病気かなにかだろうか?
 医者にかかることも考えたが父が用立ててくれるはずもないので、シルファの来ない日は引きこもることで回復を図った。


 義妹のことを思い出していたからかまた具合が悪くなってきた。さっきは大丈夫と答えたもののやはり熱っぽい。シルファに断りを入れて外の風に当たろうと庭に出た。今日の宴の会場は第1師団長の屋敷でアキピテル家と同じくらいの規模の大きな屋敷だった。中央には大きな噴水、その周囲は丁寧に刈り込まれた植栽が迷路のように入り組んでいる。離れたところにある四阿に人影があるのでそちらは避けようと噴水に腰掛けた。
 涼しい風が心地よく、星を眺めていたら四阿からさっき見かけた二人の男女が広間へ向かって歩いているのが見えた。植栽の影ではっきりとはしないものの声は風が運んでくれた。

「それで?あの家はいつになったら君のものになるんだい?」
「あのケモノを追い出してからでないとダメよ。せっかく入り込んだのに15年もかかってしまったわ」

 聞き覚えのある声が聞こえた。まさかあれは義母?しかし相手は父ではなさそうだ。その割に二人の間に漂う匂いは淫靡なモノのように感じる。

「しかしまさかあのケモノ嫌いがまさか純粋なヒトではなかったなんてよくわかったね」
「犬を飼ってるのよ、ふふっ」

 どういうことだ?ケモノ嫌いってまさか……

「ケモノの種を孕んだっていうのに、悪い女だな」
「やだ、そんなわけないじゃない。あの子は貴男とのときの子よ、計算が合わないことにも気付かないなんてあの人もさすがケモノの血を持つだけあってバカよね」

 笑い声が遠ざかる。あの声は義母に間違いないだろう。広間の明かりでうっすら見えた姿も彼女に間違いない。なら今の話はなんだ?ケモノは母ではなく父の血ということか?
 なら、なぜ母は死ななければならなかった?なぜ、俺は塔に幽閉同然で過ごさなければならなかったんだ。熱により朦朧とした頭で考えても答えは出ない。ただただ先程の彼女たちの会話が脳内で駆け巡る。
 
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