幸福を知らない俺は不幸も知らない

三谷玲

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喜びを知った俺

 宴の次の日、俺は本格的に熱が出て塔の部屋で寝込んでいた。心配しているリタや友人たちが顔を出すがそれに答える元気もなかった。

「ソラハ様、私やはり旦那様にご連絡してきますね」

 そう言ってリタは部屋を出た。友人たちはなにか言っているがそれを聞こうにも聞き取れず、申し訳ない気分でいっぱいになる。

「ごめんな、後でちゃんと聞くから……寝かせて……」

 怠い身体を横たえる。ふいにシルファを思い出してはあらぬところにまで熱を感じて身悶える。滴り落ちる汗にまで感じてしまい、息が上がる。

「はぁ……はぁ……しるふぁ、あっ……」

 熱のある身体でこんなことをしていいのかと考える余裕もなく、寝間着の中に手を入れて、ペニスを握る。すっかり育ったそこが汗かなにかでベタついてる。ぐちゅぐちゅと音を立てて扱くが、イくにイケず、俯せになり腰だけを上げて疼くアナルに指を這わせた。自分で挿れるのは初めてで、緊張した。
 ぬるっとした液体が溢れ、俺の指がするりと吸い込まれる。射精したわけでもないし、汗にしてはぬるりとしている液体に驚いたが、挿れた指の快感のほうが勝っていて、俺はそちらに集中した。扱くペニスと同じリズムで指を出し入れする。シルファほど長くも太くもない指は難なく俺のアナルにすべて入ってしまった。

「っや、ぜんぜん、とどかな、いっ」

 シルファが弄ってくれるようには動かせず、次第にイライラしてきた。足りない、もっと……
 前も後ろもぐずぐずに溶けているのに決定的な快感が得られず、俺は泣き出した。

「もっと、ふといのぉ……しるふぁの、ほしいのぉ……」

 求めるものが得られず、それでも動くのが止められない俺に、外の様子を気遣う余力は残ってなかった。

 突然、ばんっとドアが開いたかと思うと数人の男が俺の目の前に現れた。見知らぬ男達は俺の痴態を目の当たりにしてニヤニヤと下品な笑みを浮かべた。

「な、なに?だれ、っゃあっ」

 ほとんど用をなしていなかった寝間着をかき集めて身体を覆い、傍にあった毛布を掴もうと手を伸ばした。
 しかしその手は男の手に阻まれ俺は組み敷かれた。

「襲ってくれって言われたけどもう準備万端だったなぁ、ああこりゃ発情期じゃねぇか」

 男が何事か口にして俺の身体を撫で回す。
 気持ち悪い……熱を帯びた身体は先程まで自分が触れればどこでも快感を拾えたのに、その男の手はやけに気持ちが悪かった。

「おい、さっさとやっちまおうぜ」
「男のΩがイイってのは本当か?」

 撫でさする男の後ろで別の男たちが話し出す。なんのことを言ってるんだ?組み敷いた男が俺の頬に舌を這わす。べろりと舐められ鳥肌が立った。

「女よかよっぽど具合がいいぜ。しかも体力はある。結構無理なことも出来るぜぇ」

 男は俺の身体の汗を舐め取りながら言うと俺の寝間着を破り肌を顕にさせた。

「は、離せっ!さっき、から……なに言ってんだよっ……うっ」

 組み敷く男の身体を押しやろうと伸ばした腕を別の男が捕まえる。足で蹴ろうとすればその足も捕らえられ、強引に開かされる。

「くそっ。やめ、ろっ。触んなっ!」

 バタつく俺を無視して男どもの手が俺の身体を嬲る。

「あんたはあんたの家族に売られたんだよ、Ωは俺みたいなαの子供を孕むための道具にすぎないんだからなっ」

 真上に居る男が俺の乳首を捻り上げる。叫び声を飲み込むと男の言葉に聞き覚えのある単語を捉えた。

「あ、あるふぁって……孕むって、どういうことだよ」

 男は俺のアナルに指をいきなり突っ込んでそれをぐるりと中で一回転させた。

「そんなことも知らないのか?何だあんた、自分の第二性もわかってねぇのかよ。はっ。あんたは俺たちαの孕み腹なんだよっ!ここで、精子を受ければ、あっという間に妊娠する。Ωってのはそういう生きもんだ」

 アナルに挿れた指を二本にしてぐりぐりっと前立腺を押しつぶす。強制的に与えられて俺のペニスが勃ち上がる。
 こいつは今なんて言った?俺のことをΩと言わなかったか?αの孕み腹?そういえばあの時ラウルは言わなかったか、αって、シルファのこと……

「っっ俺は、男だ!くそっ、離せよっ」
「本当に何も知らないんだな、なんだ、あの第3師団の副団長とはまだヤってなかったのか?マジかよ。処女か、はははっこりゃいいや」

 シルファのことを言われて俺の身体が冷える。そうだ、婚約者のシルファ以外に身体を明け渡すなんて冗談じゃない。
 しかしこの男の言ってることが本当なら、俺はシルファの子供を産める?αだとかΩだとか分からないことだらけだが……

 男たちに犯されかけている、その最中にも関わらず俺の身体が歓喜で震える。

(シルファの子供が産める?俺とシルファの子供……)

「今更怯えて震えたって、もう遅ぇよ」

 勘違いしてる男のことなど、今は頭になかった。

(嬉しい……シルファの子供が産めるなら、一緒にいられる)

 俺の心の中など知らない男が汚いペニスを出し、それを俺に近づけようとした、まさにその瞬間だった。
 窓から一羽の黒い烏が飛び込んできた。その勢いのまま男の頭にくちばしを刺す。驚いた男の身体が少しだが退いた。俺はその瞬間を見逃さなかった。
 後の二人も烏に驚いたのか腕の力が抜けていて、俺はその手を振りほどいた。すでに寝間着は下だけが足首に掛かっているような状態だったが構うもんか。
 俺は烏が入ってきた窓の方へと必死に駆け寄った。

「逃げられると思ってんのか?その下は断崖絶壁じゃねぇか」

 男がゆっくりとした足取りで近寄って来る。俺はそれににやりと笑う。

「お前らに穢されるくらいなら死んだほうがマシだ」

 俺は塔から飛び降りた。
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