19 / 69
大公邸の絶対に入ってはいけない部屋。
しおりを挟む「続いてユウェルたんに案内したい場所がある」
「へぇ、どこ?」
お人形さんを片付けて俺みゅーじあむを後にすれば、さらにシェルが案内をしてくれるようだ。
今度はどこへ?お気に入りのバルコニーかな。それとも庭に用意されたいい感じのガセボとかかな。いや、しかしそれは異世界ファンタジー貴族のお屋敷のテンプレ。この一興発狂突拍子のないシェルがそんなテンプレな場所に俺を案内するか?
――――――それにいい感じのガセボならもう2人でお茶したしなぁ。違う。確実に違うだろう。しかし先ほどの俺みゅーじあむの他に、もしくはそれを凌ぐトンデモなものがあるか?
今度こそ俺の写真肖像画コレクション?
それとも俺の使ったスプーン&おパンツコレクションルーム?
「ここだ」
案内されたのは、何か怪しい扉の前だった。何か周囲の壁も怪しい紫色なんだけど、何ここ。どこ、ここ。同じ大公邸の中だよね。雰囲気様変わりしてるんだけど。
例えるならば異世界ファンタジーお馴染みのなんちゃって王城から何か趣のある魔王城に一瞬にして転移しちゃった感じ。
転移はまぁしてないけど。
でも何だ?この怪しい空間、そしてショッキングピンクの扉はっ!!
「何、ここ」
「ここは、大公邸の絶対に入ってはいけない部屋だ!」
は?
「カギかけとけばいいんじゃない?」
「えと、その」
何でもじもじしてるんだろう。シェル。
「ここは絶対に入ってはいけないんだ!」
何があるのかは分からないが、当主のシェルが言うのなら。
「分かったよ、入らない」
むしろ入りたくないわー。何が潜んでいるか分からないし。危ない橋は渡らないようにしないと。
「う、うむ。では私は少し外す。ユウェルたんはそこで待っていてくれ」
「え?」
「ぜ、ぜぜぜ、絶対に扉を開けてはならないぞ!」
「あ、うん」
何か様子が変なのだが。どういうことだろう。
あと、俺戻っちゃダメかな?このまま怪しい空間で待ってなきゃいけないの?
「ぜ、絶対だぞ!」
「わ、分かったって」
再度頷くと、シェルがそそくさとその場を立ち去る。いや、本当に何なんだろう?変なの。
――――――5分後。
いや、本当にシェルは何をしたいのだろう。
大人しく扉の前で待っているのだが。
いる。
確実に、いる!
気配めっちゃするし、曲がり角の向こうからちらちらっと覗く、シェルの服の裾や靴。
しかも時折じっとこちらを見つめたり、ハートを飛ばしたり。目が合うとさっと姿を隠したのだが、5分間ずっとそこにいるんだけど何がしたいんだ――――――っ!!!
いや、何だろう?何して欲しいんだ?
「シェールたーん、おーいーでー」
とりま、呼んでみる。
『私は今席を外しているから、ここにはいないぞ!』
ドテッ。曲がり角の向こうから、シェル本人の声がした。本当に何がしたいのシェルううぅっ!
「じゃぁ俺がそっちへ行くから」
と、曲がり角まで行こうとすれば。
『ダメだ!そこを動かずに待つのだ!絶対にそこを動いてはいけない!そして絶対にその目の前の扉を開けてはいけないいぃっ!』
「だから開けないってば」
『な、ならば良いっ!』
――――――さらに3分後。
『あ、開けぬのか』
「え、だって開けたらダメだって」
『それは、そうなのだが』
何だろう、敢えて開けて欲しいのかな、この人。
「こっち来たらちゅーしてあげるけど」
ちゅーで釣ってみる。
『ぐはっ、ユウェルたんのちゅーユウェルたんの、ちゅうううぅぅぅ――――――っ!!!』
曲がり角の向こうから、とんでもなく苦し気な声が響いてくる。そんなに俺のちゅーが欲しいのか。しかしこれでも来ないとは。
「ほら、開けたよ」
と、言って見せれば。
「遂に、開けてしまったのか。ユウェルたん。だが、見られてしまったのなら仕方がない」
あ、普通に出てきた、シェル出てきた。
「戸惑っていることだろう。この秘密だけはユウェルたんに知られたくなかった」
ほんとに?何かむしろ知られて嬉しいみたいに頬がにやけてるよ。普段無表情で動かない口角がにやりと動いてるんだけど。
「だが見られてしまったのなら私も決心を固めることに……っ」
シュタタタタッ。
俺は素早くシェルの元へと駆けた。
「あれ、開いて、いない?」
シェルも気が付いたか。
シュタタタタッ。
がばっ
ぎゅむっ
はい、シェルたんげっと~。ほっかく~。やったねっ!
「ユウェルたん、扉開けてない?」
シェルも気が付いたらしい。扉が開く音がしなかった以上気が付くと思ったのだが。俺の開けたの声にまんまと騙されてしまった。
あの、大丈夫だろうか。一応騎士団の1部隊の隊長なんだが。俺限定であれれな感じになるんだろうか。まぁあり得なくもないけど。何せ俺のストーキングに精を出しまくってるんだもんね。
「でも、ユウェルたんが自発的に抱き付いてくれたナウ……っ」
ぽっ。
嬉しそう。嬉しそうにしっぽ振ってるシェル犬の幻影が見える。
「そんなに開けて欲しいなら、一緒に開けようよ」
「な、何故分かったっ」
いや分かるわー。バレバレすぎるわもぅ。
隠れてるのもバレバレだったし。
「俺はシェルたんの嫁っ!」
「うんっ!!」
はい、シェルたん陥落っと!
そして2人でショッキングピンクの扉の前に立つ。そしてシェルがポケットからアンティークなカギを取り出し扉の鍵穴に差し込み回すと、ガチャっと音が響き、扉が開かれーー
――――――いや、カギないと開かないならどっちにしろ俺開けられないじゃんっ!?
さっきのシェル希望の展開にはどうあってもいかないじゃん!?
せめてカギは事前に開けとくかそれとなくカギの場所教えとくとかあんだろ――――――っがっ!!
応援ありがとうございます!
5
お気に入りに追加
1,380
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる