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終幕後03 アーヴァイン大司教の活躍

10. リリーの結婚と地方貴族の諍い 1

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「リリー、見合いをしてみる気はありませんか?」

 そうアーヴァインが切り出したのは、彼女が実家から逃げ出して二年ほど後のことだった。

「見合いをしたからと言って、絶対に結婚しなければいけないというものではありません。お互いに相性というものがありますからね。それに主導権はあなたにありますから、気に入らなければお断りしてくれて構わないです」

 リリーは嗜虐性のある男に売られるような形で、嫁がされかけた経験があるので、慎重に説明する。上手くいきそうならば嫁げば良いし、そうでなければ断れば良いと。

「今回のお話は、私が望まれているからきたものでしょうか?」

「いいや、そうではない。良い女性をと頼まれて婚家で上手くやっていけそうだと判断して話しています。ただしお相手と家に問題があってね。だから断ってくれても何ら問題無いとも思っています」

 問題という単語を聞いて、リリーがびくりと肩を震わせるのに気づいて、アーヴァインは優しく微笑む。

「少し前に小麦が高値になって、食糧危機になるのではないかと、騒がれたことは覚えていますか?」

「ええ、覚えています。野草を食べて凌いだことですね」

「その野草を食事に取り入れて、国難とも呼べる事態を終息させた家と確執がある家です」

「……そのせいでお相手がいなくて、私のような家を飛び出した娘しか選べないということでしょうか?」

 その当時、まだ社交界に顔を出していなかったリリーは、功績のあった家の事を知らないが、アーヴァイン大司教が国難と言うくらいだから、収束させた功績は計り知れないだろう。そんな家との確執ともなれば致命的なのは、世間知らずな小娘でも判ることだ。

 自分がいつまでも世話になり続けているから負担になったのだろうか?

「確執の方は取り成すことができるから、リリーが気にしなくても大丈夫ですよ、筋道はつけています。お相手の方も、そんなに悪い相手ではないのですよ。ただ出自に問題があって、上手くやっていける女性を探すのが難しいだけです」

「出自の問題といいますと……?」

「いわゆる庶子です。当主の奥方は子供を一人しか産めなかったので、万が一のためにと家の外に、もう一人子供を作ったのです。そして嫡子が早逝したために、庶子が急遽、家を継ぐことになったのです。それと母親は平民です。当主の援助があったため、それなりに裕福な暮らしを送っていましたが」

「まあ……」

 それは苦労するだろうと思う。

 貴族と平民では考え方も生活習慣もまるで違う。貴族として生まれ育ち、修道院で手を荒らしながら、平民出身の修道女と一緒に仕事を覚えたリリーだからこそ、その違いはよく判る。

「あなたを花嫁に推そうと考えたのは、相手を見る努力をするからですよ。母親が平民だからというだけで見下したりはせず、相手の内面を見ようとするところが好ましいと思うからです。お相手のことを調べましたが、周囲の評判は悪くない。働き者の好青年です」

 アーヴァインがそう言うなら問題のない相手なのだろう。

 気がづけばお受けしますと返していた。
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