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へっぽこ召喚士の相性探し③

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 翌日からミアは魔獣達との時間だけでなく、仕事の合間に騎士達の元にも足を運んだ。

 訓練の様子を見て、どの騎士がどんな立ち回り方が得意なのか、何を苦手とするのか。

 それを知った上で、魔獣達の特性を調べ上げ、相性の組み合わせに試行錯誤を繰り返す。付き合いを続けて一週間も経てば、何となく相性が見えてきていた。

 それだけでなく騎士達にも協力を仰いで、少しでも人馴れするように魔獣達と接する時間を作ってもらった。

 日を重ねる毎に、怯えていた魔獣達も徐々にだが警戒心を解いていく。



「おお~前に比べて近づいてきてくれたぞ!」


「俺なんか、お辞儀を返してくれたぜ」


「賢い奴らばかりだな~」



 ミアのようにベッタリと懐く様子はまだ見られないが、騎士達も心を開き始めた魔獣達に、嬉しそうな笑顔を浮かべるようになった。



(微笑ましい光景だなあ~。まあ、後は……)



 奥の檻に顔を向けると、騎士達に背を向けて眠るフェンリルの姿がぽつりとあった。

 今回の訓練を提案した張本人だというのに、依然頑なに人間を嫌っている。

 無理強いはさせるつもりもないミアは、彼も時間を掛けて人馴れさせていこうと計画を練ることにした。

 あっという間に騎士達の休憩時間も残り僅かになり、一番人馴れしているスノウベアを檻から出して、散歩がてら騎士達を訓練場まで見送ることにした。


「ミアちゃんがここに来てから、色々と変わったなあ」


「そうなんですか?」


「魔獣達の世話係で揉めたりとかあったからさ。その分、平和になったというか」


「心が穏やかになった。うん、すごく穏やかになった」


「団長も何か変わったような?」


「何かと訓練場にも顔出すようになったよな。冷や汗止まんねえけど……」



 リヒトに怯えるのは自分だけではないんだと苦笑しつつ、訓練場に戻っていく騎士達を見送り、気持ちいい風を浴びながら、人気のない道を選んで散歩する。

 時折聞こえてくる騎士たちの声に、いつかあの訓練場で魔獣達と一緒に訓練する皆を想像したら、不思議と気持ちが弾む。



「ふぎゅっ」


「ん?どうしたの?」



 想像を膨らませていたミアに、突然スノウベアが後ろに隠れるように移動して、我に返る。

 気がつけば、ぐるりと一周してきたようですぐそこに獣舎が見えた。

 様子がおかしく、中々動こうとしないスノウベアを、仕方なく抱き上げて獣舎へと戻る。

 震えるスノウベアを宥めるように、獣舎の中へ入った途端、ミアの体もビクリと震えた。



「どうやら……サボっていたわけではなさそうだな」



 扉に背を預けて、帰ってきたミアに半ば呆れ声で声を掛けたリヒトの姿に、背筋が伸びる。


「だ、団長……なんで、その、ここに?」


「上司が部下の様子を見に来ることが、そんなにおかしいか?」


「すっ、すみません!」


「相性探しだか知らないが、一体何を企んでいるつもりだ」


「それは理由がありまして……!」



 説明するものの先日の説教のことだけでなく、部屋のしかもベッドの中に入り込んできたリヒトと、どう顔を合わせていいのか分からないミアは、目を泳がせるしかできない。

 その場から動こうとしないミアに、溜め息を零しながら近づいてくるリヒトは明らかに不機嫌だ。


(相性調べで、私ったら何かやっちゃった……?!)


 これまでの自分の行動を改めて思い返すが、これといって思い当たる節がない。

 だが、目の前にいる上司が不機嫌ということは、何かやらかしている可能性が高い。

 怒られる覚悟で下唇を噛み締めていると、力強く腕を引かれ、リヒトとの距離が急激に縮まる。



「魔獣達の訓練……か」


「……?!」


「その相性調べのせいか、無性にお前に腹が立っている……あいつらと楽しそうに会話している時なんか特にだ」


「えっ、えっと……??」



 怒りの原因が不明すぎるあまり、ミアは思わず困惑を滲ませた声を漏らし、見下ろしてくるリヒトの顔の近さに全身が熱くなる。

 前に見た甘えた瞳とはまた違う、力強いその瞳に吸い込まれそうになるのをぐっと堪えるので精一杯だ。



(っ……溺れてしまいそうっ……)



 その深い青に息をするのも忘れてしまいそうになる、全てを飲み込むその瞳。一度目を合わせたら、絶対に逸らせなかった。

 ミアのペリドットの瞳がキラリと揺れ、僅かにリヒトの眉が動き、彼の頭には尖った獣耳が顔を出す。



「だん、団長っ……耳がっ」



 声を振り絞るミアに、自由を与えるかのように自分から一瞬だけ目を逸らしたリヒトは、そのまま勢いよく彼女を抱きしめた。

 先日の自室での出来事といい、何がどうなっているのか分からず、されるがままのミアは頭がパンクしそうだ。

 悲鳴を上げようにも、魔獣達が反応してしまう事を考えて必死に我慢していると、離れたリヒトはミアの頭をぐしゃりと撫で回したかと思えば、不敵に笑う。



「続きはまた明日だ。じゃあな」



 どこか満足そうに去っていく彼の後ろ姿が見えなくなった所で、檻に背を預けながらズルズルと崩れ落ちる。



(な、なんだったの……)



 高鳴る心臓は落ち着くことなく、体は熱を帯びる。腕の中で鳴くスノウベアが、その体を擦り付けて冷まそうと試みるが、中々熱は引かない。

 真っ赤になった顔を誰にも見られなくて良かったと思いながらも、リヒトが言った明日が少し不安になる。

 夕方、獣舎に訪れたユネスが、野外での訓練を明日行うことを知らされた上に、リヒトからとある指示を出されたミアは、頭を抱えることしかできなかった。


 
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