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2話 西部戦線異状なし(後編)
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しばらくすると、青年はもうボロボロになっていた。服も靴も、髪の毛も少し焦げている。しかし、何故か面白そうに笑ってる。
次の瞬間、煙幕で目の前が見えなくなる。数十秒後には視界は開けたものの、青年の姿はそこには無かった。
「ゲボッ……逃げられた……ってレオンハルト大丈夫? 」
近くで横たわってるレオンハルトを揺さぶるが、反応がない。
「おい、お前ら帰るぞ」
煙で気づかなかったのか、近くにいたアンドリューが仏頂面で腕を組みながらそう言う。
「アノニマス中佐?! 」
先程のこともあり、本物か確認する為に、敢えてアンドリューが口癖のように、呼ぶなと言っている彼の苗字を呼ぶ。
「あ゛あ゛あ゛? 苗字で呼ぶなって、いつも言ってるだろ。何度も言わせるな……次、苗字呼んだら、配給無しな」
アンドリューはかなり不機嫌そうにそう言ってから、舌打ちをした。どうやら目の前にいるのは、本物のアンドリューのようだ。
「すみません。アンドリュー中佐。さっき変な敵がいたので、確認の為に呼びました」
「あ、聞いてください!レオンハルトが被弾して動かないんです……今すぐ病院に運ばないと……」
「……その必要は無い」
その声と同時に銃声が響き、足に激痛が走り、その場に崩れる。そして間一髪入れずに、再び銃声が響き、腕が動かなくなる。
「これでもう能力使えないねぇなぁ?」
アンドリューだったら、絶対しないような表情と口調でそう言う。
「確認したのは偉いねぇ……でも、甘い。信頼してる上官でも、急に現れた時はすぐに信頼してはいけないよ~」
喋り方から考察するに先程の青年だ。ミカエラはしくじったと思った。
「これで終わり。最期に残す言葉は?」
艱難辛苦の続きだったが、案外楽しかったことも多い自分の人生もここまでなのか。
「……アンドリューさんや、他の仲間達は無事ですか?」
「ああ、アイツなら今頃お前らを探してるよ。他の人間も元気だ」
その言葉と同時に、何発かの銃声が響き、鮮やかで生ぬるい血飛沫が頬にべたりと張り付く。
薄れゆく意識の中、痛みと共に昔の記憶が走馬灯のように蘇る。どれも泣きそうな程懐かしく、二度と戻らない幸せだった日々。ミカエラは、もう死が近いことを強く実感した。
ふと、戦場に行く前に大切な人と交わした『生きて帰ってきてね』という約束を思い出した。
そうだ……生きねばならない。どんなことがあろうとも。決して死んではいけない
ミカエラは、もう一度立ち上がろうと体を無理やり動かそうとするが、もう限界を迎えているのか、身体は力が入らず、泥沼に落ちた紙のように溶ける感覚を覚え、足は糸が切られたマリオネットのように動かない。
瞼も勝手に下がって視界も灰色に霞んで見えなくなり、酸素さえ肺に詰め込もうとしても、喉あたりで止まり息苦しい。それなのに、頭だけはしっかりしているらしく、色々な感情が一気に溢れ出してきた。
ああ、やっぱり本当は、死にたくない!死にたくない……死ぬんだったら、もう一度あの子のあの子の顔が見たい。
……なんでこんなよく分からない得体の知れない能力者に……殺されなきゃいけないんだ……
……そして何よりも……自分が居なくなると……あの子……は……本当に……独りぼっち……に……なってしまう……そんなのあまりにも!あまりにも……!ぼく……は……まだ……しねない……あのこをのこしては……いけない……
あの子の太陽のような眩しい笑顔と同時に、自分が死んだ後のあの子の姿が脳内に浮かぶ。きっと、あの子は自分が死んだら跡を追うだろう。それを想像すると、胸は撃たれていないはずなのに、苦しくぎゅっと締め付けられる感覚を覚えたが、徐々にそれすらも、もうなにも感じられなくなくなってきた。
瞼を閉じる瞬間、ミカエラは動かない口角と表情筋を無理やり動かし、笑ったような表情を浮かべると
「ごめんね……そふぃー。やくそく……うち……かえれそうにないやァ……」
そう掠れた声で呟き、赤色の双眸からガラスのような一筋の涙を流した。涙は冷たい肌を伝い、血に濡れた大地を濡らした。
そして、そのことに気づく人はしばらくいなかった。
次の瞬間、煙幕で目の前が見えなくなる。数十秒後には視界は開けたものの、青年の姿はそこには無かった。
「ゲボッ……逃げられた……ってレオンハルト大丈夫? 」
近くで横たわってるレオンハルトを揺さぶるが、反応がない。
「おい、お前ら帰るぞ」
煙で気づかなかったのか、近くにいたアンドリューが仏頂面で腕を組みながらそう言う。
「アノニマス中佐?! 」
先程のこともあり、本物か確認する為に、敢えてアンドリューが口癖のように、呼ぶなと言っている彼の苗字を呼ぶ。
「あ゛あ゛あ゛? 苗字で呼ぶなって、いつも言ってるだろ。何度も言わせるな……次、苗字呼んだら、配給無しな」
アンドリューはかなり不機嫌そうにそう言ってから、舌打ちをした。どうやら目の前にいるのは、本物のアンドリューのようだ。
「すみません。アンドリュー中佐。さっき変な敵がいたので、確認の為に呼びました」
「あ、聞いてください!レオンハルトが被弾して動かないんです……今すぐ病院に運ばないと……」
「……その必要は無い」
その声と同時に銃声が響き、足に激痛が走り、その場に崩れる。そして間一髪入れずに、再び銃声が響き、腕が動かなくなる。
「これでもう能力使えないねぇなぁ?」
アンドリューだったら、絶対しないような表情と口調でそう言う。
「確認したのは偉いねぇ……でも、甘い。信頼してる上官でも、急に現れた時はすぐに信頼してはいけないよ~」
喋り方から考察するに先程の青年だ。ミカエラはしくじったと思った。
「これで終わり。最期に残す言葉は?」
艱難辛苦の続きだったが、案外楽しかったことも多い自分の人生もここまでなのか。
「……アンドリューさんや、他の仲間達は無事ですか?」
「ああ、アイツなら今頃お前らを探してるよ。他の人間も元気だ」
その言葉と同時に、何発かの銃声が響き、鮮やかで生ぬるい血飛沫が頬にべたりと張り付く。
薄れゆく意識の中、痛みと共に昔の記憶が走馬灯のように蘇る。どれも泣きそうな程懐かしく、二度と戻らない幸せだった日々。ミカエラは、もう死が近いことを強く実感した。
ふと、戦場に行く前に大切な人と交わした『生きて帰ってきてね』という約束を思い出した。
そうだ……生きねばならない。どんなことがあろうとも。決して死んではいけない
ミカエラは、もう一度立ち上がろうと体を無理やり動かそうとするが、もう限界を迎えているのか、身体は力が入らず、泥沼に落ちた紙のように溶ける感覚を覚え、足は糸が切られたマリオネットのように動かない。
瞼も勝手に下がって視界も灰色に霞んで見えなくなり、酸素さえ肺に詰め込もうとしても、喉あたりで止まり息苦しい。それなのに、頭だけはしっかりしているらしく、色々な感情が一気に溢れ出してきた。
ああ、やっぱり本当は、死にたくない!死にたくない……死ぬんだったら、もう一度あの子のあの子の顔が見たい。
……なんでこんなよく分からない得体の知れない能力者に……殺されなきゃいけないんだ……
……そして何よりも……自分が居なくなると……あの子……は……本当に……独りぼっち……に……なってしまう……そんなのあまりにも!あまりにも……!ぼく……は……まだ……しねない……あのこをのこしては……いけない……
あの子の太陽のような眩しい笑顔と同時に、自分が死んだ後のあの子の姿が脳内に浮かぶ。きっと、あの子は自分が死んだら跡を追うだろう。それを想像すると、胸は撃たれていないはずなのに、苦しくぎゅっと締め付けられる感覚を覚えたが、徐々にそれすらも、もうなにも感じられなくなくなってきた。
瞼を閉じる瞬間、ミカエラは動かない口角と表情筋を無理やり動かし、笑ったような表情を浮かべると
「ごめんね……そふぃー。やくそく……うち……かえれそうにないやァ……」
そう掠れた声で呟き、赤色の双眸からガラスのような一筋の涙を流した。涙は冷たい肌を伝い、血に濡れた大地を濡らした。
そして、そのことに気づく人はしばらくいなかった。
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