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第一章:闇堕ち予定の男に転生

第5話:時が経ち少し成長して

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 あっという間に時間が経ち俺は六歳になった。
 ここ六年、あまりにも色んな事がありすぎたし何よりヤバいことが一つあったんだ。それは弟が妹だったということ――いや、お前何言ってんだ? と思われそうだが、まじで言わせてくれ。弟である筈の剣が妹だった。
 発覚したのは三年前、ある程度言葉を喋れるようになり歩くのも慣れて家の敷地内なら好きに移動できるようになった時ぐらいの頃だ。
 母さんがこれからもお兄ちゃんである俺が妹を守ってねと言ったのだ。
 最初は意味が理解出来ずに、母さんに弟じゃないのかと慌てて聞いてしまったが返事は妹だというもの。
 その事実のせいで二日は考えがまとまらなかったのを覚えているし、現実を受け止めるのに一週間ぐらいはかかった。
 あの剣が、格好良くて仲間思いで誰よりも頑張るあの男が妹という理解したくない現実があまりにも辛かった。
 だけど――それはもう乗り越えた……だってさ。

「にいさま、なにをしてるのですか?」
「ん、剣か今日も瞑想してた。お前は?」
「かあさまにおりづるをおしえてもらってました。これあげます」

 そう言って少し不格好な折り鶴を渡してくる妹。
 褒めて欲しそうな顔でこっちを見てくる彼女に悶えそうになるがそこは兄の鋼メンタルで我慢して受け取ってから頭を撫でた。

「ありがとな剣、お兄ちゃん嬉しいぞ」
「……なでないでください、はずかしいです」
「止めた方がいいか?」
「にいさま、やめてとはいってません」
 
 あまりの可愛さに猫耳を幻視しさらに撫でてしまったが俺は悪くない。
 だって剣がめっちゃ可愛いから! 何だよこの子、天使過ぎるだろう! 既にめっちゃ可愛いいし将来は絶対に美人確定。男の場合でも整ってたし、本当に可愛い。
 語彙が完全に消えている気がするが、この可愛さは罪であるので仕方ない。

「そうだにいさま、とうさまがよんでいました。午後から訓練だそうです」
「ん、分かった後で行く。そうだ剣も来るか?」

 その瞬間ピーンと伸びる猫耳と尻尾が見えた気がする。
 明らかに見に行きたい雰囲気を漂わせてこくこくと頷いていた。

「いきます見たいです」
「そうか、なら後で一緒に行こうな」
「はいにいさま、それまであそびましょう」

 妹にそう言われたので俺は一緒に遊ぶ事にする。
 ここ数年霊力上げ続け何より父さんに鍛えられて手に入れた術の数々、一人で使ってもいいぐらいに練度を上げたおかげで色々出来るようになったのだ。

「よし、今日は何が見たいんだ剣」
「りゅうがみたいです」
「難易度高すぎないか?」
「にいさまならできます」

 うっ妹からの期待の目が痛い。
 確かに今まで散々術を使って氷像を作ってきたが急に龍を作れと言われても――出来ない事はないけど。
 というわけで俺は霊力を練りそれを放出する。
 氷属性持ちである俺が霊力を使えばその属性にあった現象が起きる。日本に存在する術士の大体は五行に当てはまった現象を起こすことが出来、それをコントロールすることで様々な術を使えるのだ。

「すごいですにいさま、ながいりゅうです」
「そうだな東洋の龍だぞこれは、ちなみに西洋だと横にデカいんだぞ」
「それもみたいです」
「……よし、じゃあやってやろう」

 妹の期待に応えないわけいかないよね。
 というわけで赤子時代から鍛えてきた霊力の出番だ。
 ずっと瞑想を続けていたおかげで俺の霊力は個人的にかなり多いと思う。原作の刃にはまるで及ばないが、それでも多い部類だと信じたい。
 いやでも本当に原作の刃はやばい。
 自分が術を習ったからこそ分かるが、あいつはマジで天才だ。
 術の制御とか漫画の描写を見るに半端ないし、指先一つで対象を選んで凍らせることすら出来た。他人に干渉する術の難易度は父さん曰く高く、扱える者は片手で数えるぐらいしかいないらしいのに彼はそれを涼しい顔してやってのけたのだ。今の俺は氷像を作るだけで精一杯だし、何よりそれを動かすことなんて出来ない。今までは読者として漫画を見るだけだったが、やってみると本当に難しい。

「おーい二人とも、何してるんだ? 刃はそろそろ訓練だぞー!」
「あ、父さん。剣と遊んでたんだ」
「にいさまと遊んでました」
「そうかそうか、というかまた氷像作ってたのか? ――今回は……龍か、凄いな」
「はいにいさまはすごいです」
「そうだな剣、刃は本当に凄いぞ!」

 褒められて悪い気はしないが、ここまで素直に言われると普通に照れくさい。
 それから少し父さんと話をし、俺は訓練場がある家の外れにやってきた。そこには一年ぐらい使っている俺専用の木刀が置いてある。

「さぁ刃、打ち込んでこい!」
「術はあり?」
「あぁ、いつも通り俺に一発当てれば終わりだ全力で来るんだぞ!」

 木刀を構え、俺はいつも通り父さんに仕掛ける。
 身長差を活かすためにもより腰を低くして、足辺りを狙うことにした。踏み込み距離を詰め、一気に木刀を振る。

「狙いは良いが分かりやすすぎるぞ」

 だけどそれは簡単にとても滑らか受け流されていなされた。
 続けざまに木刀を振るうがそれはさっきの焼き増しで受け流されるだけ、術を使おうにもそっちに意識を持っていこうとした瞬間に邪魔されるしでかなりつらい。

「父さん今日意地悪じゃない?」
「少し難しくしようと思ってな、今日からは術の邪魔をすることにした。どうするやめるか?」
「いや、やる気出た。絶対今日も攻撃当てる」

 難しくするならそれに応えるしかない、実際父さんの訓練はかなり成長できるし、難易度を上げたって事はそれだけ俺が成長できていると言うことになる。
 だからやる気を出して頑張ろう。
 二度、そして三度、いや何度でも俺は攻撃を打ち込む。
 父親の防御を崩せるとは思ってないから、術を練りながらも攻撃を繰り返す。
 吹き飛ばされるし転ばされるしで痛いけど――どうしてか俺は笑顔だった。前世の俺はこんな風に何かを頑張った事がなかったから、こうやって誰かと何かを頑張るのが楽しい。術を使って何度も仕掛けても防がれて、いくら氷を飛ばそうとも弾かれる。だけどこれを乗り越えれば強くなれるという確信が俺の体を動かしてくれる。

「息が切れてきたな、もう終わりか?」
「…………ま、まだ動けるぞ父さん」
「いや……終わりだ。もう霊力空っぽだろ?」

 そしてそれから一時間後、俺は完全に床に倒れて強がったが父さんに却下され訓練を終えることになった。昨日は一発入れられたのに、今日は一発も入れられず体力切れになってしまった。日頃鍛えているとは言え、六歳ボディの体力を過信したのがいけなかったな。

「……負けた」
「そう落ち込むな刃、難しくするっていっただろ? 逆に一時間持ったのは誇って良いぞ」
「でも悔しい」
「はは、早熟のお前が悔しがるなんて珍しいな。どうだ? 父さん強いだろ」
「……明日は当てる」
「当てれると良いな我が息子ー」

 うっざ。
 絶対明日当ててやる。
 なんなら全力で氷塊ぶつける。そんな事を思いながら風呂には入れよーといい立ち去って行く父さんを見送った。
 残される俺と剣、悔しがる俺に彼女は何かを渡してくる。

「にいさまおみずです」
「ん……ありがと剣」
「にいさまはすごいです。とうさまとたたかえますので」
「急になんだよ」
「それにじゅつもいっぱいつかえます――しらないこといっぱいしってます」

 なんか急に褒めまくってくる我が妹。
 なんだと思ったが、彼女の性格を見るに励ましていることが分かった。

「……はは、ありがとな剣」
「きにしないでください」

 この子はきっとこれから先かなりの波乱に巻き込まれるだろう。
 だけど優しい子に育つだろうな……と可愛い妹を見てそんな事を思いながら俺は一緒に家に戻ることにした。
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