その男、幽霊なり

オトバタケ

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再会――その後

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 体育祭の日に体育館のトイレで抜きあった時と同じで、一人でするのとは比べ物にならない快感にぼうっとしていると、雅臣が掌を濡らしている白液をティッシュで拭き取りだした。
 肌色に戻っていく掌を見て寂しさを覚えたが、互いが互いに興奮して吐き出したものが一緒にティッシュに包まれているんだと思うと、なんだか嬉しくて顔がにやけそうになる。

「シャワーを浴びにいきましょうか」

 どうして笑っているんだと問われて、こんな恥ずかしい思考がバレるのは勘弁だ。
 弛みそうになる頬が動かないように力を込めていると、白液を拭き取り終わったティッシュをゴミ箱に捨てた雅臣が聞いてきた。

「一緒にか?」
「勿論です。拓也の中のモノを掻き出してあげますね」
「なっ……自分で出来るっ! 家と同じ間取りなら風呂の場所も使い方も分かるから、一人で入る」

 床に放ってある制服を掴み、まだ精の艶かしい臭いの残る寝室を飛び出そうとすると、背後からぎゅっと抱き締められた。

「お願いです。一人にされたら寂しくて死んでしまう」
「兎かよ」

 幼児みたいに縋ってくる雅臣に、思わず吹き出してしまう。

「えぇ、兎ですよ。兎は生殖本能が非常に強い生き物なんです」

 熱い吐息を耳元に吹き掛けてきながら囁かれた言葉で、背中が粟立つ。

「一緒に、ね?」
「シャワーを浴びるだけだからな」

 仕方なく、たぶん喜んで見えない尻尾を振っているのだろう雅臣を背中にくっ付けたまま、風呂場に向かう。
 家と同じ間取りなので迷わずに辿り着いたそこで、羽織ったままだったYシャツを脱ごうとするも、背中に雅臣がくっ付いていたのでは脱ぐことは出来ない。

「離れないとシャツが脱げないだろ」
「僕が脱がせてあげます。体を洗うのも、拭くのも、全部してあげますね」
「ガキじゃないんだから、自分でやる」
「ガキだなんて思っていませんよ。ガキにはあんなことしないでしょ? 恋人だから何でもしてあげたいんです」

 雅臣の口から出た、恋人、という言葉に一気に頬が火照ってくる。だが……

「俺は、女みたいにチヤホヤされるのは嫌だ。アンタと対等でいたいんだよ」

 恋人だから何でもしてやりたいという気持ちは分かるが、恋人だからこそ対等でありたいと思うんだ。
 叫ぶように言い放つと、雅臣は黙ってしまった。
 呆れられてしまったのだろうか、と不安になってくる。

「やはり拓也は強いですね」
「強い?」

 暫しの沈黙の後、呆れた風ではなく、感心したように言われてクエスチョンマークが浮かぶ。

「頭から爪先まで真っ直ぐに伸びる拓也の強く美しい魂が、苦難に挫けそうになる僕を支えてくれたんです。拓也の強さがあったから、今僕は自分の足で立って此処にいる」
「アンタが自分の足で立っているのは、アンタが一条の鎖を引き千切りたいって強く思って実行したからだろ。全部アンタの力でやったことだ」
「しかし、きっかけを与えてくれ、折れそうになる心の支えになってくれたのは拓也なんです」
「俺はアンタの言うような強い人間じゃない。でも、少しでもアンタの支えになれたなら嬉しい」

 雅臣が、俺の肩に甘えるように額を擦り付けてきて、幸せを感じて頬が弛んでしまう。
 雅臣の中に俺が深く入り込んでいて、雅臣の希望になっていたことが堪らなく嬉しかった。
 俺自身が、雅臣に対してそう思っていたからだ。

「なぁ、シャワーは?」
「そうでしたね」

 背中から離れていった雅臣が自分のシャツのボタンを外している気配を感じながら、俺もシャツを脱いでいく。
 脱ぎ終わると背後から、ゴクリと唾を飲み込む音がした。
 何だろうと思いながら振り返ると、顔と同じで綺麗だが男の色気が香る締まった体を晒けだした雅臣が、生まれたままの姿の俺を穴が開くんじゃないかというほど真っ直ぐに見つめていた。

 その視線に耐えきれずに俯くと、二度達しているのに反応をし始めている雅臣のソコが目に入って、溜め息をついた。
 雅臣に対してではない。ソレが欲しいと蠢動し始めた自分の後孔に対しての溜め息だ。
 雅臣に求められるのは嬉しいが、本能に任せていたら四六時中繋がっていてしまいそうで怖い。
 盛りのついた犬なのは、俺も一緒だな。

「体が冷えてしまいますね。早くシャワーを浴びましょう」
「そうだな」

 雅臣の興奮が伝染して、後ろだけではなく前まで反応しだしたが、互いのソコは見えない振りをして浴室に入っていく。

「拓也の中を綺麗にしましょうね」

 シャワーヘッドを持ち湯加減を確かめていた雅臣が、適温になったのかそれを俺に向けてくる。
 雅臣に後処理をしてもらうのは死ぬほど恥ずかしいが、自分で掻き出すのは怖いし、何より自分の指でもソコに雅臣以外が挿るのは嫌だ。
 覚悟を決め、タイルの壁に手を付いて尻を突き出す。
 背中に丁度いい温度の湯が当たり、心地好さに息が漏れる。

 背骨をなぞるようにゆっくり下りてきたシャワーが臀部に達した。
 細かな飛沫が当たる感触が擽ったくて身を捩ると、ガシッと右の尻たぶを掴まれた。
 グッと引っ張られ、広げられた双丘の間にシャワーが当てられる。
 擽ったさと気持ちよさが混ざった感覚に腰が跳ねる。

 尻を掴んでいた手が離れると、一人しか挿ったことのないソコに、唯一の鍵を持つ当人の指が挿ってきた。
 中のモノを掻き出す事務的な作業だと分かっているのに、ついさっき行った天国を覚えている細胞が、またあそこに行けるのだと騒ぎだしてしまう。
 掻き出す動きを愛撫と勘違いした肉がトロトロに蕩けていってしまい、恥ずかしくて情けなくて泣きそうになる。

「すいません」

 ゴトッとシャワーヘッドを床に落とした雅臣が、俺の背中に覆い被さってきて切羽詰まった声を漏らした。
 何事だと考える間もなく、後処理で熟れてしまったソコに硬くて熱湯のように熱い塊が突き刺さってきた。

「えっ……なん、だぁぁっ!」

 何が起こったのか理解する前に激しい抽挿が始まり、何も考えられなくなる。
 気持ちいい。雅臣と繋がれて嬉しい。もっと気持ちよくなりたい。雅臣を気持ちよくしてやりたい……。
 頭の中は、そのことでいっぱいだ。
 体も雅臣と快楽を追うことしか考えていないようで、必死に動きに応えている。

「あっ……あっ……」
「拓也! 拓也!」
「はぁっ……まさ、おみぃ……」

 ここがどこだとか、何をしていたのかとか、どうでもよくなってきた。
 雅臣が俺の名を呼び、俺を激しく求め、共に天国に行こうとしている。
 一番名前を呼んで欲しい相手が、唯一求め、求めて欲しいと思っている相手が、共に楽園に行こうと言っているんだ。
 こんな奇跡みたいなことって、こんな幸せなことってないだろ。
 目の裏が熱くなってきて、ぎゅっと瞼を閉じる。
 真っ暗な視界の先に、純白の階段が浮かび上がってくる。
 あの階段の先に天国があるんだ。二人だけの楽園があるんだ。

「あ、はっ……イキ、たぃ」
「一緒に、イキましょう」

 離れ離れにならないようにぎゅうっと繋がりあって、階段の先を目指す。
 辿り着いた天国は、涙が出そうなほど幸せな気分になれるところだった。
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