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第一章 先祖還り
その13 ずっと一緒に。約束だよ
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『精霊石』は魂を映す鏡。
あたしの前世の姿が映っているとコマラパ老師さまは言うのだけれど、一緒にいるお父さまとお母さまには『アイリスに似た成人女性の鏡像』しか見えていない。
そこに表示されている『ステータス』の文字情報は、あたしと『観測者』であるコマラパ老師さまにしか見えず、ほかの人が読み取ることはできないのだ。
今はコマラパ老師さまの判断で、エステリオ叔父さまにも情報を共有しているけれど。
三歳の幼女である現在のあたし、アイリス自身の数値は、納得できるものだった。
特に体力のなさと魔力が他の人たちより多めだっていうところは、自分でも、きっとそうだろうなって、わかっていたしね。
そして、あたしは。
システム・イリスの次に鏡に映った『もう一つの前世』を見て、どうしたらいいのかしら、と悩む。
知らない言葉だらけ。
波打つ長い金髪に映える、黒いカシミヤのコート。
ゴージャスな毛皮のストール。
尖った細い踵で支えられている靴をはいて颯爽と立って。
堂々としてるの!
ほんとにこの女性が、あたしの前世なの?
アイルランドからアメリカに移民した子孫って……あれ?
なんだか、ヘン。
初めて目にする言葉だらけなのに、そのはずなのに。
なじみがある……ような。
……もしかしたら、あたし、なにか……知ってる?
はっきりとは思い出せないけれど。
エルレーン公国首都シ・イル・リリヤに生まれた、三歳幼女アイリス・リデル・ティス・ラゼルの記憶だけでは、なくて。
「信じがたいのは無理も無いが、間違いなく、君の前世の姿。魂に刻まれているのじゃろうな。だが、これらの意識は眠ったままだ」
あたしの混乱に拍車をかけたのはコマラパ老師さまの、次の発言だった。
「これで終わりでは無い。まだ、きみの中に眠っている意識があるはずだ」
「どうして、そう思われるのですか」
のどがカラカラに乾いていた。
「わしは少々、長く生きたのでな。その経験から導き出された、カンじゃな。まあ、待っていてごらん」
老師は、小さく、笑った。
すると……待っていてごらん、と言われた通りに、しばらくすると変化が現れた。
鏡の中に映った姿は、これまでとは、文字通り『毛色が変わった』ものだった。
成人女性ではない。黒髪で黒い目、黄色みを帯びた肌色の、少女だった。
ローサより、ちょっと年上みたいだから、十代半ばくらい?
着ているものは、半袖の、かわいい丸襟の白ブラウス。
首もとに、大きなチェック柄のリボンを結んでいて、紺色のボックスプリーツスカートは膝上丈、黒いソックス、足下は黒い革靴。
手に持ってる、丸い玉みたいのが先端についた太めの棒……?
これって。ワイヤレスマイク?
(あれ? なによそれ? なんでそんな言葉が浮かんできたの?)
表示されたのは。
ーーーーーーーーーーー
個人名……月宮アリス(アイリスの前世の一つ)
年齢………15歳
種族名……人間
職業………女子高校生
ジョブ……アイドル(中学生から、親友『相田紗耶香』とデュエット)
生命力……100(一般的な同年代女子の平均値100)
魔力量……2000(平均に比較して20倍)
魔力適性…全属性に適性対応(魔力の色・白・クリアカラー)
スキル……応援 (半径10メートル以内の人間の能力を上げる)
スマイルは無料 (笑顔を向ける相手に幸福感を与える)
ハーモニー (誰かと一緒に行動すると相手の能力を向上させる)
死因………※ 非表示 ※
魂の傷……※ 非表示 ※
ーーーーーーーーー
なにこれ!? 知らないわ、って、あたしは言おうとしたのだけれど。
ソレより先に、つぶやいた人がいたの。
「アリスちゃん?」
それは、エステリオ叔父さまだった。
「『サヤカとアリス』の? 吉祥寺駅で毎朝、通学電車に乗るのを見てた……」
茫然と。
「え?」
驚いたのは、あたし。
吉祥寺。
駅。
朝。
電車?
知らないはずなのに。
なのに!?
あたし……憶えてる……。
ふっと周囲の全てが霞んで、消えた。
気がつけば、あたしは……
※
月宮アリス。
それが、あたしの名前。
平凡な女の子だった。
親友の相田紗耶香といつもいっしょ。
あたしたちは約束してた。
歳を取っても。
どんな進路をたどって、大人になっても。
いつか結婚して子供ができても。
ずっとずっと、仲良しだよ。
ずっと、いっしょにいようね。
果たされなかった、約束。
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