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怪人ヤッラーの禁断の恋
⑫
しおりを挟むカーテンコールを終えて舞台袖にはけても拍手は鳴りやまず、怒号が飛び交うようにライオンの名を呼ぶ声があがって絶えなかった。
団長に背中を叩かれてライオンが舞台上に戻れば、とたんに拍手と歓声の嵐が巻き起こる。
耳が麻痺しそうなその大音量に眉をしかめつつ、ぶっきらぼうに首を傾げて、本人なりに頭を下げているつもりのライオンを舞台袖から眺めた。
「たく、あれだけ脚本家や他の演者に苦労をかけさせておいて!」
まだまだ拍手と歓声が収まらない中、いつの間にか傍にきていたアカルイオサムが目の下にどす黒いくまをこさえながら、大声でまくしたてた。
必要以上に声を張るのは辺りが騒がしいせいもあるけど、舞台が無事終わっての解放感からハイになっているのだろう。
俺も気分が高揚しないでなかったとはいえ、まだ本調子でない声を張り上げるのには不安があったから苦笑に留めると、アカルイオサムに肩で小突かれた。
「でも、結局、あいつが全部かっさらっていくんだ!
世の中って不公平だと思わないか!」
割と本気でアカルイオサムは不服に思っているようで、それにしても俺に突っかかられても困るというもの。
宥めようとして口を開きかけたものを、一旦閉じて、舞台上の仏頂面のライオンを見つめながら「そうだな」と呟いた。
騒がしくて聞こえないかと思ったけど「え」とアカルイオサムが言ったのに、こちらこそ、え、と振りむいた。
ついさっきまで鼻息を荒くしていたのが、目を丸くしてぽかんとして「お前、ライオンとなにかあったのか?」と言う。
内心ぎくりとしつつ、「なぜそう思うのか」と問うように首を傾げれば「だって、お前」と言われた。
「『ライオンが手柄を独り占めしててずるい』って俺が言っても、周りの支えがあってのライオンの活躍だって分かる人は分かってくれるって、いつも優等生的に慰めるだろ。
なんだかんだ、自分もずるいと思っているって認めたの、これが初めてじゃないか?」
肩を肩で押しながら食い入るように見つめてくるアカルイオサムから「そ、そうかな」と顔をそらした。
勘が鋭く好奇心が人一倍強いアカルイオサムは、こういうとき異常に食いついてくる。
なにか勘付かれる前に逃げようかと思ったけど、ちょうど舞台袖に歩いてくるライオンと目が合った。
俺がアカルイオサムにまとわりつかれているのを見て、険しい顔つきになったライオンは、でも突進したり怒鳴りつけてくることなく、中指をおっ立てみせた。
嫉妬のしかたも可愛げがないのかと呆れるやら可笑しいやらで。
アカルイオサムの頬を手で押し返しつつ、俺もライオンに親指を下げてみせてやったのだった。
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