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第05章 浮遊大陸編

09 あと二体

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 地竜を仲間に加え、竜も残すところあと二体となった。

「なぁアクア。光竜と闇竜はお前の姉なんだよな? 強さ的にはどのくらい?」
「強さ? 前にも言ったじゃない。私達よりちょっとだけ強いって」
「違う。そうじゃない。それは属性の相性の話だろ。純粋な力量ってか、どの程度戦えるんだ?」
「悪いけどそれは教えられないわ。竜は他の竜の力を話してはいけないの。今までどんなスキルを使ってどんな戦い方をするか言わなかったでしょ?」
「……ふむ。掟みたいなもんがあるのか」

 話せないなら仕方ないと、蓮太は諦め、地竜の案内で砂漠から次の階層へと進む道を目指していた。

「あったぞ主。この流砂に入れば次の階層だ」
「これに入れと?」

 普通流砂は一度沈んだら二度と這い上がる事はできない。だが地竜は今そこに飛び込めと言っていた。

「本当に大丈夫なんだろうな?」
「うむ。我は二人が先に潜った場面を見ていたからな」

 蓮太は一応スキル【透視】を使い下に何があるか調べた。結果確かにこの流砂の下に空洞があり、さらにその下へと続く何かが見えた。

「仕方ないな、じゃあ行くか。【バリア】!」

 蓮太は砂が色々な場所に入ってくるのを防ぐためにバリアを張り、頭から流砂に突っ込んだ。そして数分後、流砂を抜けた先に螺旋状の滑り台があり、そのまま滑り先へと進む。

「おぉ~、めっちゃ速い! 歩くより楽で良いわ~」

 そのまま滑り数分後、ようやく終わりが見えた。暗闇を抜けた先には大空洞があり、その奥に荘厳で少し近寄りがたい建物がある。

「こんな場所に神殿? ……あの雰囲気嫌いなんだよなぁ俺」

 そうしている間に後続も順次到着した。

「うわぁ~……あれは確実にいるわね」
「よっと。確かに……。光竜ちゃんの気配ビンビン感じるぜ!」
「おっととっと、あんまり風ないねぇ~」
「ぬぉぉぉぉっ、退け貴様らぁぁぁっ!?」
「「「ちょっ!? うわぁぁぁぁぁっ!?」」」

 地竜は重すぎたため、他よりだいぶスピードが乗っていたようだ。蓮太は咄嗟に短距離転移で躱わしたが、三人は地竜の体当たりを食らい豪快に弾け飛んだ。

「いったいわねぇぇぇぇっ! なにすんのよっ!」
「ぐぉぉぉぉっ、鳩尾に地竜の肩がぁぁ……っ」
「た、助け……て……。壁に埋まって出られ……ない……っ」

 大惨事だった。 

「やれやれ……。緊張感のない奴らだなぁ。おい、止めろ止めろ」

 蓮太は壁から風竜を救出し、揉める三人を止めた。

「揉めるな。さっさと先に進むぞ。俺はこの雰囲気が嫌いなんだよ」
「なん──ははぁ~ん?」
「なんだよ?」

 水竜は蓮太を見ながらニヤニヤし始めた。

「あんた、悪い事ばっかりしてるからいたたまれないんじゃないの~? で~、属性は【悪】!」
「はいはい。バカの相手してらんねぇから置いてくぞ」
「あ、逃げた~」

 後でしっかりお仕置きすると決め、蓮太は先に進んだ。

「この雰囲気で闇竜がいるわけねぇし、いるとしたら光竜だな。さて、どう火竜と仲良くさせるか……」

 蓮太は四人を従え神殿の扉を開く。

「……うわぁ」

 神殿の中は予想通り厳格な雰囲気で満たされていた。

「え? わわっ!?」
「な、なん──」
「二人とも消え──」
「主っ、ぬぉ──」
「はぁ? マジか」

 先へと進むと突如後ろにいた四人が光に包まれ消えた。そして蓮太以外誰もいなくなった空間に何者かの声が響き渡る。

《引き返しなさい人間。今なら見逃して差し上げます。妹達は安全な場所に移動させました》
「光竜か。どこにいる」
《……引き返しなさい。私は戦いたくはありません》 
「奇遇だな。俺も戦いたくないし、この雰囲気は嫌いだ」
《ならば引き返しなさい》
「断る。あいつらは仲間なんでね。とりあえず返してくれないか?」

 しばらく沈黙が流れ、再び声が響く。

《仲間とは……。竜と人間は相容れません。帰らないと言うならば仕方ありませんね。あなたは別の場所で死んでいただきます。サヨウナラ》
「うぉっ!?」

 蓮太の足元から光の柱が立ち上り、そのまま包まれ神殿から違う場所へと強制転移させられた。

「ここは……どこだ? またえらく暗いな。……めっちゃ落ち着くわ」

 飛ばされた先はとにかく真っ暗な世界で光一つない。蓮太はスキル【暗視】で辺りを見回す。そこは部屋になっていた。よく見ると隣にテーブルがあり、奥には天蓋付きのベッドがある。さらに注視するとそこに何かが寝ているように見えた。

《……すやすや》
「まさか……闇竜か?」

 蓮太は気配を殺しながら慎重にベッドへと近付いていく。今は暗視で見ているためハッキリとはわからないが、確かに竜がベッドの上で寝息をたてている。

「……光竜め。闇竜に俺を殺らせるつもりか。だが……まさか闇竜が寝ているとは思わなかったんだろうな」

 蓮太はさらに闇竜との距離を縮めようとベッドに近付いた。

《……光竜?》
「っ、起きたかっ!」
《え? だ、誰っ!? え!? 人間っ!?》

 蓮太は闇竜の目が開いた瞬間に後ろへと飛んでいた。闇竜は部屋に人間がいた事に驚きはしたものの、すぐに感情を制御し、ベッドから降りた。

《なぜ私の部屋に?》
「さあな。神殿に入ったら光竜に強制転移させられたんだ」
《光姉に? そう……ならあなたは私への貢ぎ物というわけね……ペロッ》
「貢ぎ物だと?」

 闇竜は上唇を舐め、ジリジリと距離を詰めてくる。

《ふふふふっ、安心して? 痛くしないからね~……。今からあなたを食べるけどぉ~……全部私に任せてくれて良いからねぇ~》
「た、食べるだと!?」
《あ、そっか。【人化】》

 闇竜は距離を詰めながら人の姿になった。その姿は黒髪パッツンで、背は百四十半ばくらいだろうか。

「気に入らなかったら食べてあげるわねぇ~……。逃げたら殺しちゃうんだからぁ~」
「な、なにする気だっ! うぉっ!?」

 詰め寄る闇竜から逃げている内にベッドに戻ってきていた。蓮太はベッドに倒れ込んでしまう。

「あら、自分からベッドに寝るなんてぇ~……。期待して良いのかなぁ~? そぉ~いっ」
「うわぁっ!?」

 闇竜が蓮太に向かいルパンダイブしてきた。それから半日後。

「ダ~リン~、私可愛い?」
「ああ、可愛いよ。闇──いや、【ノワール】」
「あぁん、ダ~リンから名前呼ばれたぁ~。嬉しいっ」

 闇竜は自分が食べるつもりだったが逆に食べられていた。蓮太はこの落ち着く雰囲気の中で闇竜の闇を受け止め、無害なものへと変えてしまっていた。

「ダ~リン、ダーリンは私の彼氏さんで良いんだよね? ずっと傍にいてくれるんだよねっ?」
「もちろんだとも。後数年したら若さを維持するために不老を得るつもりだ。俺は人間だが竜より長生きできる人間よ」
「素敵ぃ~っ、生まれて初めて受け止めてもらえたわぁっ、ダーリン……、裏切らないでね? 私……ウラギラレたら何するかわかんないよ? きゃんっ」

 蓮太は闇竜を抱き寄せながら頭を撫でてやった。

「裏切らないよ俺は。しかし……ここは落ち着くなぁ。可愛い女はいるし、至れり尽くせりだな」
「ダーリンのためならぁ、いっぱい尽くしちゃうよ~」
「はははは、可愛い奴め」
「きゃあ~、また食べられちゃう~」
《い、いい加減にしなさぁぁぁぁぁぁいっ!》
「「は?」」

 蓮太が闇竜に覆い被さった瞬間、室内に邪魔者の声が響き渡り、室内が明るくなった。

「まぶし……、邪魔すんなよオイ」
「光姉、今良い所なんだから消えて」
《闇竜! あなたは何をしてるんですかっ! 人化までして……! 竜のプライドはないのですかっ!》

 その言葉に対し、闇竜は蓮太に抱きつきながらこう答えた。

「プライドで愛は満たされないもの。私はプライドより愛に生きるのっ! ゆくゆくはダーリンとの赤ちゃん百人くらい産みたいなぁ~」
「なんだ、たった百人で満足なのか? 俺達はまだまだ長生きするんだぜ? 百人なんてあっという間だぞ?」
「ダーリン! 愛してる~」

 チラリと光竜を見ると白目の向いて気絶していた。どうやら怒りが頂点を超えたのだろう。しかし闇竜の抱きつく力が強すぎる。

「闇竜、あの眩しい奴なんとかしてくんない?」
「うんっ! 【ブラックアウト】!」

 闇竜の放った闇が光竜を包み、やがて室内から光竜の気配が消えた。

「どこに飛ばしたんだ?」
「神殿の入り口だよぉ~。ここは神殿の地下深くにあるんだよ、ダーリン」
「なるほど。最後の二体は同じ場所にいたのか」
「最後の二体?」
「ああ、ここに来るまでに水、火、風、地の竜を仲間にしてててててっ! な、なんだ?」

 他の竜の名を口にした瞬間、闇竜の抱きつく力が暴力的なものへと変わった。

「水竜……。ダーリン、水竜とは何もないよね? ダーリンが好きなのは私だけだよね! ねっ!?」
「あるわけないだろ、ノワール。水竜となんて死んでもありえねぇって。あいつバカじゃん」
「そ、そうだよね! 私……嫉妬深くて……。ごめんね、ダーリン……」
「それだけ愛が深いんだろ? 大丈夫だ、全部受け止めてやるよ、ノワール」

 闇竜は涙を流し震えた。

「……生きてて良かった! やっと運命の相手に出会えたっ! ダーリン……」
「おっと、ははは。さて、落ち着く雰囲気に戻ったし、またイチャイチャしようぜ」
「ダーリン!」

 蓮太は再び邪魔が入るまで闇竜と微睡むのだった。
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