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二度目の婚約だなんてあなたは知らない 3

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 ***

 次の日は、早朝から侍女たちに囲まれて、飾り付けられた。
 いつの間に用意されたのか、ほんの少しだけピンクがかった白いドレスは、サイズもぴったりで、ティアーナが身につければ、儚い美しさと少女から大人に変わる妖艶さが加わって、まるで妖精姫のようだ。
 淡いピンクブロンドの髪は、今はゆるく編み込まれ、小さな貝細工の白い花に彩られている。

「……ディールス公爵は?」
「もうご準備を終えて、姫様をお待ちです」
「そう……」

 ライハルトは、姿勢を乱すことなく、エントランスに立っていた。
 片方だけ肩に掛けられた緋色のマントは、王家の血を引いたものだけが着用を許される。
 服装は、騎士の白い正装だ。長身のライハルトが着れば、黒い髪とアイスブルーの瞳と美貌が相まって、まるで彼だけのために誂えられた用にすら見える。

 こめかみに白髪が少々交じっていることすら、なぜかライハルトの魅力に渋みを添えてさらに素敵に見えてしまうのは、ティアーナの目が曇ってしまったせいなのだろうか。

「お待たせしました」
「いや、俺も用意ができたばかりだ……」
「とても、すてきですね」
「……先を越されたな。戦ってばかりで、情緒がなくて申し訳ない。……ティアーナ姫も、本当に妖精のように美しい」
「そ、そうですか!? えっと、侍女たちが、頑張ってくださったので!!」

 ライハルトのことを簡単に褒めておきながら、いざ自分が褒められると、うれしそうに頬を染めながら、照れてしまうティアーナ。

「……そんなはず、ないのにな」
「ディールス公爵?」

 差し出された手は、剣を握り続けたせいで、固くてゴツゴツしている。
 はじめの頃、皮がむけて痛々しかった幼い手、比べてしまえば時間の経過を嫌でも気づかされるようだ。

「…………あ」

 幼い頃からライハルトは、美しく、かっこよく、令嬢の人気が高い人だった。
 けれど、年を経て、今のライハルトはもっと素敵だ。
 そんなことに、気をとられてしまったせいなのか、ティアーナは金色の光に反応するのが、少し遅れてしまった。

 ***

 そこは、王宮の一室。
 かつて、第三王子だったライハルトの居室だった場所だ。
 今も当時のまま、いつでも使えるように整えられたその部屋に、ティアーナは、ライハルトに横抱きにされたまま入る。

「ライハルト様……」
「この部屋を、覚えているか……」
「…………」
「そうだな。そんなはずないのに、馬鹿なことを聞いた」

 そのまま、ライハルトはティアーナをベッドに腰掛けさせ、床に膝をついた。

「王弟殿下が、床に膝をつくなんて……」
「はは、そんな言葉すら、彼女の言葉に聞こえてしまうなんて、頭がおかしくなったのか」

 脱がされたハイヒール。
 華奢なその足を、そっと持ち上げて、ライハルトが顔を近づけていく。

 ***

「ふぁっ!?!?」

 急に上げてしまった奇声に、ライハルトが少し驚いたようにティアーナを見つめる。
 金色の光に飲まれて、未来視を見るまでは、いつもほんの一瞬の猶予がある。
 だから、いつもならティアーナ自身は、未来視がもしかしてある、一つの未来でしかないということを理解することができる。

 それなのに、今日の未来視はあまりにも不意打ちすぎた。

「顔が赤いな……」
「ひゃう!?」

 ミリティアの記憶を取り戻してからというもの、ティアーナは驚くと変な声が出てしまうようになった。
 もちろん、ミリティアは、ライハルトの前以外では、どこまでも完璧な公爵令嬢だった。
 ただ、彼の前だけは、どうしても素の自分になってしまうだけで……。

「―――っ、勘違いしないでほしいが、今日の婚約は、俺から望んだものだ。あなたの幸せに必要な間、利用してほしい」
「…………そこに、ディールス公爵の幸せは、ありますか?」
「…………不思議だな。あなたがいると、忘れていた幸せという感覚を思い出すようだ」

 その言葉を告げながら、ライハルトの眉間にはあいかわらず皺が寄っていて、どこか辛そうだ。
 微笑みかけた唇が、なぜか泣くのをこらえているように、歪む。

「忘れて……いたのに、な」

 あいかわらず、かすれてしまった声は、聞き取ることができない。
 ライハルトはもう一度、手を差し伸べる。
 アイスブルーの瞳は、ティアーナを通り越し、懐かしい誰かを見ているように思えた。
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