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第4章

聖女の告白と戦い 3

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 ミルは茫然と空から地表を見下ろす。
 敵が、多すぎる。
 ミルを倒さなければ、魔法がやまないと気が付いたのか、地上の魔獣でも遠距離攻撃を得意とする者は、空に向けて攻撃を始めた。

「息つく暇もないとは、こういうことね」

 思ったよりも、早く限界が訪れてしまいそうな予感。
 その時、ミルの後頭部を色鮮やかな鳥の魔獣の突撃が掠め、クラリと脳震盪のように意識が一瞬失われる。
 とたんに落下していくのを感じながらも、魔法の発動が出来ない。

 ――――終わった。

 あまりにもあっけない最後。今までの努力は、何の意味もなさなかった。
 周りのご令嬢たちが、ドレスに、化粧にと華やかに楽しそうにしている中、魔術の深淵だけを見つめてきたのに。
 今まで、武装代わりにまとっていたドレスも、化粧もそぎ落としたのに。届かなかった。

「ミル!」

 ドサリ。軽い感触で、地面にぶつかることなく抱き留められた。
 クラクラする意識を無理に浮上させ、目を開ければ、目の前には、ほっとした表情でほほ笑む剣聖。

 攻撃の手を緩める余裕なんてないはずだ。
 幾多の傷が、それを証明している。
 そして、魔獣の一斉攻撃が迫っていた。

「――――馬鹿ね。もう少しは、長生きできたのに」
「ミルと、一緒がいい」
「ほんとバカ」

 確かにそこにある体温。こんな終わり方も悪くないかもしれない。
 魔術ばかり求めて、近くにいた幸せに目を向けようとしなかった報い。
 それでも……。

 ――――ギャンッ!

 その時、魔獣たちがミルとロイドから距離をとる。

「――――お前たち」

 そこには、銀狼の群れがいた。
 魔獣であるはずの銀狼の群れは、ミルとロイドの周囲を守るように取り囲んでいる。

「――――え? 銀狼って、確か」
「家族」
「そ……。そうよね?」

 二人の終わりには、ほんの少し猶予があるようだ。
 だが、ミルが対空戦から離脱したことで、王都には空からの攻撃が降り注ぐ。
 冒険者たちに、誘導された住民たちは、地下へと逃れていた。
 だが、終わりが近いことを誰もが予想していたのだった。

 そんな中、王宮から逃れる一団。それは、集中砲火を受け始めた王宮と王都から、逃れようとする王侯貴族と一部の高位貴族だった。
 一部の騎士達は、王族から離反し、すでに王都周辺の戦いに身を投じている。
 王族を見限ったのだろう彼らは、守護騎士レナルドと聖女が王都に戻ってきたという情報を得て、正門へと向かっていた。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「思ったよりも、戦っている人が多いです」
「――――自分で守ろうともしない者に、用はないですから」
「……これも、レナルド様が?」
「騎士団長とは、同期です。王族に従うことを望まない人間は多い。聖女様を旗印にすれば、あっという間に半数が離反しました」

 たしかに、私の扱いはひどかった。
 それでも、聖女として最前線に立ち、慈善事業に力を入れる中で、貴族や騎士たちの中にも、真っすぐに前を向き、人のために戦う心を持つ人たちがいることを知った。

 だから、私は戦い続けることを選んだの。

「――――とりあえず、王都全体に結界を張ります」
「無理はなさらずに」
「いいえ……。なぜか、力がみなぎっているの。できる」

 桃色の光が、今はもう王族のいない王都全体を包み込んだ。
 私は、すでに王族が王都の外に出ていることなど知る由もない。
 ただ、出会った人たちの笑顔を守りたい。
 そして、レナルド様と、その場所でほほ笑んで……。

 そこで浮かぶのは、幸せそうに笑うレナルド様。
 なぜ、レナルド様が自分のことを許せないのか、まだ聞いていないけれど……。

 どうか、幸せになって。

 桃色の魔力が、王都に降り注ぐ。
 そこに魔獣が侵入することはできない。
 空に浮かぶのは、聖女の魔法陣。

「うわぁ。ずいぶん大きいわ」
「さすがです。――――聖女様」

 私のことを褒めながら、あっという間に魔獣を倒していくレナルド様。
 シストは、『あと150匹』とつぶやいていた。
 この調子なら、すぐにその数に到達するだろう。

「――――シスト、ナオさん」
「聖女様? 俺の前で、ほかの男の名を呼んではいけません」
「心……狭いです」

 シストは聖獣様だ。男性ではない。
 あれ? でも、初代聖女を愛しているみたいな言い方をしていたような?
 聖獣様と初代聖女様の恋物語? ときめく。

「俺の心の機微全ては、聖女様限定ですから」

 ラベンダー色の瞳が細められ、私のことを見つめた。
 レナルド様の動きも、どんどん良くなっているみたいだ。
 シストが言っていた言葉や、守護騎士をやめてしまったことと関係があるのだろうか。

 ほどなく合流を果たした、赤い髪と瞳のロイド様と、紫の髪をいつになく振り乱した、服が破れ、いつも以上になぜか色っぽいミルさんと合流を果たすのは、この直ぐ後のことなのだった。
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