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第4章
異世界の聖女になんて頼らない
しおりを挟むどれくらい戦い続けているだろう。
魔獣の数は、少なくなっている気がする。
でも、ダメだ。魔人を倒さなくては、魔獣は無限に沸き続ける。
「レナルド様……」
レナルドは、すでに王都に来る前から戦い続けている。白かった騎士服も、今は見る影もない。
その戦い方は、徐々に力を増しているようだった。けれど、一方で確かに限界が近いように見える。
その時、一筋の光が、私の結界をくぐり抜ける。そうか。限界なのは、レナルド様よりむしろ、私。
「聖女様!」
悲痛な叫び声が聞こえる。
それと同時に、『これで149匹。意外と時間かかったね。レナルド?』という、あまり緊張感のない声が聞こえた。
目の前にいるのは、白い獅子。軽く尻尾を振れば、光の矢は簡単に弾かれる。
その獅子が、口に咥えていた、銀髪の女性をそっと地面に横たえる。
「……ようやく、完全に魔力が回復した。聖女ナオ……。君は確かに、偉大な聖女だったよ」
額をその女性に擦り寄せるシスト。
眠るようなその人は、目を開けることがない。
「シスト……。ナオさんは」
「ナオは、最後まで戦ったよ。さ、今度こそ長い戦いを終わりにしよう」
目の前には、悍ましい見た目の魔人が立っている。
「聖女よ……。無理に引き寄せられたのは、お前も同じではないのか?」
「っ……事実だけど、今は大事な仲間たちがいるから」
今度は、絶対に負けない。
ピンクの魔力は、桜の花びらみたいな小さな光を散らしながら、魔人を捕らえる。
「魔術の深淵を」
ミルさんが、巨大な魔法陣を構築した。星が荒野に降る。まるで、世界の終わりみたいに。
全て砕け散った魔石。その最後の一つが砕け散る。そのネックレスに嵌められていた魔石は、まるでロイド様の髪と瞳の色みたいな赤色だった。
「……ロイド!」
魔法を放って倒れこんだ、ミルさんの叫びとほぼ同時に、魔人に斬りかかる剣聖の剣。
そして、星空が散るような、魔力の塊。
魔人は、正面からそれを受け止める。
そして、レナルド様が、もう一度その胸に剣を刺す。
「守護騎士か。歴代のように、また、俺を封印するために、命を捧げるのか?」
「お前を封印するためではない、聖女様のためです」
『……それに、魔人、君でちょうど150匹目だ』
「レナルド様! シスト!」
『ほら、早く僕らに引導を渡してよ。最後の異世界の聖女』
今度こそ、赤いリボンが、魔人を包み込む。
そのリボンがよく似合う少女と、シスト。お揃いの赤いリボン。それは、幻だったのだろうか。
『さあ、レナルドは、邪魔だから離れてね!』
ドカッと音を立てて、レナルド様の体を吹き飛ばし、シストが笑う。
『可愛い聖女、力を貸してよ。彼女との約束を果たすから。最後に、異世界の聖女になんて頼らない世界にして、と願った僕の聖女との』
涙がとめどなくこぼれるのに、嫌なのに。
それでも、後ろから、誰かが私に力を注ぐ。
それは、たぶんシストとともにいつも描かれる初代聖女に違いない。
魔人は、封印される。100年早く。
それとともに、シストの姿もあっという間に霞んで消えていく。
私の腕にはめられた、紫の宝石が、最後の魔力を振り絞り、粉々に砕け散った。
そして、世界は静かになる。
魔人のいない世界。聖女のいない世界。
コロコロと、転がってきた箱は、赤いリボンが結ばれた、封印の箱だった。
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