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第2章
褒美をねだったのは、俺ですが。
しおりを挟む序列2位と3位の戦いが行われるのは、3年ぶりだ。
三年前に、ディオス・ラベラハイトを連れてきた、ジークハルト・ガルシア国王陛下は、序列決定戦への異例の参加を許した。
そして、ディオス様は、あっという間に序列2位まで、上り詰めた。
その事実を、私は詳しく知っているわけではない。
でも、三年ぶりに2位と3位の序列をかけた戦いが行われるのであれば、会場の注目は、完全に序列2位である、ディオス様と、序列3位である、ジェイル・メイヤー様に集まるはずだ。
それなのに、この状況はいったい。
自意識過剰なのではない。間違いなく、私に周囲の視線が集中している。
ルシードと同じ髪の色、ジークハルト陛下と同じ瞳の色のせいなのだろうか?
結界があるせいで、ほとんどの観客は、私に近づくことも出来ない。
まあ、結界のせいだけでは、ないのかもしれない。
私の隣にいる人が、問題なのかもしれない。
「――――それにしても、リリーナの弟は、なかなか強いな。わが軍には、広範囲魔法を使いこなす人材が少ないから、期待している」
「あの、光栄ですわ? ところで、どうしてこちらに」
「軍の序列上位決定戦に、責任者である俺がいることが、そんなにおかしいか?」
「い、いえ……。でも、この場所にいることもないのでは?」
「不満か?」
不満なんて、さすがにガルシア国王陛下に、そこまでの不敬を働くことはできない。
でも、注目を集めてしまっているのは、陛下のせいだと思う。
または、ディオス様が私のことを抱きしめて守ったせいなのだろうか。
やっぱり、この色合いのせいなのだろうか。
会場の中心で、剣を構えるディオス様とメイヤー様。私自身は強くないけれど、兄様たちやルシード、ディオス様を見て育った私は、相手の強さを押しはかるのは、得意な方だ。
「メイヤー様、強いですね」
「そうだな。わかりやすく、二人は強い」
チラリと、横目に見たジークハルト陛下。
うん。人間かな? やっぱり、魔王だよね。と思うほど強い。
二人とも動かない。お互いの実力は、拮抗しているのだろう。
「……ディオス様」
私はただ、ディオス様が怪我なんてしないように、願うしかない。
次の瞬間、二人の残影しか残らなかった。
派手な音と共に、打ち合った二人。
膝をついたのは、メイヤー様だった。
「ふーん? いつもよりキレがいいな。姫が見ているからか、はたまた褒美に釣られたか」
剣を鞘に納めた音が、妙に耳に残る。
その後の大歓声。こちらに、顔を向けて微笑むディオス様。
「無傷だな」
「良かったです」
「女神は、約束通り、褒美を与えないといけないな」
「え、何も持ってこなかった」
「取り敢えず、行ってこい。勝利の褒美は、女神からの接吻と決まっている」
こんなことなら、何か準備しておいたのに。まさか、街歩きから、序列決定戦になだれ込むなんて、いったい誰が想像するだろう。
「あの。ディオス様、おめでとうございます。あと、ごめんなさい」
「リリーナ? どうして謝るんですか」
だって、私には、ディオス様にあげられるものがない。いつも、助けてもらうばかりで。
「……屈んでください」
会場が沸き立つ。ご褒美になるとは思えないけれど、私は覚悟を決める。
ディオス様の頬にキスをする。
その瞬間、もう一度横抱きにされた。
「ディ、ディオス様⁈」
「褒美をねだったのは俺ですが、猛烈に後悔しています」
「えっ、そんなにご不満でしたか⁈」
「リリーナの、可愛い姿を、衆目に晒すなんて……。帰りましょう」
ピイイッと口笛を吹けば、今日も竜が空から舞い降りる。一体どうやって、竜と仲良くなったのだろう?
気がつけば、私たちは、青空高く舞い上がり、誰の目も触れない場所で、口づけを交わしていた。
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