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第3章

悪役令嬢不在の物語

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「……予想以上の圧だったな」

 なんでもないことのように呟いたシェアザード兄様。三兄弟お揃いの、ダークブルーの瞳を細める。
 ヒヤヒヤしていたのに、ずいぶん余裕そうです。

「……リリーナを、ガルシア国王陛下まで贄にしようと言うなら、ルンベルグ領は最後の一人まで両国と戦うつもりだったが」
「えっ、まさか」

 そんな状態ならば、たぶん私は、悪役令嬢の運命を受け入れる。だって、ルンベルグ領を巻き込みたくないから、悪役令嬢のルートを必死で避けてきたのだから。

「……だが、ディオスの選択は、間違いではなかったようだな。……ところで、ルシード。気配を消していても、バレバレだ。それに、不敬だ。やめておけ」
「完璧だと思ったのに。アベルに教えてもらった方法、画期的だと思わないか?」
「確かに、戦況を大きく変えるだろうが。俺には効かないぞ?」
「くっ、金にものを言わせた魔道具。いやらしくないか?」

 装備も実力の内だという、シェアザード兄様。
 たしかに、ルンベルグでは、できる限り質の高い武具を身に着けるように、教育されていた。

「ディオスの剣だって、ズルくないか?」
「――――普通の剣ですよ?」

 確かに、身長が伸びどまってからは、ずっと同じ剣を愛用していたディオス様。以前とは剣が、変わっている。葡萄色の宝石がはめ込まれた剣だ。

「どこが普通なんだよ! 倒した敵の数だけ強くなる類の剣だろ」
「――――倒した敵の数など、覚えていませんが」

 ガルシア国王陛下に賜ったという剣は、葡萄色の宝石がはめ込まれている以外には、ごく普通の剣に見えるのに。

「これからは、半分以上俺が倒すけどな!」

 ふふんっ、と笑いながらルシードが、腰ベルトから引き抜いた杖は、やはり葡萄色の宝石がはめ込まれた杖だった。

「ルシード、そんな杖持っていなかったわよね?」
「広範囲の効果力魔法を連発で放ったら、元の杖が壊れちゃって。序列戦の褒美だと言って、賜ったんだ。魔法の威力も範囲も、これを使えば……」
「さて、ルシード?」
「はっ、シェア兄さん……」
「王国魔術師団の人間が、どうしてガルシア国の魔術師団で活躍している? 少し、こちらで今後について話そうか?」
「こ、これには深いわけが……」

 二人そろうと、いつも賑やかだった。
 シェアザード兄様とルシードは、なんだかんだ言って仲が良い。

 お屋敷の庭には、ディオス様と私だけが、取り残される。
 ところで、さっきからマントの中に隠されたままなのですが、それについてのツッコミが、二人駆らなかったのだけれど、それでいいのだろうか?

「ディオス様……。そろそろ」
「そうですね、冷えてきましたから、中に入りましょうか」

 なぜか、マントにくるまれたまま、お姫様抱っこされる。
 ディオス様、今日は私ほとんど自分の足で歩いていない気がします。
 それに、疲れているのではないですか?

 ふと、見上げれば、その瞳が私をじっと見つめている。
 浅瀬の海の色の瞳のせいで、私は少しグリーンを帯びた水色が大好きになってしまった。

「疲れたでしょう、リリーナ」

 多分疲れているのは、ディオス様のほうだと思います。
 たしかに、竜の背に乗ったり、街歩きから序列決定戦に突入したりと、目まぐるしかったけれど。

「――――楽しかったです」
「……そうですか、良かった」

 そう言って笑ったでディオス様は、露店でメイラー様から購入した、小さな魔石が輝くネックレスを、私につけてくれたのだった。
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