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第3章
スライムと私。
しおりを挟むその日から、マティ様は、私のそばを離れなくなった。抜け毛で、魔力を補給しているらしく、今まで私の髪を拾っては喜んでいた精霊たちが、ぶんぶん私の周りを飛び回っている。
……みんな、少し怒っているのかな?
けれど、さすが魔王軍の序列一位様には、文句を言うことができないらしい。精霊たちは、私とマティ様の周囲を飛び回るばかりだ。
小さくなったおかげで、可愛らしいスライムにしか見えなくなったマティ様。
私の髪の毛なんて、取り込んでしまったせいで、弱くなったのではないかと、人(?)ごとながら、少し心配になる。まあ、マティ様は、弱くなったりしていないこと、私はすでに理解している。
* * *
「……リリーナ、ソレは」
マティ様に名前をつけた、約三十分後。深刻な話をしていたらしく、眉間に皺を寄せたディオス様が、戻ってくるなり、ポカンとした顔で、序列一位様を、「ソレ」呼ばわりした。
その瞬間、周囲に張り巡らされた、覇気、殺気、強者のオーラらしきもの、忘れられない。
私だけでなく、ディオス様まで、一瞬動くことができなかった。マティ様を怒らせてはいけない。それは、事実に違いない。
「……序列一位様。どうぞこちらに」
困惑を隠せないディオス様が、マティ様に手を差し伸べる。けれど、嫌々するように体を震わせたマティ様が、私から離れる様子はない。
そして、マティ様は、名前で呼んでほしいと思っている。
「マティ様ですよ、ディオス様」
「は? リリーナ、何を言っているのですか。まさか、名前をつけたのですか」
何か問題があっただろうか。名前をつけただけなのに。
「え? 序列一位を、従魔にしてしまった?」
「え? 名前をつけることって、何か深い意味があったのですか?」
「……それ以上に、序列一位様から、リリーナの魔力の気配」
「あっ、髪の毛を召し上がりました」
長い、長~い、ため息。
こんなに長いため息、滅多に出会えないに違いない。まして、滅多に感情を表に出さない、ディオス様のため息だ。
「少し、戻ります……。序列一位様、いいえ、マティ様。リリーナを守ってくださるということですね? 返答によっては」
マティ様は、紫の体を器用にも縦に揺らした。肯定の意味なのだろう。
「そうですか……。マティ様、どうぞリリーナをお守りください」
ぽよぉん、とマティ様が、揺れる。まるで、任せておけ! と言っているみたいに。
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