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スプリンティア開幕。そして……

スプリンティア開幕。そして……5

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 「そう言えばさ……前から気になってたんだよね。何でターニャはさ……そんなにヤマト君にベッタリになったわけ?前は嫌ってたよね。最初にギルドに来たときは、ヤバくなかった?」
 ぷは~。と思わず言ってしまうのではないかという飲みっぷりで、一気に酒を飲み干し、アリシアはターニャさんに詰め寄り、問い詰めるように口を開いた。
 「……あ。それ……私も気になってた。」
 どうやら、ララもアリシアと同じ事を思っていたらしい。同じように詰め寄る。
 「何でって言われても……別に本当の意味で嫌ってはいませんでしたし……良いではないですか。」
 ターニャさんは、はぐらかすように口を開き、答えようとしない。
 「おっ。ベッタリというのは否定しないんだな。まあ、オレはターニャがなんで主様に心を許したかってのが気になるね。オレが主様達と知り合った時は、もう、何時ものターニャではなかった気がしたからさ。」
 ニヤニヤと面白そうにエリが言う。
 実はターニャさんが俺に対する態度が変わったのにはキッカケがあった。それは、エリが俺に会う前だ。
 「いいではないですか。ターニャがヤマト様にベッタリになったって。私達は家族なのですし。」
 イリアはそのキッカケの出来事を知っているからなのか、イリアは楽しそうに言う。
 「そうですよ。イリアお嬢様の言う通りです。全く……。」
 からかわれて、焦ったのか、ターニャさん近くにあった酒より、そっと差し出されたティーカップを手に取り、口にした。
 そして、アリシアはまた同じように質問する。
 「ねえ。ターニャ。ターニャはどうして、ヤマト君にベッタリになったの?」
 その質問にターニャさんは答えない。というか動かない。動かないまま、少しの沈黙が流れ、ターニャさんは口を開いた。
 「あのりぇしゅね。しょうれしゅね……。」
 口を開いたターニャさんの顔は真っ赤になり、ろれつが回っていない。
 それを見て、アリシアは微笑む。その微笑みは、口元だけで、目は笑っていなかった。アリシアが最近よく見せる、怖い笑みだ。
 ターニャさんの異変に気がついたイリアはティーカップを覗く。
 「ちょっと!アリシア!!ターニャにコーヒーを飲ませたのですか!?」
 「え?何の事??ボクはただ、ボクが頼んでおいたコーヒーを少し動かしただけだよ?それを、ターニャが勝手に飲んだだけ。ボクは何もしてないよ??」
 まさに確信犯だろう。アリシアは悪びれもなく言う。不適に微笑みながら。
 正直、こえぇよ。アリシアさん……。
 実のところ、ターニャさんはコーヒーで酔うのだ。酒にも酔わない、ターニャさんはカフェインで酔うのだった。
 この世界には、ちゃんとコーヒーがある。もちろん、紅茶なんかにもカフェインは入っているが、この世界のコーヒーはその比ではないと思う。
 前の世界で、コーヒー好きだった俺がこの世界ではあまり飲まない。それは、俺でさえも数杯飲めば、酒を飲んだ時のようになるからだ。
 そして、カフェインに弱いターニャさんだと……。
 「で……ターニャは何でマスターと……仲良くなったの?」
 ここぞとばかりに、ララもたたみかける。
 こいつら、グルか?
 「そょれは……れっしゅね。ヤマトしゃまが……私を助けてくれたからでっしゅよ~~。」
 そう言い、ターニャさんはテーブルに突っ伏して寝てしまった。
 一口でテンションが高くなり、直ぐに眠ってしまうのだ。気分が悪くならないのは良いことだが。ターニャさんにコーヒーは飲ませられない。
 「それは……どういう事でしょうか?主様。」
 エリは俺にたずねる。
 ん~。話して良いものだろうか?ターニャさんには止められているし……。どうしようか?
 俺はイリアの方を見る。すると、イリアは頷いた。言っていいという事か?
 まあ、もう、概要はターニャさん本人が言っているしな……。俺は手短に話す事にした。 
 
 「スティングの件は覚えているか?」
 「……うん。」
 「実は、その後、直ぐにターニャさんが何者かに拉致されそうになったんだよ。それを俺達が偶然に見つけて、助けたんだ。」
 そう。スティングの件が終わり、一週間もしない内に、ターニャさんは誰かにさらわれそうになった。
 この日、ララは女王様に呼ばれていたので、途中から城へ向かった。だから、ララはこの事を知らない。ターニャさんにも後で秘密にして欲しいと言われたから、秘密のままだった。
 「お言葉ですが、主様……。ターニャが暴漢ごときに遅れはとらないと思われますが……。」
 エリはターニャさんの実力を知っているから、当然のように言う。
 「それは俺も知ってる。何時も知らない間に背後取られてるしな。かなりの実力者だろう。でもな、コレを使われたんだ。」
 俺は、アリシアがターニャさんに飲ませたティーカップを指差した。
 「……コーヒー。」
 ララはポツリと言う。 
 「そう。コーヒーだ。ターニャさんはコーヒーに弱い。それをつかれた。」
 「でも、どうやって……。」
 アリシアは不思議そうに考える。
 俺も最初、知らなかったんだ。ターニャさんがコーヒーに弱い事。そして、ターニャさんにコーヒーを飲ませた。いや……食べさせたと言った方がいいだろう。
 「飴の中に仕込んだのさ。俺もその時にその飴を貰って食べてた。」
 「……もしかて……街で配られていた飴??あれ、食べた時、ビックリした。」
 ララも思い出したのだろう。そう、一緒に貰って食べた飴だ。
 「そう。ララの言う通り、あの時、貰った飴だ。」
 そう。この世界は飴やお菓子の試食を街頭で配っている事がよくある。チラシと一緒に。
 新聞広告やテレビCM、ネットなんかも無い世界ではお客さんを呼び込むのに必要なのだ。
 でも、その時のは違う。チラシも無かったし、ターニャさんが酔って倒れてからの処理が早かった。
 「でも……誰が?ターニャさんを誘拐とか、この世界の大半の人を敵に回す行為じゃないですか?」
 マーガレットは不思議そうに言う。
 「そうですよね。あの三大貴族を相手にする訳ですしね。」
 クエンカさんも分からないといった所だろう。
 「それだけのリスクをおっても、やるべき事があったという事でしょうか?」
 サレンサさんは考え込む、
 「正直、それは分からないのです。心当たりがあるとすれば……スティングの件の報復。バザルーナ王国が関与しているか……。それとも、スターチスが関与している可能性もあります。憶測でしかないのですが……。」
 イリアは自分の考えを言う。
 あの後、犯人を警備隊に突き出したがそれっきりで、事の顛末は分からずじまいだった。
 「……スターチスなら、有り得るか。」
 エリはぼそりと呟いた。
 ちなみに、スターチスとは、改革、変革を望まない集団……花の名前からきた組織らしい。「変わらない想い」スターチスの花言葉だ。
 改革や変革を推進、促進しようとする、女王様やターニャさんのダイクン家とは武力衝突はしていないが、対立しているらしい。何かの交渉材料にしようとしたのか……。バザルーナ国王も女王様との約束で、国内法を改正しないといけなくなったし……。
 そう考えると、イリアの憶測もあながち間違っているとは言えない。
 「でもさ、ターニャは寝ちゃってたのに、何でヤマト君が助けたって知ってるのさ。」
 アリシアは元の質問に戻る。正直、スターチスとかの事は考えたくなかったから、良かった。
 「それは簡単ですよ。その日、あった出来事を私が後でターニャに話ましたから。ララは途中でお城へ向かいましたが、私もヤマト様と一緒に行動していましまし、ヤマト様が暴漢を倒し、おんぶして帰ってくれた事とかをですね。ターニャに後でかっこよかったと念入りに教えました。ターニャは昔、私と会った時の事を思い出したと思いますよ。何気に、ターニャって夢見る乙女ですから、白馬の王子様ではありませんが、ヤマト様にキュンとしたと思います。」
 キュンって……まあ、確かに、あの件以来、少しずつだけど、ターニャさんの態度は変わっていったと思う。
 「(でも、肝心なところは、そこではないと思うのです。なぜ、ターニャがコーヒーに弱い事を知っていたのか……まあ、私の杞憂なのかもしれませんし……。)」
 イリアが何かボソリと言ったように聞こえた。
 「イリア、どうした?何か言ったか?」
 「いいえ。何でもありませんよ。気になさらず。さあ、ターニャの事も分かりましたし、飲みましょ~!」
 イリアはそう言い、楽しそうに飲み始めた。
 俺の気のせいだったのか?少し何か引っかかったまま、歓迎会は続いた。
 
 
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