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アプリコッビー
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そこは小高い丘の上にあって石造りの簡素な建物と広い杏子畑があるだけの村だった。見るからにお金がなさそうな村だ。
当摩、エリカ、京史の三人は馬車に揺られながら、辺りの風景を見回した。とても寂れていた。
「ハーフエルフのコーチはジェシカさんという女性です。騎士なので礼を持って接していただきたいんですけど、大丈夫ですか当摩君?」
「えっ⁉ う、うん。たぶん」
馬車を降りると若い軽鎧に身を包んだ長身のハーフエルフと年老いた優雅なローブに身を包んだこちらもハーフエルフの女性が出迎えてくれた。
ハイエルフは肌が造り物みたいに白い人が多いが、ハーフエルフは少し褐色がかった肌の色をしている。両方とも特徴的な長い耳でエルフであることはすぐにわかる。
「こんにちは、マーニャおばあちゃんにジェシカさん」
エリカが深々と頭を下げた。当摩もそれに見習い頭を下げる。京史も優雅に礼をした。
「エリカちゃんも久しぶり、ちょっと背が伸びたかしら?」
綺麗な金髪のショートヘアそして碧眼。よく日に焼けた褐色の肌が健康的。胸のボリュームは十分すぎるほどあって、腰のくびれがびっくりするくらいはっきりしている。脚が凄い長くてスーパーモデルみたいだった。顔立ちはフェルメールの絵画みたいに整っていて、そこは少しハイエルフの血が濃いような気もする。
「はい、少しだけ伸びました。ジェシカさんは変わらずお元気そうで」
ジェシカは微笑みを浮かべた。
「そっちの若い戦士の子が生徒かい?」
マーニャが訊いた。
「は、はい、浜屋当摩といいます。よろしくお願いします」
「見ただけでジョブが解るんですか?」
と京史は少し驚いたようだ。
「色んな冒険者を訓練するのがワシらのしごとさね。ジョブ鑑定なんてしなくったって大体わかるのよ。あんたはメイジ系だね。おそらく自然系。ただ格闘も相当にやる方だね」
「恐れ入りました。星野京史といいます。サンダーメイジです」
「そう言えばエリカちゃんのジョブって?」
「戦乙女ですよ」
(うん、それっぽいジョブだ)
「エリカちゃんいつの間にやら黒の魔女の使徒になったのかい? 大魔導士エリゼ殿の妹だったよね?」
「訳あって、今はこの当摩君の僕なんです」
「へえ……エリカちゃんの方が格上にみえるけどね」
「冒険者ランクはわたしの方が上なんですけど、当摩君は極めて珍しいエクストラスキルを持っています」
「ふ~ん、興味はあるけど」
「わたしの口からは言えません、言っても信じてもらえるかどうか」
ジェシカは当摩を足先から頭上まで眺めまわした。
「魔力はあるけど普通に見えるわね」
「ま、秘密なら秘密でいいわい。わしらは稽古をつけるだけ」
「そうしてもらえると助かります」
「早速、道場のほうへ行きましょうか」
ジェシカはとても道場とは思えないような、小さな石造りの小屋に入っていった。
「ここが道場?」
当摩が疑問を口にする。
「入ればわかります」
入るとそこには地下へ続く階段があった。
「おお、地下にあるんだ」
一同は先をいくジェシカに続く。階段はけっこう長かった。
「ここが道場よ」
ついた先には魔法光で隅々まで照らされた道場があった。学校の剣道場くらいの大きさは十分にある。
「すっ……凄い、こんな広い空間が地下にあるなんて」
「初めてみると驚くよね」
エリカはニコニコと笑っている。ジェシカはちょっとドヤ顔を見せた。
「なんでこんな地下に作ってあるの?」
「魔王の勢力から存在を隠すためにさ」
マーニャが言った。
「わたしたちハーフエルフほど、魔王討伐のために力を尽くしてきた種族は他にいない、召喚勇者が沢山現れる前は、わたしたちが最前線でモンスターと戦っていたんだよ」
「ジェシカはそのなかでもとびきり沢山モンスターを狩った英雄さね」
「英雄は言いすぎよおばあちゃん」
こんな穏やかな人が、そんな戦場を生きてきたなんて想像もできないけど、きっと本当の意味で強いからこの人はこんなに穏やかなんだろう。
「そう言えば今はモンスターとの戦闘はほとんど召喚勇者がやってるんだよね」
「そうです、異世界の一般人より一般的な召喚勇者の方が強いことも多いし、なにより異世界人がモンスターと戦うのはハック&スラッシュゲームのハードコアモードのようなものよ。一度死んでしまったらそれきり、復活も蘇生もないですからね」
エリカの言葉にふ~むと、当摩がうなった。
「ハーフエルフは勇敢だったから戦ったの?」
「ふっ……クスクス」
ジェシカは笑い、マーニャは複雑な表情を浮かべた。
「違うよ。戦士当摩、わたしたちが最前線で戦っていたのは、人間にもエルフにも差別されていたからよ。わたしたちは地位向上のためには戦わざるを得なかった。この村もとても貧しいわ、特産物の杏子も二束三文でしか売れない。ここの杏子は高級料理屋でも使われる品質なのにね」
「そ……そうだったんだ」
「召喚勇者にこの世界の差別の感覚なんてわからないでしょうしね。でも、エリカやあなたはわたしたちを差別したりはしない。ここに教えを請いに来る召喚勇者はたいていとても素直でいい子」
ジェシカは髪をかき上げて、薄く笑った。
「わたしの指導を受けた召喚勇者が活躍すれば、それだけこの村のためにもなる。さっ……始めましょう」
当摩、エリカ、京史の三人は馬車に揺られながら、辺りの風景を見回した。とても寂れていた。
「ハーフエルフのコーチはジェシカさんという女性です。騎士なので礼を持って接していただきたいんですけど、大丈夫ですか当摩君?」
「えっ⁉ う、うん。たぶん」
馬車を降りると若い軽鎧に身を包んだ長身のハーフエルフと年老いた優雅なローブに身を包んだこちらもハーフエルフの女性が出迎えてくれた。
ハイエルフは肌が造り物みたいに白い人が多いが、ハーフエルフは少し褐色がかった肌の色をしている。両方とも特徴的な長い耳でエルフであることはすぐにわかる。
「こんにちは、マーニャおばあちゃんにジェシカさん」
エリカが深々と頭を下げた。当摩もそれに見習い頭を下げる。京史も優雅に礼をした。
「エリカちゃんも久しぶり、ちょっと背が伸びたかしら?」
綺麗な金髪のショートヘアそして碧眼。よく日に焼けた褐色の肌が健康的。胸のボリュームは十分すぎるほどあって、腰のくびれがびっくりするくらいはっきりしている。脚が凄い長くてスーパーモデルみたいだった。顔立ちはフェルメールの絵画みたいに整っていて、そこは少しハイエルフの血が濃いような気もする。
「はい、少しだけ伸びました。ジェシカさんは変わらずお元気そうで」
ジェシカは微笑みを浮かべた。
「そっちの若い戦士の子が生徒かい?」
マーニャが訊いた。
「は、はい、浜屋当摩といいます。よろしくお願いします」
「見ただけでジョブが解るんですか?」
と京史は少し驚いたようだ。
「色んな冒険者を訓練するのがワシらのしごとさね。ジョブ鑑定なんてしなくったって大体わかるのよ。あんたはメイジ系だね。おそらく自然系。ただ格闘も相当にやる方だね」
「恐れ入りました。星野京史といいます。サンダーメイジです」
「そう言えばエリカちゃんのジョブって?」
「戦乙女ですよ」
(うん、それっぽいジョブだ)
「エリカちゃんいつの間にやら黒の魔女の使徒になったのかい? 大魔導士エリゼ殿の妹だったよね?」
「訳あって、今はこの当摩君の僕なんです」
「へえ……エリカちゃんの方が格上にみえるけどね」
「冒険者ランクはわたしの方が上なんですけど、当摩君は極めて珍しいエクストラスキルを持っています」
「ふ~ん、興味はあるけど」
「わたしの口からは言えません、言っても信じてもらえるかどうか」
ジェシカは当摩を足先から頭上まで眺めまわした。
「魔力はあるけど普通に見えるわね」
「ま、秘密なら秘密でいいわい。わしらは稽古をつけるだけ」
「そうしてもらえると助かります」
「早速、道場のほうへ行きましょうか」
ジェシカはとても道場とは思えないような、小さな石造りの小屋に入っていった。
「ここが道場?」
当摩が疑問を口にする。
「入ればわかります」
入るとそこには地下へ続く階段があった。
「おお、地下にあるんだ」
一同は先をいくジェシカに続く。階段はけっこう長かった。
「ここが道場よ」
ついた先には魔法光で隅々まで照らされた道場があった。学校の剣道場くらいの大きさは十分にある。
「すっ……凄い、こんな広い空間が地下にあるなんて」
「初めてみると驚くよね」
エリカはニコニコと笑っている。ジェシカはちょっとドヤ顔を見せた。
「なんでこんな地下に作ってあるの?」
「魔王の勢力から存在を隠すためにさ」
マーニャが言った。
「わたしたちハーフエルフほど、魔王討伐のために力を尽くしてきた種族は他にいない、召喚勇者が沢山現れる前は、わたしたちが最前線でモンスターと戦っていたんだよ」
「ジェシカはそのなかでもとびきり沢山モンスターを狩った英雄さね」
「英雄は言いすぎよおばあちゃん」
こんな穏やかな人が、そんな戦場を生きてきたなんて想像もできないけど、きっと本当の意味で強いからこの人はこんなに穏やかなんだろう。
「そう言えば今はモンスターとの戦闘はほとんど召喚勇者がやってるんだよね」
「そうです、異世界の一般人より一般的な召喚勇者の方が強いことも多いし、なにより異世界人がモンスターと戦うのはハック&スラッシュゲームのハードコアモードのようなものよ。一度死んでしまったらそれきり、復活も蘇生もないですからね」
エリカの言葉にふ~むと、当摩がうなった。
「ハーフエルフは勇敢だったから戦ったの?」
「ふっ……クスクス」
ジェシカは笑い、マーニャは複雑な表情を浮かべた。
「違うよ。戦士当摩、わたしたちが最前線で戦っていたのは、人間にもエルフにも差別されていたからよ。わたしたちは地位向上のためには戦わざるを得なかった。この村もとても貧しいわ、特産物の杏子も二束三文でしか売れない。ここの杏子は高級料理屋でも使われる品質なのにね」
「そ……そうだったんだ」
「召喚勇者にこの世界の差別の感覚なんてわからないでしょうしね。でも、エリカやあなたはわたしたちを差別したりはしない。ここに教えを請いに来る召喚勇者はたいていとても素直でいい子」
ジェシカは髪をかき上げて、薄く笑った。
「わたしの指導を受けた召喚勇者が活躍すれば、それだけこの村のためにもなる。さっ……始めましょう」
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