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後編
しおりを挟む「ちょっと!いったい全体これはどういうことなの!?」
義母ジルベールが、私に食ってかかる。
いいや、もうそれは違う。
もうジルベールは私の義母ではないのだから。
「どうもこうもありませんわ。ジルベールさん」
私はあえてそれを強調するために、今までと違う名前呼びで彼女を呼んだ。
彼女は顔を真っ赤にして息を呑んだ。
私はさらに続けた。
「離婚届けを提出して、受理されました。それだけのことです。私とあなた達は、もう他人ですから。他人の家の家事をするのはおかしいでしょう」
元義母は、今日に限って私が何の家事もしていないことに腹を立てていたのだ。
しかし、今起きているのは、家事のボイコットなどという軽い事態ではない。
それをどこまでジルベールが理解しているかはわからないが。
ジルベールの横には、元夫もいた。
「お前、こんな事をしてただで済むと思っているのか?」
「さあ、なんのことでしょう?わかりませんわ」
元夫が言いいたいのは、私の実家への援助を打ち切るぞという事だろう。
私はわざとすっとぼけてみせた。
「お前の実家への援助を打ち切るぞ!」
予想そのままの台詞を吐く元夫。
私は思わず吹き出してしまった。
「どうぞ、ご自由に。私とあなたは、もうなんの関係もありませんものね。でしたら援助していただく理由もありませんわ」
「なんだと!貴様、俺に向かって……」
俺に向かってもなにも、もうなんの関係もない、赤の他人なのだ。
気を遣う謂れもない。
確かに、私の実家はこの人達の援助に頼っていた。
それこそ、私を人身御供に出さなければならないほどに、切羽詰まっていた。
しかし、それは決して私の両親が私のことを嫌っていたというわけではなかったのだ。
私が嫁に出た後も、私の両親は私のことを案じていた。
身売り同然で商家に嫁に入った娘が、どのような扱いを受けるのかは想像に難くなかったからだ。
そして方々に手を尽くして、私を取り返し、かつ家を再興する方法を模索していたのだ。
そして、ついに救いの手は差し伸べられた。
この国の王族の一人、それも第3王子が、私のことを見ていて下さったのだ。
現在、この国の次の国王は第1王子と決まっているため、第3王子ともなればかなり自由に振る舞うことができる。
たとえ結婚相手が離婚経験有りでも、たいした問題にはならない。
そう、つまり、私は第3王子に見初められたのだ。
そうと決まれば善は急げである。
私は王子との話がまとまり次第すぐに離婚届を提出し、即日受理されたのだった。
「……とまあ、そういうわけですわ」
私はそのような経緯を彼等に説明した。
「ふざけるな!そんな、そんなこと……」
怒り続ける二人を尻目に、私は商家を後にしたのだった。
その後、私の伝え聞いた噂では、元夫の家ではかなり大変だったらしい。
なにせ、家事のすべてを私一人で担っていたのだ。
掃除用具の場所も、食材の調達方法も、大量の洗濯物をさばく方法も、私しか知らない。
家事なんて誰にでもできると嘯いていた元夫達には、とても私と同じクオリティで家を回すことなんてできない。
案の定、家は大混乱に陥ったらしかった。
詳しくは知らないが、それが原因で不和になり、商売もうまくいかなくなったとか。
私はといえば、王子に愛されて、王宮でとても良い暮らしをさせてもらっている。
あの頃の辛い暮らしが嘘のようだ。
私の実家も再興を果たした。
王子の親族ということになるのだから、一気に格上げである。
そうして私は幸せな生活を手に入れたのだった。
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