学校の脇の図書館

理科準備室

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パンツも脱ぐ

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ぼくはズボンを脱ぎ終わった。下がパンツと靴下だけの「パンツ小学生」になった。今度は「ふりちん小学生」になる番だった。ぼくは思い切ってパンツを下した。ズボンまで下してしまうと図書館のそこから先は不思議と恥ずかしくなかった。
一度休みの日の昼ごろ家でテレビを見ているときどうしてもうんこしたくなって、夜にうんこしたくなった時のようにズボンとパンツを脱いでふりちん姿でトイレに行こうとした。
でも、そのときちょうど家に遊びに来たいつもおせっかいな瑤子おばさんに会ってしまい、「かっこいい!」とか「大胆!」とか散々からかわれてすごく恥ずかしかった。以来、家でも昼間いるときはなるべくうんこしないようにしている。
ぼくの家は、田舎町の普通の小さな商店でお父さんもお母さんも朝から晩まで働いていた。お母さんは本が好きで店の定休日にぼくと妹を図書館に連れて行くことがあったけど、お父さんは週刊誌も含めて本なんかめったに読むことはなかった。友だちの親や親戚も、商店主でなければ農家か工場で働いているか、あるいは大工みたいな職人かのどれかで、朝から晩まで働いていて図書館はおろか本そのものにも無縁そうな大人ばかりだった。
正月にもらったお年玉で買ったマンガ本を読んでいるだけで、年始のあいさつに来た瑤子おばさんが「●●ちゃん、難しそうな本が好きだね、将来きっと学者になるよ!」とお世辞を言ってくれるような世界だった。
ここの市立図書館の「大人の場所」の読書用の大きなテーブルにいつもいる大人たちは、瑤子おばさんのようなぼくのまわりにふだんいる大人たちとは別の世界にいるみたいな人たちだった。
ぼくのまわりの大人たちがたいてい働いている平日の昼間に、彼らはただ新聞を読んで過ごしていたり、机の上に本を積み上げるだけでぼーっとしていたり、何か 隣の人とひそひそ話をしていたり、と思い思いのことをしているヘンな大人たちだった。
昼間中からここにいる事情は具体的には知らないけれど、それぞれの理由をかかえてそこにいることは、子どものぼくにもわかったので、見て見ないふりをした。そんな大人たちも、おとなしく図鑑を読んでいる限り、読書用テーブルに座って本を読んでいるぼくのことなんかだれも気にしなかった。胸につけられた名札に書いてあるような「穴実市立穴実小学校2年1組●●●●」ではなくて。そこにいるただの小さな子どもとしてぼくを見ていた。
確かにおじいさんに限らずここでよくうんこしているのに出会うのは大人のほうだった。大人は子ども以上に朝きちんと家を出てくるときうんこしてくるか、うんこしたくなっても我慢するかして家の外のトイレではうんこしない と思っていたけど、それはぼくの思い違いであることが図書館に通うようになってからの大きな発見の一つだった。
しかも、ぼくがおしっこをしているとたいてい目もあわせないようにしゃがむ方に駆け込んでくる小学生たちと違って、白髪頭のおじいさんのように大人たちはぼくがじろじろ見ても、まるで気にしないように堂々としゃがむ方に入り、そして出てきた。
もちろんぼくみたいにパンツやズボンを全部脱いで個室に入る大人なんか一人もいなかった。そんな「大人の場所」にいる人たちだったらふりちん姿のぼくにあっても会っても瑤子おばさんみたいにからかいそうもなかった。
だからぼくは安心して「ふりちん小学生」になった。
 
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