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41 残念令嬢本気出す。

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 「今日は教会のバザーの手伝いは、アガスティヤ公爵家のリリーとしての参加義務があるから・・・」


 そう言いながらアルフィーの前に頬を薄っすら薔薇色に染めたリリーが朝早くから現れて彼は思わず目を見開いた。

 長い艶々の黒髪をふんわりと緩く三つ編みにしていて所々にパールを散らしているのだが、それと似たパールのような光沢を持った柔らかい素材の白いエプロンがとても可愛らしい。

 その下の動きやすいワンピースは濃いオリーブグリーンに黒い細めのストライプが入っていて全体的な印象は大人っぽいが、浅めのスクエアネックに沿って小さな黒いレースの小花が縫いつけられていて首周りをスッキリさせながらも可愛らしさを醸し出し、背中側の黒いサテンの編み上げリボンでウェスト周りをキュッと絞ってあって背の高いリリーを更にスタイルアップさせている。

 
 メイクはこの間新店舗を見に行った時とはイメージを変えたベリー系のグラデーションで深みを出し、彼女によく似合う様に考えられた色合わせだ。

 今迄なんでそのメイクしなかったよ?! と叫びたくなるくらい似合っていて、


 「凄く綺麗だよ、リリー」


 と褒めたものの、道行く男性達が思わず二度見して顔を赤くするのを見てアルフィーはちょっとだけ複雑な気分だ。



×××



 最近は侍女達も薄いピンクや可愛らしいライトラベンダーといった、顔がボヤけるようなカラーの服装をリリーにさせるのを避けるようになった。

 この国の若い女性は、そういった明るく薄い色を着る事によって独身だと周りにアピールするという文化がごく最近まであり、それが当たり前だったからだ。

 公爵家の侍女たちもその仕来りしきたりならっていたようだがリリー本人の要望と、国外からの色彩文化の流入を高位の貴族女性達が受け入れなくてどうするんだというアルフィーの説得、そして何といってもリリーにとにかく似合う色を本気で探してくれるようになったらしく、過去のリリーに似合わないようなボヤケた色のワードローブは一掃されたらしい。


 ――男装用の衣装は更に使用人の熱が入っているらしく、血眼ちまなこで全員が探しているのはリリーの知らない事実である――


 「じゃあ、行こうか」


 にこやかに笑うアルフィーは今日も美女仕様で、白地に赤と黒のチェック柄の生地で出来たワンピースに黒い短かめのエプロンがウェスト周りに縫い付けられた小洒落たエプロンドレスを着ている。


 「え、それかわいい!」

 「だろ? 今度の店の制服にするつもりなんだよ」


 そう言ってリリーの前でクルリと回って見せる。


 「え? 今迄は給仕する人って男性ギャルソンだけだったよね?」

 「うん。次は店の規模がレストラン並みに広いから、女性給仕セルヴーズもいいなって思ってさ。男性給仕ギャルソンだけじゃ意見が男性本位になりがちだから女性視点の意見も欲しいなって。だから制服も用意しようと思ってさ」

 「色々考えてるんだね」

 「まあね」


 肩を竦めながら、自然と公爵家の馬車に乗る二人。


 「これ、多分リリーにも似合うはず」

 「え、そんなに可愛いの似合うかな?」

 「メイクと髪型次第で何とでもなるよ」


 アルフィーにそう言われると何だかチャレンジしてみたくなる。

 
 「今度試しに着てみていいかな?」

 「うん。じゃあ気に入ったらリリーにも作ってあげるね」


 お洒落の話で女子同士(?)の会話が盛り上がるのがこんなに楽しいんだとリリーは感動する。


 「教会には、他の令嬢達も来るから気を抜くなよリリー。堂々としてれば何も言われないし、絶対にやられたらやり返せ」

 「う、うん? 頑張る」


 以前は何かの折に顔を合わせても陰口を叩かれると思い込んでいて若干引っ込み思案だったリリーだが、男装が当たり前になった今では自分を卑下するようなことは全く無くなった。

 寧ろ似合っていれば、なんでもいいじゃないかと開き直ってしまっているというのが本当のところである。

 今日の女性らしい装いは、久々にアルフィーに見せるために張り切っていた為、彼に褒められた時点でもう自分的には100点満点なので、リリーとしては周りの事など既にどうでも良いのである。

 アガスティヤの大雑把さが確実に彼女にも脈々と引き継がれているのがよくわかる・・・


 でも、やり返せって何だろう? と、若干首を撚るが、まあ良いかと適当に流すリリーは


 「お洒落ってホントに魔法みたいだね」


 そう言って明るく笑う。

 初めて会った頃のリリーの笑顔がようやく戻ってきたのに気が付いたアルフィーがホッと安堵していた事を彼女は知らない。

























 アルフィーやっぱり過保護だわ。
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