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一章

9.生徒達とクロ、時々先生

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一花いちか達とは、その後すぐ食堂で顔を合わせ、改めて三人から謝罪を受けた。

「クロ…ごめん」
「その…悪ぃ~~とは思ってるよ!!」
「ごめんね~」
洞穴の時と違い、しゅんとした様子は目に見えて反省している事がわかる。
子どもにこんな態度を取られて、許さないような心は持ちあわせていない。
いやそもそも…戸惑いが大きかったので、怒りがない。

ちらちらとこちらをうかが三対さんついの瞳に、笑って返す。
「いいよ。二度は、勘弁だけど…」
「…もうしない」
「だな。けどアンタ弱っちかったし、いざとなりゃ倒せばいいだけだ!問題ねぇ!!」
「こら~六太 ろくた~!」
「……超馬鹿」
「あ、いや!?~~もうしないのは確かだけどよ。違くて…仮にって話で!」
うーん。…そっちからも弱い判定が出てしまったのか。

共有スペースである食堂で話していたせいもあり、他の生徒四人にも今回の事はあっさり知れ渡る。
一花いちか達自身、隠す気がなかったんだろう。

それに加え、年長者としての義務感からか、他の四人に俺の弱さ…もとい安全性を丁寧に説いてもくれた。
…まぁ知らない大人がいきなり、自分達の生活区域に入り込んできたんだ。警戒するのは当然だったな。
逆に今回の件だけで、ここまで一花いちか達が信用してくれるのは…ありがたいと思う反面、大丈夫かなぁと心配にもなる。

それと今の話と共に、俺が合宿所内を自由に行動するって事も先生から伝えられた。
昨日は念の為、先生の監視下において単独行動はさせないって説明してたからね。
これもまた、昨日の今日でいいのか?とも思ったけど…。

「いいんじゃないですか?この空間で一人の行動を制限するのは無理があると思いますし」
「そうね。女子側にこない事に変わりはないでしょ、なら別に」
七生ななお三津みつは興味無さそうに…。
「先生や先輩の意見に口を挟むような、可愛くない後輩じゃないっすよ僕は。改めてヨロシク~クロ」
「オレも改めて、です」
八戸やとここのつは好意的に受け入れてくれた。

なんか、居候が色々すみません。
幸いにも食事とかそういったものは、外から供給が可能らしく、俺が増えてもみんなを飢えさせるような事はないそうだけど……それでもなぁ。
「気にしな~い気にしな~い」
「うーーーん…」
「ん、癒し要員として…頑張って」
「ん?」
「まぁ俺らがいいって言ったんだし、クロはどーんと暮らせばいいじゃん」
「ぇえ?」
何故か、一花いちか達三人に励まされた。

そのまま生徒達とわいわい喋りながら、遅めの昼食を、さらに夕食を終えてからの数時間を食堂で過ごした。
先生は用事があるとかで…今の状態なら危険もないだろうと言い残し、食事だけして姿が見えなくなった。

話してみてわかった…というか、まぁ当然だと思うけど。若者にとって、山に何か月もいるというのはやっぱり退屈らしい。
そして受け入れられた今の安全な俺は、そんな彼女達のいい刺激に、悪く言うと絶好の退屈しのぎになるそうだ。
あ、これが二葉ふたばの言っていた癒し要員ってやつかな?

出会って二日しかたっていないというのに、この時間で一気に打ち解けられた気がする。
昨日もそれなりに好意的に会話したと思っていたが、あれは対外的な対応だったんだなーと…。
今ならその差がよくわかる。
ガードを外してくれた彼女達を見て、好戦的なんていっても普通の子と変わらないじゃないかと嬉しくなる。
こんなに楽しいのは、初めてじゃないかとすら思えた程だ。

夕食後の歓談時間はあっという間で、もう部屋に戻る時間だと生徒達はそれぞれの自室へと行ってしまった。
このまま残っていてもしょうがないので、俺も先生の部屋に向かう。
一花いちか達が日中見たという南京錠はなく、備えつけの鍵だけがかかっていた扉を渡されていたスペアキーで開く。

真っ暗な室内と、人気のない空気に寒さを感じながら部屋に入る。電気をつけ、さっき先生が腰かけていた椅子に座った。
家主がいない部屋でどうしよう。
風呂は各部屋に備えつけられていて、当然先生の部屋にもあるが、居候が先に入るのもいかがなものか…。
俺のそんな悩みは、机の上の紙により解消される。

『遅くなる。風呂入って寝ろ。部屋から出るな。』

意外と流暢りゅうちょうな字で書かれたメモに従い、俺は風呂を済ませ、ここから勝手に使えと言われている棚から寝巻に良さそうな服を選び、布団に入った。
寝るにはまだ早い気もするが、する事がない。

そういえば、また体が光って昨夜のようになったらどうすれば…。
と…考えはしたが、寝不足だった事も相まって、俺の意識は簡単に消えた。





夜の山を明かりもなく駆ける。
大型の妖怪をかわし、ざっと様子を見て回った。
運動による興奮も加わり、予想以上に昂ってしまった心を鎮めながら、見てきた光景を吟味ぎんみする。
この様子なら、明日は問題なく間引きが出来るだろう。ゆるんだ地面に足をとられたせいで、思ったより時間がかかった。

合宿所へ戻る事を考え、同時に生徒に囲まれて楽しそうに笑っていたあいつの顔が浮かぶ。
「…………」
今日一花いちか達に襲われたというのに、たいして気にした様子もなく、へらへらと…。
餓鬼は餓鬼同士気が合うって事か。
そもそも昨日のオレとの件も…いやオレ自身説明しようがないとは言ったが…。
それでも気にしなさすぎじゃねぇか…。馬鹿か?
もっと動揺するなりしてみせろと、理不尽な怒りが湧く。

どうにもすっきりしないまま、合宿所まで戻った。
非常灯しかついていない廊下を進み、部屋の前でとまる。
当然中にいるあいつが鍵をかけて寝ているだろうと予想し、自分の持っている鍵を差し込んだ。
「…………………馬鹿なのか」

鍵はかかってなかった。

強堅きょうけんな鍵って訳じゃない…所詮マナー程度につけられた雑な鍵だ。だが…それでも普通は閉めねぇか?
「大丈夫か…こいつ…」
床に敷いた布団で寝ている呑気な馬鹿に呆れる。その馬鹿を起こさないよう、とっとと風呂へ向かう。
一通りの行程を終え、ベッドに腰かける。途中何度か起こしてしまったかと思ったが、どうやら眠りは深いらしい。

「…………」
帰ってきた時から、室内で床を…いや床に寝ているあいつを見る。
昨日のような異常は見られない。ただやはり薄い…いやこれも昨日よりマシか。
胸が上下しているのがわかる。呼吸はしている。
「………んっ」
気づけば、ベッドをおり確認するように、あいつの口に触れていた。
無防備に開いた口内に、指をすべらす。
異物を拒みもせず、ゆっくりむ仕草はどこかつたなく、弱った雛のようだと思った。
「………………」
「…はっ……」
指のせいでうまく飲み込めないのだろう。唾液が徐々に溜まっていくのがわかる。
生活反応をみせた事に、安堵しながら…指は抜かず、逃げるように小さくなっていた舌を撫でた。
「ん…」
舌に触れた事での反射か、溜まった唾液を一気に嚥下えんかした喉が、ごくりと動く。
流石に起こしたかと思ったが、今度は指そのものから逃げるよう、寝返りを打ち、また静かな寝息を立て始めた。
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