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70.昨日の敵は今日も敵だし恐らく明日も敵になる
しおりを挟む次の審査はダンス審査。といっても、この審査は特に審査員がいるわけでもなく、ただパートナーと踊るだけ。
ここでは、花嫁候補として参加しない一般客の人達も参加することが出来る。
「花嫁探しって言ってもお祭りみたいなものだからね。みんなが楽しく参加出来るイベントも用意されてるんだ」
ダンス会場前で合流したベルさんがご機嫌に語った。
「これに限っては、たぶん審査してないんじゃないかしら」
マリアさんの言葉にベルさんも頷く。ふむふむ、なるほど。
「んじゃこの回は手を抜いていいと」
「お前は駄目だろ」
「えっ」
駄目なの? みんなに合わせてフワッと存在してればいいと思ったのに。
「そもそもお前、踊れたか?」
「踊れませんけど?」
「はぁ」
その深いため息はやめてくれ。
「一応説明しとくとね、この街はこういうイベント柄、みんな基本はダンスをマスターしているんだよ」
「だから、お前みたいに究極の素人が混ざるとそりゃあもう目立つ。宝石の中に石が混ざってるくらい目立つ」
「ええー」
なんでこの街の人達みんな、そんな特殊スキルマスターしてるのさ。もっと自由度あるステータス割り振りにしようよ。
「いくら審査しないとはいえ、そんな中にお前一人ぶち込んでみろ。一気に注目の的だぞ」
「わー嬉しくない」
「審査しないといっても、さすがにそれだと落とされてしまうかもしれないわね」
ここで落とされるのはちょっと困るな。
とはいえ、この短時間でダンスをマスターするなんて不可能だし。
「ギリギリで通過したお前もいよいよ終わりだな」
終わり、それは嫌だ……という訳で。
「ベルさーん」
「はいはい、という訳でそんなルセリナちゃんの為にこちらをご用意しておきました」
「よっ、待ってました!」
ベルさんはまるで未来からやって来たネコ型ロボットのように、懐からスッと何かを取り出した。
「これは?」
「これは魔法アイテム『舞踊のイヤリング』。これがあれば初心者でも、サクサク踊れる優れものだよ」
「さっすがぁー! でもお高いんでしょ?」
「とんでもない。ルセリナちゃんの為、今回はこちらを無料でプレゼント。受け取ってください、素敵なお嬢様」
「ありがとうございますー」
「茶番か」
テーレッテレ、ルセリナは『舞踊のイヤリング』ゲットした。……なんてね。
「ったく馬鹿馬鹿しい。お前ら、最初からそのつもりだったのか」
「もちろんだよ。今回だけじゃない。一次審査も、二次審査も全ては最初から作戦と対策ありきで行ってる」
その通り。今日のことについては、昨日の夜、割と真面目に作戦会議を開いていたのだ。一番の鬼門は料理審査だったのだが、そこもなんとか私の魔法でカバー、今に至る。
「俺を誰だと思ってるのかな? これでも君と競ってきた男だからね」
ベルさんノリノリだ。
その時の彼の笑顔は、なんだかとても充実していた。
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