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146.お手本に習ってやってみましょう→出来ませんでした

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「お嬢様、ご無事で何より」
「ヘッセン、あなたも無事で良かったわ」

 いや、お嬢様はともかくこの人は無事じゃなかっただろう。主に私のせいで。

「ま、余計なことは言わないでおくか」

 大量に散らかした高級家具を収納し、私は横目でこれぞ美しき主従関係なる場面を確認した。

「こっちはまさか一日二回も同じ手で同じ人に同じ物降らせるなんて思ってなかったっての」
「余計なこと出てるだろ、お前」
「おっと失礼」

 私は慌てて口を閉じた。
 目の前にレイズ様が立っている。
 さて、こういう場合どうすればいいんだったかしら。

「……レイズ様、ご無事で何より」
「お前も無事で良かった、なんて俺が言うと思うか?」
「いえ、全然」

 さらば美しき主従関係。ようこそ現実。

「で、これはどういう事なんだ?」
「どういう事って……」

 私は周囲を見回した。
 この場にいるのは、ヘッセンさんとその主人、私とレイズ様。
 いつの間にか、元凶と思われた女性モンスターの姿はどこにも見当たらなかった。どさくさに紛れて逃げられたか。

「さて、どういう事でしょうね?」
 
 さっぱり分からん。
 私は両手を広げ、お手上げのポーズを取った。

「気付いたらレイズ様がいなくなってたんですよ。正確には別人になってたっていうか」

 そう言って私はちらりとヘッセンさんの様子を窺った。
 もうすっかり人間の姿に戻った彼が、再びモンスターやレイズ様の姿に変貌する気配はない。

「それで色々あって本物のレイズ様を探しに洞窟まで来たら、新たなモンスターに遭遇して……」
「ふーん、新たなモンスターねぇ」

 腕組みをしたレイズ様は、そう言って思い出すように視線を上へと向けた。

「俺見なかったんだけど」
「うっそぉ」

 見てない? そんなまさか。モンスターとはいえ、あんなにどえらい格好したお色気たっぷりのお姉さんですよ? 普通見ちゃうでしょ。二度見くらい軽くしちゃうインパクトでしょ、あれは。

「レイズ様、もしかして実は、幼い女の子が好きとかそういった特殊な性癖あります?」
「何言ってんだお前は」

 いやだって、そこに目が行かないとか、そういうご趣味の方かなって思いまして。
 そう言おうと思ったけど、言ったら本気で口をきいてもらえなそうだから止めておいた。

「でも、こっちは俺も見えてたわけだが」
「こっち?」

 頭にクエスチョンマークが浮かんでいた私の顔色を把握して、レイズ様は不機嫌そうに足で地面を二三度踏み鳴らした。

「ここだ、ここ。お前さっき洞窟って言ったろ」

 ああそれか。

「言いましたよ」
「じゃあ、今はここがどこなのか答えてみろよ」
「それは……」
 
 私は下に目を向ける。
 それは露出された岩肌では無く、滑らかな木の板張りになっている。
 地面というより、床という表現が正しい。

「家、ですよね?」

 戸惑いながらそう答えた。
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