イレブン

九十九光

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♯1ー1

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三月二十九日の火曜日。この日の職員会議で、私が勤める、愛知県知多市立東中学校の、新年度の全学年のクラス名簿が発表された。

「えー、では、こちらが今年度一年間の皆さん方の担当となりますので、ほかの先生方の担当とともに確認をお願いします」

午前八時。白い壁に灰色や銀色のデスクが揃った職員室。教頭の堤先生が言ったこのセリフを合図に、私たち教員は彼から配られたクラス名簿に目を通し、自分の一年間の担当を確認した。

正直言って私はこの時、自分は三年生のどこかのクラスの副担任だろうと考えていた。この学校に赴任して三年目で、新三年生とは私の一年目からずっと一緒にやってきた。そんな私が今年から別の世代の担当になると生徒たちの中で動揺が起きるため、そういう人事はあまり考えられなかった(人望のない私が消えたところで、生徒は誰も悲しんだりしないと思うが)。そして私が保護者から悪評をつけられていることを考えれば、いきなり一クラスのメインの担任になるとも考えられなかった。そもそも三年生は中学最後の県大会やら受験やらが控えていてかなり面倒な時期だ。私がクラス担任を決めるのであれば、こんな人間にそんなに大きな仕事を任せようとは考えないだろう。

そんな風に考えていたからこそ、私は配られたクラス名簿を確認して、正気の沙汰じゃないと感じたのだ。

『3-2 担任:樋口明美 副担任:小林美佐代』

 なんと私はよりにもよって、この一番面倒な時期の生徒の担任になったのだ。

周囲のほかの先生たちも、自分や近しい間柄の先生たちの人事に一喜一憂するようにざわついている。だが私の心の中では、そんなざわつきとは比較にならないほどの焦りの感情が渦巻いていた。

「樋口先生、担任受け持つんだ」

 私の右隣からフランクに話しかけてきたのは、私の三つ上の先輩で理科教師の、新貝誠二(にいがい せいじ)先生だった。坊主頭のこの柔道部の顧問は、今年は三年三組の担任をすることになっている。

「いや、ちょっと待ってって。私には無理ですって、人望ないですし」

 私の出世をともに喜ぶような声掛けをする新貝先生に、私はまるで、これは決定者側のミ
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