イレブン

九十九光

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♯4ー14

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「そうかもしれないけど……。もうおじいちゃんとおばあちゃんが車で来てるから」

「でしたらお二人には先に帰ったと伝えておいてください」

 なんて心ない答えなのだろう。本人に落ち度はないだろうが、あんな乱闘騒ぎの引き金になった本人とは思えないほど冷たい態度だ。

 そしてこの冷たい反応に、すぐに湯本が首を突っ込んできた。

「お前、いい加減にしろよ! てめえのそういう性格のせいでこうなったって自覚あんのかよ!」

 お前も少しは反省しろよ。しかも最初のうちは面白がって本人たちを煽っていただけのくせに。

 このようにしてクラスメイトから叱られている当の本人は、湯本の言葉も無視して保健室の出入り口からさっさと出ていこうとする。私をはじめとした先生の言うこともまったく聞かないのだから、もう仕方がないと割り切るしかない。

 こうして内田は、出入り口の引き戸に向かってまっすぐ歩き、金属製のノブに指をかける。それとほぼ同時くらいに、外側から戸をノックする音が聞こえてきた。内田は一歩下がり、大野先生は「はい、どうぞ」と、ドアの向こう側の人に向かって声をかけた。

 「失礼します」という声に続いて部屋に入ってきたのは、三年四組の担任で数学教師の深沢二子(ふかざわ にこ)先生と、同じく副担任で英語教師の三島幸江(みしま ゆきえ)先生だった。三島先生は、内田の席に置かれていた例の花瓶と花を持っている。

 途端に山本と湯本が、「おおー!」という歓声を上げる。

 大野先生と同い年の深沢先生はともかくとして(先生、大変失礼しました)、新卒から四年務めたANAの客室乗務員を辞めて今年から東中で教師になった三島先生は、若くて美人な女性教師として、三年生の間で少し話題になっていた。この日四組にはベランダから避難した生徒たちの一時的な保護を任せており、私はその報告だと考えた。

「あんたたち、またやらかしたの?」

 深沢先生が部屋の奥へと進み、ベッドとその周辺にいる男子たちに声をかける。そう言えば深沢先生はこの四人の二年生の時の担任だったなと、私はここにきてようやく思い出した。それに対して浜崎が事の次第をあれこれ言い訳する。

「樋口先生。お話が」

 花瓶を持った三島先生が私を呼ぶ。私は内田に、「いい? おじいちゃんおばあちゃんが来るまで、絶対ここから出るんじゃないよ」と釘を刺してから、彼女のもとへと寄った。
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