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第2章 異世界攻略編
第25話 女神のゲーム。
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「ここは、どこだ?」
俺は気付いた時、森の中に居た。肺が洗われるような新鮮な空気、鳥の囀りが聞こえてくる。
「もしかして二階層……なのか?」
迷宮は、階層によって環境が大きく変わる。一層目は長い洞窟のような地形だったが、二層は森林をモチーフとした地形。自然に富み、生物の気配があちらこちらからする。
無事に来られたのは良かった。
だが、おかしい。
「ルナ、シャルロット……ノエル?」
いない。誰もいない。
俺一人になっている。
「クレアもいない……どうなってるんだ」
「答えてあげよっか?」
俺は瞬時に距離を取る。無意識な恐怖。
「殺意」を感じたからだろうか。
艶がかった黒の革ジャンから豊満な胸の谷間が剥き出しになっている。片手には長い鞭のような道具、周囲からは彼女が出したのであろう魔力の残滓が漂っていた。
「アタシが転移させたのよ。アンタを一人にする為に」
「ほう、二人きりになって何がお望みかな」
俺も毅然と振る舞う。
主導権を握らせるな、彼女の目的を引き出せ。
「アンタさ、転生者よね?」
「いや、違うが?」
「嘘ばっかり。どうせ女神のゲームを受けたんでしょ?」
女神のゲームって何だ。
イレイスはこの事を知っているのか?
分からん。
……だが、この女は危険だ。
好感度-10。
敵意を持たれている証拠だ。
「悪い、記憶にないな」
「そう、なら一から教えてあげる」
女は天頂を指さした。
「この世界は、女神が作り出した大きな箱庭。アタシ達は女神が主催するゲームの参加者って訳」
「ゲームの内容は?」
「転生者同士で殺し合う。簡単でしょ?」
転生者同士の殺し合い?
狂ってるのか……この世界の住人はッ!
「アンタ、世界最速なんて正気? この世界での異端だって自己紹介しちゃってるようなもんじゃん?」
「待て。お前はその前から俺を狙っていたんだろ。じゃなきゃ当日に『幽霊』を襲撃させるなんて真似、出来るはずがないじゃないか」
「何それ。それはアタシじゃないわ」
マジか。
今この女が嘘をつくメリットは何も無い。
つまり別の転生者から俺は狙われていた?
『幽霊』が直接的では無いにしろ、俺に仕掛けてきたのは第一階層主討伐以前だったはずだ。
つまり、その前から俺を別世界の住人と知る人物。
イレイス……いや違う。あいつの好感度は"5"だった。
俺に殺意は向けていない。
では何故だ、他に俺を転生者と疑う要因は───。
俺の脳に電流が走った。
「親子丼……なのか」
あの料理、そして名前。
考案した奴を辿れば俺に自然と行き着くはず。
俺の知らないところで物語はどんどんと進行していた。だが、その舞台に知らずして上がっていた俺は、再び死の淵へと追いやられている。
そもそも何故俺がここまで後手に周り、ルールも知らぬまま異世界を放浪しているのか。
それはきっと……記憶喪失のせいだ。
俺は転移時、俺に関する記憶を失った。
きっと俺がこの世界に来る前……転移直前の記憶すらをも失っていたとしたら、女神のゲーム云々の話を俺が知らない事に無理は無い。
異世界を舞台としたバトルロワイヤル。
しかも、転生者達が正体を隠して殺し合うなんて状況に、何故俺が参加しているんだッ!!
「勝ち進んだら、どうなるんだ」
「さあ? 天界に戻って、何でも一つ言う事が叶うとか何とか言ってたかしらね」
「そんな情報を鵜呑みにして、俺を殺すのか」
「当たり前よ、じゃなきゃアンタをここに呼んだりはしない。人知れずアンタは一人、ここで死ぬのよッ!!」
女は最早俺の言葉に耳を貸す様子は無かった。今の彼女の目には、俺が格好の的にしか見えていない。喜んで人の命を奪おうとする奴に正論で諭す等元々無理があったのだ。
俺は女神のゲームとやらに興味は無い。俺のハーレム道はそんなクソみたいな理由で邪魔されてはいけない。
この世界では、俺がルールであり俺が絶対。
その調和を乱す奴は……俺が潰すッ!
「魔法『火球』ァッッ」
炎を連発する。初速が遅く、火力も弱い初級魔法は連発すれど簡単に避けられてしまう。
「アハハッ、そんなのでアタシに勝てんの!?」
鞭が来る。「くっ……」俺は幹を盾に移動する。
轟々と木々が燃え広がる。
バチバチと燃えていく森林。
間隙を塗って回避し、鞭の攻撃を無力化していく。リーチこそ優れているが、正確に狙うには広大な広場の方が良かったみたいだな。俺は後ろ目で女を冷静に分析する。
ドクン、ドクン。
心臓が煩い、肺が痛む。
嗚呼畜生、黙っとけ。
スキル『冷静』。
名前:レイ レベル:7
HP275/285 MP110/130
ギルド:《北極星》
ユニークスキル:【魅力支配】
スキル:『言語理解』D『鑑定眼』E『交渉術』E『礼儀作法』F『剣術』F『挑発』F『料理』G『幻惑』F『隠密行動』G『体術』G『並列思考』G『火魔法』G『逆境』G『蓄積』G『冷静』G『麻痺耐性』G『痛覚耐性』G
「これでどうやって戦えと……!?」
決定打になるスキルは何だ。
今の俺が奴を出し抜く方法は何かあるか。
「ッ!!」
地面の土が抉られる。
鞭をしならせて、幹の裏側まで攻撃を飛ばすようになりやがった!
「手加減なしかよ」
「転生者に手加減とか笑えるわねッ」
後手に回りすぎだ。
そろそろ俺も策を練らないと詰んでしまうぞ。
───スキル『並列思考』発動ッ。
「まずは鑑定からっ」
バチッ!!
弾かれた。
「うぁ!?」
目が焼けるように熱くなる。
「無駄無駄、アタシ『隠蔽』スキル持ってるから」
『鑑定眼』を弾くって事は俺より上位か。
「へぇ、凄いな。熟練度はどうやってあげるんだ?」
「馬鹿ね。同じスキルを百回使うか、ミッションをクリアするだけなのに、そんな事も知らないの?」
───知らねぇよ!
この知識のギャップは、恐らく"転生"か"転移"の違いだ。
暇な幼少期をスキルの調査に当てていたんだ。
イレイスの言葉の意味も、今ならよく分かる。早く強くなる事、それがこの世界で生き残る絶対条件。そして多分俺はこの女を殺さない限り、この世界で生き残れない。
「強さの秘訣は、いかにこの世界の仕様を知っているか。その意味で、アタシはアンタに負けるはずがない」
バチンッと地面を鞭で叩く。
絶対的強者の風貌、か。
「ふふ……ふはは、ふははははっ」
「な、何がおかしいの?」
俺は笑いが止まらなかった。
「強さの秘訣? 世界の仕様? くだらねぇ……」
「な、なんですって!」
「違うな。強さの秘訣は……"自力"だろ?」
俺は剣を構える。
俺は異世界漫画の主人公にはなれない。
俺はどの力もチートとは思わない。
大切なのは、知略と戦術。
───スキル『剣術』発動。
「やってやろうじゃねえか!」
俺は気付いた時、森の中に居た。肺が洗われるような新鮮な空気、鳥の囀りが聞こえてくる。
「もしかして二階層……なのか?」
迷宮は、階層によって環境が大きく変わる。一層目は長い洞窟のような地形だったが、二層は森林をモチーフとした地形。自然に富み、生物の気配があちらこちらからする。
無事に来られたのは良かった。
だが、おかしい。
「ルナ、シャルロット……ノエル?」
いない。誰もいない。
俺一人になっている。
「クレアもいない……どうなってるんだ」
「答えてあげよっか?」
俺は瞬時に距離を取る。無意識な恐怖。
「殺意」を感じたからだろうか。
艶がかった黒の革ジャンから豊満な胸の谷間が剥き出しになっている。片手には長い鞭のような道具、周囲からは彼女が出したのであろう魔力の残滓が漂っていた。
「アタシが転移させたのよ。アンタを一人にする為に」
「ほう、二人きりになって何がお望みかな」
俺も毅然と振る舞う。
主導権を握らせるな、彼女の目的を引き出せ。
「アンタさ、転生者よね?」
「いや、違うが?」
「嘘ばっかり。どうせ女神のゲームを受けたんでしょ?」
女神のゲームって何だ。
イレイスはこの事を知っているのか?
分からん。
……だが、この女は危険だ。
好感度-10。
敵意を持たれている証拠だ。
「悪い、記憶にないな」
「そう、なら一から教えてあげる」
女は天頂を指さした。
「この世界は、女神が作り出した大きな箱庭。アタシ達は女神が主催するゲームの参加者って訳」
「ゲームの内容は?」
「転生者同士で殺し合う。簡単でしょ?」
転生者同士の殺し合い?
狂ってるのか……この世界の住人はッ!
「アンタ、世界最速なんて正気? この世界での異端だって自己紹介しちゃってるようなもんじゃん?」
「待て。お前はその前から俺を狙っていたんだろ。じゃなきゃ当日に『幽霊』を襲撃させるなんて真似、出来るはずがないじゃないか」
「何それ。それはアタシじゃないわ」
マジか。
今この女が嘘をつくメリットは何も無い。
つまり別の転生者から俺は狙われていた?
『幽霊』が直接的では無いにしろ、俺に仕掛けてきたのは第一階層主討伐以前だったはずだ。
つまり、その前から俺を別世界の住人と知る人物。
イレイス……いや違う。あいつの好感度は"5"だった。
俺に殺意は向けていない。
では何故だ、他に俺を転生者と疑う要因は───。
俺の脳に電流が走った。
「親子丼……なのか」
あの料理、そして名前。
考案した奴を辿れば俺に自然と行き着くはず。
俺の知らないところで物語はどんどんと進行していた。だが、その舞台に知らずして上がっていた俺は、再び死の淵へと追いやられている。
そもそも何故俺がここまで後手に周り、ルールも知らぬまま異世界を放浪しているのか。
それはきっと……記憶喪失のせいだ。
俺は転移時、俺に関する記憶を失った。
きっと俺がこの世界に来る前……転移直前の記憶すらをも失っていたとしたら、女神のゲーム云々の話を俺が知らない事に無理は無い。
異世界を舞台としたバトルロワイヤル。
しかも、転生者達が正体を隠して殺し合うなんて状況に、何故俺が参加しているんだッ!!
「勝ち進んだら、どうなるんだ」
「さあ? 天界に戻って、何でも一つ言う事が叶うとか何とか言ってたかしらね」
「そんな情報を鵜呑みにして、俺を殺すのか」
「当たり前よ、じゃなきゃアンタをここに呼んだりはしない。人知れずアンタは一人、ここで死ぬのよッ!!」
女は最早俺の言葉に耳を貸す様子は無かった。今の彼女の目には、俺が格好の的にしか見えていない。喜んで人の命を奪おうとする奴に正論で諭す等元々無理があったのだ。
俺は女神のゲームとやらに興味は無い。俺のハーレム道はそんなクソみたいな理由で邪魔されてはいけない。
この世界では、俺がルールであり俺が絶対。
その調和を乱す奴は……俺が潰すッ!
「魔法『火球』ァッッ」
炎を連発する。初速が遅く、火力も弱い初級魔法は連発すれど簡単に避けられてしまう。
「アハハッ、そんなのでアタシに勝てんの!?」
鞭が来る。「くっ……」俺は幹を盾に移動する。
轟々と木々が燃え広がる。
バチバチと燃えていく森林。
間隙を塗って回避し、鞭の攻撃を無力化していく。リーチこそ優れているが、正確に狙うには広大な広場の方が良かったみたいだな。俺は後ろ目で女を冷静に分析する。
ドクン、ドクン。
心臓が煩い、肺が痛む。
嗚呼畜生、黙っとけ。
スキル『冷静』。
名前:レイ レベル:7
HP275/285 MP110/130
ギルド:《北極星》
ユニークスキル:【魅力支配】
スキル:『言語理解』D『鑑定眼』E『交渉術』E『礼儀作法』F『剣術』F『挑発』F『料理』G『幻惑』F『隠密行動』G『体術』G『並列思考』G『火魔法』G『逆境』G『蓄積』G『冷静』G『麻痺耐性』G『痛覚耐性』G
「これでどうやって戦えと……!?」
決定打になるスキルは何だ。
今の俺が奴を出し抜く方法は何かあるか。
「ッ!!」
地面の土が抉られる。
鞭をしならせて、幹の裏側まで攻撃を飛ばすようになりやがった!
「手加減なしかよ」
「転生者に手加減とか笑えるわねッ」
後手に回りすぎだ。
そろそろ俺も策を練らないと詰んでしまうぞ。
───スキル『並列思考』発動ッ。
「まずは鑑定からっ」
バチッ!!
弾かれた。
「うぁ!?」
目が焼けるように熱くなる。
「無駄無駄、アタシ『隠蔽』スキル持ってるから」
『鑑定眼』を弾くって事は俺より上位か。
「へぇ、凄いな。熟練度はどうやってあげるんだ?」
「馬鹿ね。同じスキルを百回使うか、ミッションをクリアするだけなのに、そんな事も知らないの?」
───知らねぇよ!
この知識のギャップは、恐らく"転生"か"転移"の違いだ。
暇な幼少期をスキルの調査に当てていたんだ。
イレイスの言葉の意味も、今ならよく分かる。早く強くなる事、それがこの世界で生き残る絶対条件。そして多分俺はこの女を殺さない限り、この世界で生き残れない。
「強さの秘訣は、いかにこの世界の仕様を知っているか。その意味で、アタシはアンタに負けるはずがない」
バチンッと地面を鞭で叩く。
絶対的強者の風貌、か。
「ふふ……ふはは、ふははははっ」
「な、何がおかしいの?」
俺は笑いが止まらなかった。
「強さの秘訣? 世界の仕様? くだらねぇ……」
「な、なんですって!」
「違うな。強さの秘訣は……"自力"だろ?」
俺は剣を構える。
俺は異世界漫画の主人公にはなれない。
俺はどの力もチートとは思わない。
大切なのは、知略と戦術。
───スキル『剣術』発動。
「やってやろうじゃねえか!」
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