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6.芽生えた感情
6-3 ※
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「和泉ぃ……」
夕食を終え、部屋に戻るために佐原と廊下を歩いていたら、佐原が背後から和泉に寄りかかってきた。
「こらやめろっ、重いだろ!」
浴衣越しに佐原の熱い体温を感じる。このごろは佐原とのこういう接触が全然ダメだ。
佐原としてはなんでもないことなのかもしれないが、和泉の心臓は耐えられない。佐原に接触されるたびに妙にドキドキしてしまう。
「和泉はいい匂いだ……」
スンスンとうなじに鼻を寄せられ、和泉はビクッと身体を震わせる。
佐原ごときにどうしてこんなに気持ちをかき乱されなきゃならないんだと思うのに、心臓はうるさくなるばかりで、顔まで熱くなってくる。
「離れろって……!」
「嫌だ。離れない……」
和泉が振り払っても佐原はくっついたままだ。佐原にしては珍しい。酔うと人に甘えたくなるタイプなのだろうか。
「ほら、部屋に着いたぞっ」
佐原とは別々の部屋で隣同士だ。ここで佐原と別れて、何もなく終わらせるはずだった。
だが佐原の次のひと言が和泉の判断を鈍らせる。
「和泉、俺の部屋に来いよ」
佐原の魅惑的な誘いが和泉の耳をくすぐる。佐原の部屋に行ったら、その後どうなるかくらいわかっている。
佐原とのプレイを重ねてはいけない。プレイをするたび佐原の優しさを感じる。いっそ乱暴に扱ってくれたほうがいい、そのほうが関係を割り切ることができるのに、佐原はそうではない。
『和泉は可愛い』
『妬けるな』
『キスは嫌なんだな』
仄かに見え隠れする佐原の本音が和泉の心をかき乱していく。
佐原は恋を諦め、和泉を好きになった、という可能性はないだろうか。そう勘違いしてしまいそうになるくらいに佐原は和泉を大切にしてくれる。
佐原と一緒にいるだけで気持ちが安らかになって、プレイで蕩けさせられるたびに佐原に惹かれていく。それが、この上なく心地よい。
この気持ちは、おそらく——。
「どうせ俺に拒否権なんてないんだろ」
言葉だけでも可愛げのないことを言って強がってみせる。
佐原にこの気持ちを悟られてはいけない。尚紘のことを裏切ってはいけない。
佐原とはプレイをするだけの割り切った関係だ。
どんなに身体を開いても、この気持ちだけは隠し通さなければならない。そもそもこんな気持ちすら佐原に抱いてはいけない。自分自身ですら偽ってみせなければ。
和泉には尚紘という最愛の人がいる。佐原にも想い人がいる。
佐原としていいのはプレイだけだ。それ以上の関係にはならないと佐原も最初に言っていたではないか。
佐原に身体を開いても、心は尚紘のもの。佐原を決して愛してはいけない。そこには虚しさしか残らないとわかりきっているのだから。
部屋に入りドアを閉めるなり、佐原は和泉の身体を壁に押しつけた。
「和泉っ、和泉っ……!」
佐原は和泉の首筋に食らいつくようなキスをして、浴衣の胸元に熱い手を侵入させてきた。
「おいっ、佐原っ」
今日の佐原はやはりどこかおかしい。いつもならこんなに事を急いだりはせずにプレイを開始するのに。
「あっ、こら、どこ触ってんだ……!」
佐原が浴衣の裾を割っていきなり和泉の股間に手を触れる。下着越しとはいえ、もっとも感じる場所を撫でられて和泉は身体を震わせた。
佐原の手は止まらない。その手で浴衣を乱しながら、和泉の身体を愛撫し、性急に和泉を感じさせようとする。
「こら、酔っ払いっ……あっ……んっ……ぁ……」
これはプレイじゃない。ただのセックスだ。
そう思って和泉が抵抗しても佐原の身体に押さえつけられ、佐原にされるがままになる。
「はぁっ……あっ……」
佐原の手が下着の中に入ってくる。和泉のものを直接握り込み、遠慮なく上下に扱く。
「さは、ら、待って……」
和泉が佐原の手首を握って、やめさせようとしても行為は止まらない。
まさかコマンドなしに和泉をイかせようとしているのだろうか。
「佐原っ、コマンド……っ!」
和泉の言葉にぴた、と佐原の動きが止まった。佐原がやっと冷静になったのかもしれない。
「コマンドが欲しい……」
佐原の目を見て訴える。コマンドなしにセックスしたらそれはプレイじゃない。
それは和泉の最後の防衛線だ。佐原とプレイはしてもいいと、Subだからプレイをしないと生きていけない、佐原に脅されているからと自分に言い聞かせていた。
それを大義名分にして身体を許したのに、プレイ以外で佐原と交わることはダメだ。それはDom/Subのパートナー以上の関係となり、一線を越えてしまう。
佐原とはそんな関係になりたくない。佐原とはパートナーがいない同士、互いの利が一致しただけ。和泉がSubであることを黙っていてもらうためにプレイに付き合っているだけだ。
そう思うことで、佐原との不安定な関係性をなんとか保っているのに。
「わかった。じゃあ和泉、今すぐプレイしよう。望みどおり、お前を支配してやるよ。Kneel」
コマンドと同時に目の前にある漆黒の瞳から強烈なグレアが放たれた。
和泉は床に崩れ去るようにぺたんと尻をつけて跪く。
ここから佐原の支配下に置かれる。この身はすべてDomのものだ。
その視線で逃げられないように、縛りつけてほしい。
コマンドを与えて抑圧されて押し潰されそうになっている感情を解放してほしい。
佐原の手で、この身を愛してほしい。理性も、しがらみも捨てて、佐原のこと以外何も考えられなくなるくらいに。
夕食を終え、部屋に戻るために佐原と廊下を歩いていたら、佐原が背後から和泉に寄りかかってきた。
「こらやめろっ、重いだろ!」
浴衣越しに佐原の熱い体温を感じる。このごろは佐原とのこういう接触が全然ダメだ。
佐原としてはなんでもないことなのかもしれないが、和泉の心臓は耐えられない。佐原に接触されるたびに妙にドキドキしてしまう。
「和泉はいい匂いだ……」
スンスンとうなじに鼻を寄せられ、和泉はビクッと身体を震わせる。
佐原ごときにどうしてこんなに気持ちをかき乱されなきゃならないんだと思うのに、心臓はうるさくなるばかりで、顔まで熱くなってくる。
「離れろって……!」
「嫌だ。離れない……」
和泉が振り払っても佐原はくっついたままだ。佐原にしては珍しい。酔うと人に甘えたくなるタイプなのだろうか。
「ほら、部屋に着いたぞっ」
佐原とは別々の部屋で隣同士だ。ここで佐原と別れて、何もなく終わらせるはずだった。
だが佐原の次のひと言が和泉の判断を鈍らせる。
「和泉、俺の部屋に来いよ」
佐原の魅惑的な誘いが和泉の耳をくすぐる。佐原の部屋に行ったら、その後どうなるかくらいわかっている。
佐原とのプレイを重ねてはいけない。プレイをするたび佐原の優しさを感じる。いっそ乱暴に扱ってくれたほうがいい、そのほうが関係を割り切ることができるのに、佐原はそうではない。
『和泉は可愛い』
『妬けるな』
『キスは嫌なんだな』
仄かに見え隠れする佐原の本音が和泉の心をかき乱していく。
佐原は恋を諦め、和泉を好きになった、という可能性はないだろうか。そう勘違いしてしまいそうになるくらいに佐原は和泉を大切にしてくれる。
佐原と一緒にいるだけで気持ちが安らかになって、プレイで蕩けさせられるたびに佐原に惹かれていく。それが、この上なく心地よい。
この気持ちは、おそらく——。
「どうせ俺に拒否権なんてないんだろ」
言葉だけでも可愛げのないことを言って強がってみせる。
佐原にこの気持ちを悟られてはいけない。尚紘のことを裏切ってはいけない。
佐原とはプレイをするだけの割り切った関係だ。
どんなに身体を開いても、この気持ちだけは隠し通さなければならない。そもそもこんな気持ちすら佐原に抱いてはいけない。自分自身ですら偽ってみせなければ。
和泉には尚紘という最愛の人がいる。佐原にも想い人がいる。
佐原としていいのはプレイだけだ。それ以上の関係にはならないと佐原も最初に言っていたではないか。
佐原に身体を開いても、心は尚紘のもの。佐原を決して愛してはいけない。そこには虚しさしか残らないとわかりきっているのだから。
部屋に入りドアを閉めるなり、佐原は和泉の身体を壁に押しつけた。
「和泉っ、和泉っ……!」
佐原は和泉の首筋に食らいつくようなキスをして、浴衣の胸元に熱い手を侵入させてきた。
「おいっ、佐原っ」
今日の佐原はやはりどこかおかしい。いつもならこんなに事を急いだりはせずにプレイを開始するのに。
「あっ、こら、どこ触ってんだ……!」
佐原が浴衣の裾を割っていきなり和泉の股間に手を触れる。下着越しとはいえ、もっとも感じる場所を撫でられて和泉は身体を震わせた。
佐原の手は止まらない。その手で浴衣を乱しながら、和泉の身体を愛撫し、性急に和泉を感じさせようとする。
「こら、酔っ払いっ……あっ……んっ……ぁ……」
これはプレイじゃない。ただのセックスだ。
そう思って和泉が抵抗しても佐原の身体に押さえつけられ、佐原にされるがままになる。
「はぁっ……あっ……」
佐原の手が下着の中に入ってくる。和泉のものを直接握り込み、遠慮なく上下に扱く。
「さは、ら、待って……」
和泉が佐原の手首を握って、やめさせようとしても行為は止まらない。
まさかコマンドなしに和泉をイかせようとしているのだろうか。
「佐原っ、コマンド……っ!」
和泉の言葉にぴた、と佐原の動きが止まった。佐原がやっと冷静になったのかもしれない。
「コマンドが欲しい……」
佐原の目を見て訴える。コマンドなしにセックスしたらそれはプレイじゃない。
それは和泉の最後の防衛線だ。佐原とプレイはしてもいいと、Subだからプレイをしないと生きていけない、佐原に脅されているからと自分に言い聞かせていた。
それを大義名分にして身体を許したのに、プレイ以外で佐原と交わることはダメだ。それはDom/Subのパートナー以上の関係となり、一線を越えてしまう。
佐原とはそんな関係になりたくない。佐原とはパートナーがいない同士、互いの利が一致しただけ。和泉がSubであることを黙っていてもらうためにプレイに付き合っているだけだ。
そう思うことで、佐原との不安定な関係性をなんとか保っているのに。
「わかった。じゃあ和泉、今すぐプレイしよう。望みどおり、お前を支配してやるよ。Kneel」
コマンドと同時に目の前にある漆黒の瞳から強烈なグレアが放たれた。
和泉は床に崩れ去るようにぺたんと尻をつけて跪く。
ここから佐原の支配下に置かれる。この身はすべてDomのものだ。
その視線で逃げられないように、縛りつけてほしい。
コマンドを与えて抑圧されて押し潰されそうになっている感情を解放してほしい。
佐原の手で、この身を愛してほしい。理性も、しがらみも捨てて、佐原のこと以外何も考えられなくなるくらいに。
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