暗殺するため敵国に来たが愚王というのは嘘で溺愛され妃に迎え入れられました

雨宮里玖

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王妃の資質

15.

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「ユリス、威勢よく戦うのもいいんだがな」

 カイルはそっとユリスの身体を引き寄せた。

「アルファと戦うなんて怖かっただろう? あまり無理するな」

 カイルはユリスの額に軽く口づけした。

「ユリスのことを信じなかった俺が悪い。ユリスは他のアルファなどにうつつを抜かしたりはせぬな?」
「はい。もちろんです。カイル様……」

 よかった。嫌われてなどいなかった。そしてカイルはユリスの気持ちもちゃんと理解しようとしてくれている。



「もうひとつ。俺はユリスに嘘をついた」
「嘘、ですか……?」
「そうだ。ユリスが城の外に出掛けて、俺に土産を買ってきてくれただろう?」
「あ……」

 言われてずーんと気持ちが暗くなった。ユリスの選ぶもののセンスが良くなかったのか、カイルに拒絶された御守りのことだろう。

「あのとき『要らない』と言ったのは嘘だ」
「えっ……?」
「ユリスが他のアルファと逢引したと思っていたからイライラしてユリスに当たってしまったのだ。本当はユリスからの初めての贈り物になるはずだったのにな。俺はもったいないことをした。ユリスからの贈り物を貰い損ねたのは俺の自業自得だと思っているが、俺のためにわざわざ土産を選んでくれたユリスにだけは感謝を伝えたい。ありがとう」
「そんな……もったいないお言葉です
……」

 よかった。本当のカイルは贈り物を受け入れてくれるようだ。部屋に置いてある御守りを再度渡したら、今度こそカイルは笑顔を見せてくれるかもしれない。

「俺がユリスにした最も悪いことは、お前のヒートについて心無いことを言ったことだ」

 カイルはまだユリスに謝る気のようだ。そんなことをせずともユリスのカイルに対する気持ちは変わらないのに。

「フェロモンやヒートのことはオメガ本人がコントロールできないものだと知っていて、ユリスに酷いことを言った。俺自身が焦っていたのだろう。早くユリスと番って自分だけのものにしたくてたまらなかった。ユリスが他のアルファに取られるかもしれないと思うと恐ろしくなって、一日でも早く番ってしまいたいという俺の我儘だった。本当にすまなかった……」

 うなだれるカイルが愛おしくてたまらない。一日でも早く番いたいと思っているのはユリスだけではなかったようだ。

「いいえ……ヒートが来ない私が悪いのです。カイル様は悪くありませんよ」
「ユリス、言っただろう? ヒートのことはユリスのせいじゃない。辛抱強く待っていればいつかはきっとその日が訪れるはずだ」
「はい……」

 ユリスはカイルの逞しい胸板に頬を寄せる。そうしたらカイルは優しくユリスの背に腕を回してくれた。



「ユリス。それなのに俺は手荒くユリスを抱いてしまった。お前に可哀想なことをした。本当にすまない……」
「いいえ。大丈夫です。私はカイル様のものですから」

 ユリスは自分からカイルの唇に口づける。多少乱暴なことをされてもやっぱりカイルはカイルだ。カイルのために無理をして身体を差し出したっていいと思うくらいにカイルのことが好きだ。

「それに……は、激しいのも嫌いではありません……獣のようなカイル様も素敵です.…」

 言っていて急に恥ずかしくなる。たしかに最初は少し驚いたが、フェロモンに狂ってからはユリスもカイルから受ける激しい行為に夢中になっていた。

「ユリス……。あんなに無理をしたあとだろう? それなのに俺を煽るな」

 カイルに至近距離で見つめられる。真っ赤になった顔を見られるのは恥ずかしかったが、ユリスは上目使いにカイルをおずおずと見つめ返す。

 ふたり視線を交わしたあと、どちらともなくキスが始まった。

「んっ……」

 駄目だ。カイルとの濃厚なキスが始まると、どうしても身体が疼いてしまう。カイルのいうとおり、意識を失うほど激しくされたあとなのにどうして自分はまたカイルを欲っするのだろう。

「ユリス。大好きだ」

 ずっと言われたかった言葉をカイルに囁かれ、涙が溢れそうになる。

「カイル様。私もです。私もカイル様のことがとても好きです……」

 ふたりはまたキスを再開する。そしてそのままベッドに身体を沈めていった。
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