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過去の代償
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二週間ぶりに北国バラディスから西国ケレンディアに戻ってきた。
ユリスは東国ナルカ出身なのに、なぜか故郷に帰ってきたかのような気持ちになった。
「お帰りなさいませ!」
カイルとユリス一行を迎え入れる従者や兵士たち。左右にずらっと並ばれて皆に頭を下げられることには、いつまでたっても慣れない。
「堂々としていろ。ここはユリスの家だ。お前はケレンディアに嫁いできたのだからな」
ユリスの不安を汲み取ったかのように、カイルはユリスの左手をぎゅっと握った。こんな大勢が見ている前で手を繋ぐなんて恥ずかしく思ったが、カイルの手を振り払うことはしたくない。
城内に入ってからすれ違う者たちは皆カイルとユリスを振り返り、丁寧に頭を下げてくる。
「まぁ、相変わらず王妃様は愛されていらっしゃるのね」
「仲睦まじいなぁ」
カイルのお陰で、ユリスの耳に届くのはいい言葉ばかりだ。
「陛下、お帰りなさいませ!」
大臣のヒイラがふたりを出迎えた。
「陛下、どうでしたか?」
「ん? ああ。クローディアのことか。バラディス側はユリスの存在を受け入れるつもりのようで、クローディアを側室としてでも嫁がせる気だった」
「そうですか! よかった……それはケレンディアにとっても素晴らしいご縁です!」
ヒイラが声を弾ませる。
ふたりの会話を聞いていてユリスも納得する。クローディアとの縁談はどう考えても良縁だ。
「だが断った」
「……は、はい?」
ヒイラの表情が固まった。
「陛下、さすがにそれは……」
「クローディアはいい娘だと思うからこそだ。クローディアならどこでも引くて数多に違いない。それなのに俺のところに来てみろ。不幸になるだけだ」
「なぜそのようなことを言うのです? 陛下は堂々たる我が国の王ですぞ」
「俺はユリス以外に興味がない。クローディアと夜を共にする気など端からないのだ。側室としてそれは不幸なことだろう?」
「陛下……」
ヒイラは呆れて言葉も出ないようだ。
「ユリス。旅の荷解きが終わったら俺の部屋に来い。ユリスに渡したいものがあるのだ」
ヒイラのことなど気にもせず、カイルは颯爽と王の間へと向かっていく。その背を見送るヒイラは何か言いたげだ。
「妃陛下」
「は、はい!」
ヒイラに突然声をかけられ驚いた。
「一日も早くご懐妊されること、そしてそのお子がアルファであることを心より願っております」
「はい……」
ヒイラの不安は最もだ。カイルがユリス以外を愛さないのなら、ケレンディア王家の血を絶やさないためにはユリスがカイルの子を産まなければ。
カイルはユリスのことをたくさん愛してくれている。あとはユリスの体調次第だ。
「王室にしては陛下のご結婚は遅いものでした。妃陛下、なにとぞよろしくお願いいたします」
ヒイラに深く頭を下げられる。
「はい……」
そんなことはユリスも重々承知だ。
——早くユリスとの子ができることを望んでいるのだ。ユリスにはたくさんの子を産んでもらいたい。
——国王の義務だ。ユリス、それだけは覚悟してもらいたい。
以前カイルはそうユリスに囁いた。
カイルだって子孫を残すことは義務だとわかっているはずなのに、それでも側室を娶る気はないのか。
なんとかならないものだろうか……。
他でもないユリスの身体のことだ。できることはやってみるしかない。
ユリスは東国ナルカ出身なのに、なぜか故郷に帰ってきたかのような気持ちになった。
「お帰りなさいませ!」
カイルとユリス一行を迎え入れる従者や兵士たち。左右にずらっと並ばれて皆に頭を下げられることには、いつまでたっても慣れない。
「堂々としていろ。ここはユリスの家だ。お前はケレンディアに嫁いできたのだからな」
ユリスの不安を汲み取ったかのように、カイルはユリスの左手をぎゅっと握った。こんな大勢が見ている前で手を繋ぐなんて恥ずかしく思ったが、カイルの手を振り払うことはしたくない。
城内に入ってからすれ違う者たちは皆カイルとユリスを振り返り、丁寧に頭を下げてくる。
「まぁ、相変わらず王妃様は愛されていらっしゃるのね」
「仲睦まじいなぁ」
カイルのお陰で、ユリスの耳に届くのはいい言葉ばかりだ。
「陛下、お帰りなさいませ!」
大臣のヒイラがふたりを出迎えた。
「陛下、どうでしたか?」
「ん? ああ。クローディアのことか。バラディス側はユリスの存在を受け入れるつもりのようで、クローディアを側室としてでも嫁がせる気だった」
「そうですか! よかった……それはケレンディアにとっても素晴らしいご縁です!」
ヒイラが声を弾ませる。
ふたりの会話を聞いていてユリスも納得する。クローディアとの縁談はどう考えても良縁だ。
「だが断った」
「……は、はい?」
ヒイラの表情が固まった。
「陛下、さすがにそれは……」
「クローディアはいい娘だと思うからこそだ。クローディアならどこでも引くて数多に違いない。それなのに俺のところに来てみろ。不幸になるだけだ」
「なぜそのようなことを言うのです? 陛下は堂々たる我が国の王ですぞ」
「俺はユリス以外に興味がない。クローディアと夜を共にする気など端からないのだ。側室としてそれは不幸なことだろう?」
「陛下……」
ヒイラは呆れて言葉も出ないようだ。
「ユリス。旅の荷解きが終わったら俺の部屋に来い。ユリスに渡したいものがあるのだ」
ヒイラのことなど気にもせず、カイルは颯爽と王の間へと向かっていく。その背を見送るヒイラは何か言いたげだ。
「妃陛下」
「は、はい!」
ヒイラに突然声をかけられ驚いた。
「一日も早くご懐妊されること、そしてそのお子がアルファであることを心より願っております」
「はい……」
ヒイラの不安は最もだ。カイルがユリス以外を愛さないのなら、ケレンディア王家の血を絶やさないためにはユリスがカイルの子を産まなければ。
カイルはユリスのことをたくさん愛してくれている。あとはユリスの体調次第だ。
「王室にしては陛下のご結婚は遅いものでした。妃陛下、なにとぞよろしくお願いいたします」
ヒイラに深く頭を下げられる。
「はい……」
そんなことはユリスも重々承知だ。
——早くユリスとの子ができることを望んでいるのだ。ユリスにはたくさんの子を産んでもらいたい。
——国王の義務だ。ユリス、それだけは覚悟してもらいたい。
以前カイルはそうユリスに囁いた。
カイルだって子孫を残すことは義務だとわかっているはずなのに、それでも側室を娶る気はないのか。
なんとかならないものだろうか……。
他でもないユリスの身体のことだ。できることはやってみるしかない。
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