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新たな人生
5.
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「あの……私はいくらで買われたのだろう……」
ユリスは気になっていたことをおずおずとローランに訊ねた。
「相当な額でした。とても私には払えませんね」
「えっ?」
支払ったのはローランのはずだ。ローランが支払えないとはどういうことなのだろう。
「あ、あの、私の父上や兄上も援助してくださったと言う意味です!」
そうか……。ローランの家の当主はローランの父親で、家業を継ぐのは長男。一家でユリスを助けてくれたということか。
「じゃあローランの実家に着いたら皆さまに礼を言わないといけないな」
「あ……。そ、そうですね……。あー、えっと、そうだ! 私の家族についてお話いたします!」
唐突にローランは話を変えて話し始めた。
「私の父は、以前ダラート一帯を治めていた伯爵家で騎士団長まで務めました。今は一番上の兄が伯爵家で奉公しております。代々の奉公が認められ、我が家はダラートではなかなか知られている家なのです」
「皆、実直な人柄なのだな」
騎士の家系は礼節を重んじると聞いたことがある。ローランの家もきっとそのような家系なのだろう。
「私も伯爵家で奉公するつもりでおりました。ですが陛下の代になり、私のような田舎騎士家の三男でも国王陛下の護衛兵として仕事をもらえる機会がうまれたのです。家柄ではなく実力さえあれば仕事に就けるようになりました」
「カイル様は本当に素晴らしい御方なのだな」
「そうですよ」
「それなのにローランをどうして城から追い出したりしたのだろう……」
カイルは以前と人が変わってしまったのだろうか。
「私は陛下を恨んでなどいませんよ。あ、到着しました! 私が案内いたします!」
ローランの態度は城にいたときと変わらない。
たしかにユリスの廃王妃の通達はされていないのだろうが、世間的にはローランがユリスを買ったご主人様だ。ローランもそのことは理解しているだろうに、どうして礼儀を尽くしてくれるのだろう。
「まぁ! これが妃陛下?! こんなみすぼらしい服をお召しになって!」
ローランの家に着き、出迎えてくれたローランの母親はユリスを見て目をまるくした。
「母上。事情は昨日お伝えしたとおりです」
ローランが耳打ちすると、「そうだったわね……」とローランの母親が頷いた。
「こんな狭い家ですが、どうぞおくつろぎください」
急に頭を下げられてユリスは慌てた。
「いえっ……あの、私はこの家の召使いのはずで……」
ユリスの言葉に、ローランと母親がお互いに目配せしている。
「ローランは私に城にいたときと変わらず接してくれますが、私は間もなく廃王妃となります。ですからお気になさらず命令してください。私を男娼宿から救うために支払って下さった金額に見合う仕事はできないと思いますが、どんな仕事でもやります」
ユリスは頭を下げる。
「で、では部屋の掃除と庭の手入れをお願いするわ」
「はい!」
よかった。いい仕事だ。ここでなら普通の仕事をして生きていける。それが嬉しかった。
「こちらが妃陛下のお部屋です」
ユリスは屋敷の一番奥にある部屋に案内された。
掃除をしろと言われた部屋に案内されたと思っていたのに、ローランはユリスの部屋だと説明した。
「ローラン、召使いなのに部屋があるなんて……」
「我が家の使用人にはオメガはひとりもおりません。そして私の家系にはアルファしかおりません。オメガとその他のバース性は部屋をわけるべきです。それは贅沢などではなくお互いのためなのです」
オメガにはヒートがある。だからどうしても他のバース性とは住む部屋を分けられることが多い。
「でも私は……」
ヒートがこないオメガだからと言おうとしたのに、ローランに言葉を遮られる。
「オメガは他の者の災いのもとです。こちらにいらしてください!」
「わ、わかった……」
災いと言われてしまっては返す言葉がない。そうだ。オメガに普通の仕事をさせてくれる家などない。ベータのほうが何も問題なく仕事をこなしてくれるのだから。それなのに昔の恩義でユリスを拾ってくれたローランに感謝しなければならない。
「妃陛下。ひとつだけ約束してください」
ローランは急に真面目な顔をする。
「何……?」
「オメガの薬を使うのは禁止です。抑制薬も、発情薬も決して口にしてはなりません」
「あ……」
そうだ。最近はまったく薬を使っていなかった。カイルに使うなと言われていたからだ。
「わかった。薬を使わなくても私にはヒートは来ないから……」
「もしヒートを起こしても、こちらがきちんと対処します」
「対処……?」
「はい。私にお任せください」
ローランはいったい何を考えているのだろう。
だが、ヒートのときの『対処』といえば、アルファとの『それ』しか思い浮かばない。まさかローランはその身を持ってユリスを慰める気なのだろうか。
結局どんな対処なのか具体的にローランに訊けなかった。
ヒートが来たら、ローランに抱かれる覚悟はしておいたほうがいい。ローランは善意で言ってくれているのだろうから。
ユリスは気になっていたことをおずおずとローランに訊ねた。
「相当な額でした。とても私には払えませんね」
「えっ?」
支払ったのはローランのはずだ。ローランが支払えないとはどういうことなのだろう。
「あ、あの、私の父上や兄上も援助してくださったと言う意味です!」
そうか……。ローランの家の当主はローランの父親で、家業を継ぐのは長男。一家でユリスを助けてくれたということか。
「じゃあローランの実家に着いたら皆さまに礼を言わないといけないな」
「あ……。そ、そうですね……。あー、えっと、そうだ! 私の家族についてお話いたします!」
唐突にローランは話を変えて話し始めた。
「私の父は、以前ダラート一帯を治めていた伯爵家で騎士団長まで務めました。今は一番上の兄が伯爵家で奉公しております。代々の奉公が認められ、我が家はダラートではなかなか知られている家なのです」
「皆、実直な人柄なのだな」
騎士の家系は礼節を重んじると聞いたことがある。ローランの家もきっとそのような家系なのだろう。
「私も伯爵家で奉公するつもりでおりました。ですが陛下の代になり、私のような田舎騎士家の三男でも国王陛下の護衛兵として仕事をもらえる機会がうまれたのです。家柄ではなく実力さえあれば仕事に就けるようになりました」
「カイル様は本当に素晴らしい御方なのだな」
「そうですよ」
「それなのにローランをどうして城から追い出したりしたのだろう……」
カイルは以前と人が変わってしまったのだろうか。
「私は陛下を恨んでなどいませんよ。あ、到着しました! 私が案内いたします!」
ローランの態度は城にいたときと変わらない。
たしかにユリスの廃王妃の通達はされていないのだろうが、世間的にはローランがユリスを買ったご主人様だ。ローランもそのことは理解しているだろうに、どうして礼儀を尽くしてくれるのだろう。
「まぁ! これが妃陛下?! こんなみすぼらしい服をお召しになって!」
ローランの家に着き、出迎えてくれたローランの母親はユリスを見て目をまるくした。
「母上。事情は昨日お伝えしたとおりです」
ローランが耳打ちすると、「そうだったわね……」とローランの母親が頷いた。
「こんな狭い家ですが、どうぞおくつろぎください」
急に頭を下げられてユリスは慌てた。
「いえっ……あの、私はこの家の召使いのはずで……」
ユリスの言葉に、ローランと母親がお互いに目配せしている。
「ローランは私に城にいたときと変わらず接してくれますが、私は間もなく廃王妃となります。ですからお気になさらず命令してください。私を男娼宿から救うために支払って下さった金額に見合う仕事はできないと思いますが、どんな仕事でもやります」
ユリスは頭を下げる。
「で、では部屋の掃除と庭の手入れをお願いするわ」
「はい!」
よかった。いい仕事だ。ここでなら普通の仕事をして生きていける。それが嬉しかった。
「こちらが妃陛下のお部屋です」
ユリスは屋敷の一番奥にある部屋に案内された。
掃除をしろと言われた部屋に案内されたと思っていたのに、ローランはユリスの部屋だと説明した。
「ローラン、召使いなのに部屋があるなんて……」
「我が家の使用人にはオメガはひとりもおりません。そして私の家系にはアルファしかおりません。オメガとその他のバース性は部屋をわけるべきです。それは贅沢などではなくお互いのためなのです」
オメガにはヒートがある。だからどうしても他のバース性とは住む部屋を分けられることが多い。
「でも私は……」
ヒートがこないオメガだからと言おうとしたのに、ローランに言葉を遮られる。
「オメガは他の者の災いのもとです。こちらにいらしてください!」
「わ、わかった……」
災いと言われてしまっては返す言葉がない。そうだ。オメガに普通の仕事をさせてくれる家などない。ベータのほうが何も問題なく仕事をこなしてくれるのだから。それなのに昔の恩義でユリスを拾ってくれたローランに感謝しなければならない。
「妃陛下。ひとつだけ約束してください」
ローランは急に真面目な顔をする。
「何……?」
「オメガの薬を使うのは禁止です。抑制薬も、発情薬も決して口にしてはなりません」
「あ……」
そうだ。最近はまったく薬を使っていなかった。カイルに使うなと言われていたからだ。
「わかった。薬を使わなくても私にはヒートは来ないから……」
「もしヒートを起こしても、こちらがきちんと対処します」
「対処……?」
「はい。私にお任せください」
ローランはいったい何を考えているのだろう。
だが、ヒートのときの『対処』といえば、アルファとの『それ』しか思い浮かばない。まさかローランはその身を持ってユリスを慰める気なのだろうか。
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