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雅斗の雑談…遥
しおりを挟む病室内に入ろうと思ったら、ドア越しに聞こえてくるのはドレスの話だった。
俺は、亜耶がシドロモドロでドレスの説明している所へ中に入った。
二人は驚いた顔をしてこっちを見る。
「何を聞き出そうとしてるのかと思ったらドレスの事か。」
ちょっとドスのある声になってしまったが、雅斗には悟られていないようだった。
それに少しは優越感を感じながら、二人の傍に寄って行く。
「まぁ、本当は俺がプレゼントしたかったが、遥が見繕ってると言うから、せめてドレスに合うアクセサリーをだな……。」
雅斗が焦りながらそう口にする。
「雅斗。俺がそんなヘマするわけ無いだろう。しっかりとドレスと亜耶との相性が良いアクセサリーを見繕ってるよ。」
しかもオーダーメイドだがな。
「そうだよな……。でも、何か出来ること無いか?」
雅斗は肩を落としながら、亜耶に無いかをしたようだ。
まぁ、可愛い妹のデビューだから仕方ないと思うが、俺もそれなりに準備してきたんだぞ。
「そうだな……。」
俺は、考える素振りをした。
それに合わせて、雅斗の期待に満ちた目が俺を見てくる。
だが、亜耶は今俺の奥さんなんだ、雅斗の出る幕など無い。
「無い。」
無情な言葉を俺は口にした。
その言葉を聞いた雅斗は、項垂れた。
前から、雅斗は亜耶のデビューを楽しみにしてたからな。
「雅斗。亜耶は俺の嫁ですよ。自分の嫁が着飾るのを他の男に任せるわけが無いでしょうが。」
っと、ついて丁寧な言葉になってしまった。
ちょっとだけ、雅斗に怒ってるんだなと自分でも思ってしまい苦笑する。
「うっ…、俺の夢が……。」
と言ってるいるが、そんなの知るかよ。
「諦めろ。そのポジションは、俺のだからな。」
俺は雅斗の肩を叩いた。
あっ、そうだ。昨日聞こうと思ってたの今聞くか。
「雅斗。一つ聞きたいのだが、真由の所に招待状出したか?」
「ん? あぁ、出したよ。確か理事長宛に。」
雅斗の言葉に。
「伯父経由じゃ、まだ真由には届いていないか……。」
と口にした。
雅斗が不思議な顔をして。
「ダメだったのか?」
聞いてきた。
「いや、ダメではないけど、真由婚約者の透と同棲してるから……。それに、真由実家を嫌ってるからな……。」
そう口にしたら。
「えっ…透って……。由華の兄の嫁の下の弟か?」
って驚きながら聞き返してくる雅斗。
「そうだよ。透は、次期理事長様だ。今は亜耶の同級生でもあるがな。」
俺の話を聞いて更に驚いた顔をする。
その顔は、今まで見た顔よりもよかった。
「それ、何処情報?」
困惑しながら聞いてくる雅斗に。
「何処って、直接だけど。俺、身内だぞ。亜耶も本人達から聞いてるし、俺も真由本人から聞いているから……。」
俺の言葉に雅斗が亜耶に視線を移す。
亜耶はそれに気付き、ゆっくりと頷いた。
「亜耶は、何時知ったんだ?」
「えっと、前回の入院する前に湯川くんから直接聞いた。同棲している事も……。」
亜耶が言いづらそうにしている。
しかし、前回の入院って、肺炎の時(俺が出張してた時)か。
「何で、その時に話してくれなかったんだよ」
雅斗が亜耶に詰め寄る。
「だって、お兄ちゃん。あの時新婚で色々と忙しかったでしょ? だから、言いそびれて……。」
亜耶が言い淀んでいる。
「まぁ、何れにしても招待状は出してあるのなら、真由は来てくれるな。よかったな、亜耶。」
俺がそう口にすれば雅斗が不快な顔をする。
「何があった?」
と聞いてきた。
「亜耶の初めてのパーティーで、知ってる人が居ると心強いって話をしてたんだよ。」
俺がそう答えれば。
「あぁ、確かに同年代の知り合いが居た方が安心するもんな。」
納得する雅斗。
俺は、時計に目を向けた。
面会時間終了間際だった。
「雅斗。そろそろ帰らなくても良いのか? 嫁が心配してるんじゃないのか?」
俺がそう告げると。
「それがさぁ、今日は実家に報告がてら泊まりに行ってるんだよ。だから、たまには遥と飲みに行こうかと思ってな。」
雅斗が少し照れながら口にする。
それが、今日の本題だったんだな。
「遥さん、ご飯って……。」
亜耶が心配そうに聞いてきた。
まぁ、一人だと食べたり食べなかったりで、心配するんだろうけど……。
「心配するな。ちゃんと食べてたからな。」
亜耶の目を見て答えたが、相違や昨日の夕飯は食べてないや。その分今朝食べたから良いか。
「なら、良かった。」
ホッとした顔をする亜耶。
「お前、まだ飯食べたり食べなかったりしてるのか?」
雅斗が、呆れた顔でそう聞いてきた。
「ん? 最近は三食きっちり食べてる。昼は亜耶が弁当作ってくれるし、朝も亜耶が作るな。夜は、たまに俺が作るが、亜耶が作ることが多いから食べてる。」
ここ最近の食事事情を話せば。
「そっか……。でも、亜耶が料理ねぇ……。想像つかん。」
雅斗が口にする。
まぁ、そうだろうなぁ。
間近で見てる俺も、危なっかしくて見ていられない時があるから……。
「たまに失敗するけど頑張って作ってくれるからな。それに美味しい。」
亜耶のエプロン姿を思い出し口許が緩む。
目の前に居る亜耶が、顔を赤くさせる。
「遥が惚気るのは、ここだけだな。そんな顔、他では市内だろ。」
雅斗の言葉に亜耶が俺の顔を見てくる。
そんな見るなや、照れるだろ。
「当たり前だろ。好きでもましてや親しくもないヤツに、見せるわけないだろ。」
亜耶以外に見せる必要なんて何処にもないだろうが。
「パーティーの日、大変だろうなぁ……。」
雅斗が呟く。
「そんなのどうとでもなるだろ。」
雅斗の言葉を突っぱねた。
今からそんな心配しても、仕方ないだろうが。
「ドレス姿の亜耶を見て、デレデレになる遥は想像出来るがな。」
雅斗の言葉を聞いて。
「否定できん。」
と口にして居た。
人前に出したくないと思ってしまうんだろうが……。
その時、戸がノックされた。
「はい。」
亜耶より先に返事をする。
「亜耶ちゃん。検温の時間ですよ。」
都さんが入って来た。
「あら、今日は雅斗さんも居たんですね。」
都さんが、雅斗の姿を捕らえてそう口にする。
「あ、もうそんな時間。どうする遥?」
雅斗が突然話を振るから。
「そうだな。雅斗も車だろ? 車を家に置いてから、何時もの場所で飲まないか?」
と返した。
「遥がそれで良いなら。亜耶に食べさせてからなら、十九時半頃が良いか?」
「助かる。」
「ん。じゃあ、また後で。都さん、亜耶の事よろしくお願いします。亜耶、残さず食べるんだぞ。」
雅斗は淡々と言葉を発し、澄まし顔で帰っていった。
「なんか、追い出しちゃったみたいね。」
都さんが申し訳なさそうな顔を見せて。
「気にしなくて良いですよ。ただ、雑談したかっただけですから。」
雅斗の代弁をする。
「なら良いのだけど……。亜耶ちゃん、明日が退院ね。おめでとう。って言っても通院があるからね。」
その言葉に亜耶がえって顔をして右腕を見る。
まさか忘れていたのか?
「その顔は、忘れていたわね。」
亜耶が、都さんに言われて視線をさ迷わせる。
「亜耶ちゃんらしいわ。外科での入院はしたこと無いもんね。」
都さんは苦笑を浮かべて居る。
まぁ確かに、外科では外来しかないからな。
「旦那様も大変でしょうけど、よろしくお願いしますね。」
と俺に顔を向けて言ってくる。
「亜耶の為ですし、それぐらいはやりますよ。」
スラスラと言葉が出てくる俺。
お願いされなくても可愛い妻の為なら、言われなくてもやりますよ俺は。
「あっ、では、私は失礼しますね。」
慌てて出て行く都さんを不思議そうに見送り亜耶の顔を見れば、赤くなっていたから。
「亜耶、顔が赤いが、熱でも出たか?」
心配になってそう聞きながら額に手をやろうとしたら。
「えっと…。熱は無いよ。ただ、遥さんの笑顔に見惚れていただけ……。」
と返ってきた。
えっ、俺の笑顔に見惚れるだと……。
俺は、伸ばしていない方の手を咄嗟に口許にやった。
だって、見せられないだろ嬉過ぎてニヤケた口許なんてさ。
亜耶が凝視してくるが、そ知らぬ顔をしてどうにかやり過ごす。
再びドアのノック音がして、俺が返事をすると食事の配膳が行われた。
俺は、有無を言わさず最初からスプーンを手にして餌付けしたのだった。
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