116 / 247
マディア公爵邸にて
116話 切実な問題だってわかってくださいます?
しおりを挟む
前にわたし、レテソルに美ショタ様がいらっしゃるのは他所に知られるとまずいかもって言ったんですけど、今は状況が一変しています。なにせオリヴィエ様もいらしていますから。平和の大使ならぬ宰相様が、現在国政に関わりのない未成年のご家族とレテソルの地に滞在するとの報道(オリヴィエ様到着に先駆けてそういう情報が流れるようにしました)は、現地の方々に『王政側は戦争をする気がない』ということを明らかにしてとても好意的に受け入れられました。オリヴィエ様がまだこちらに来ることができない状態であったり、クロヴィスが戦う気まんまんだった時機には、美ショタ様の存在はグラス侯爵家のクロヴィス支持と取られかねない微妙なラインでしたけども。これで謎の美ショタとしてこそこそしなくてすむようになりました。よかったね。
ということで、オリヴィエ様とつなぎを取りたい有象無象の人々のうち、未成年の家族がいらっしゃる方はこうやって美ショタ様をターゲットにしたわけですね。ひとりずつ近づいてくるなんていうスマートなことはできなくて、わたしもろともわっと子どもたちに囲まれた感じです。ちょっと輪の外に出られませんね、これ。というか逃げようとしたら手首を掴まれて美ショタ様に阻止されたんですけど。
「こんにちは! あたしはクローデット・ベシエールです! パパはベシエール興業の社長です!」
「はじめまして、レオン・カアンです。カアン・ホリジング総帥である、ジョフロワ・カアンの子息です。レオンって呼んでくださるとうれしいな」
「はじめまして! わたしは――」
次々と、我先にとみなさんが名乗りをあげてくださいます。さっぱりです。美ショタ様はちょっと無表情気味にあいさつを返していました。手を離して。おかげさまでわたしもごあいさつ攻撃にあいました。
「こんにちは、お嬢様。あなたはたしか宰相閣下がいらしたとき迎えに来ていた?」
「あはい、そうです」
「アルベリク・サマンです。お会いできてうれしい」
さわやかな笑顔で右手を差し出されたのですけれど、右手は美ショタ様が拘束しています。ら、美ショタ様がさっと手を出して「テオフィル・ボーヴォワールです。こんにちは、サマン氏」と握手されました。サマンくんちょっとびっくりしてました。
わやわやととてもにぎやかです。が、わたしはずっと気づいています。――カヤお嬢様がこの輪に入れていないことを!
「美ショタ様」
「ここでもその呼び方どうなの」
「カヤお嬢様がぼっちです」
「だれそれ」
「ここのおたくの娘さん」
美ショタ様が話しかけられているのを軽くいなしながら周囲を見渡しました。「――ああ、あの子」とおっしゃって、わたしを引き連れて人だかりを縦断します。強い。「お嬢さん、ごあいさつがまだでしたね」と笑顔で近づきながらおっしゃいました。
「以前公使館でお会いした。ソノコから話は聞いています。冬季リーグで始球式をされたと。うらやましいかぎりです。テオフィル・ボーヴォワールと申します。お近づきのほどを」
美ショタ様が右手を差し出すと、カヤお嬢様が真っ赤になりながらあわててその手を取りました。わたしも左手を出してみました。そちらもお嬢様が反射的に取られました。輪になりました。
「……なにしてんの」
「え、なんとなく」
パーティは大人と子どもで別空間みたいな感じでした。大人空間はなんかめっちゃ上辺笑顔の怖い感じです。そして今気づきました。わたし子ども側に割り振られてる。ちょっと待て。
「やあ、仲良しでうらやましいなあ!」
レオンくんが近づいてきて言いました。二番目に美ショタ様へあいさつした子です。レオンくんしか名前覚えられませんでした。いいよねナタリー・ポートマン。輪になったまま美ショタ様が「そうですね、これからも仲良くしていきたいと思っていますよ」ときれいな笑顔でおっしゃいました。ほんと、笑うとオリヴィエ様そっくりなんだよなー。
また子どもたちが集まってきて、わたしたちの輪を取り囲みました。なにを召喚する集まりでしょうか。ちょっとしてからレアさんがとても残念そうな顔で「なにしているのよあなたたち……」と助け出してくれました。ありがとうございます。
パーティ自体はざっくり二時間程度だったような、もっと長かったような気がします。オリヴィエ様が「ではそろそろ失礼いたします」とさっきの美ショタ様っぽい笑顔でおっしゃるのが遠目に確認できました。「では」と美ショタ様はわたしを連れてすたすたとオリヴィエ様の元へ。なんとなくわたしはつなぎっぱなしだったカヤお嬢様の左手をそのままに行きました。ぎゅっとお嬢様が握り返してこられて、「あのっ、テオフィル様、ソノコ様」と真っ赤な顔でおっしゃいました。
「今度、遊びにおじゃましても、いいですか?」
すっごく勇気を出したんだと思います。なんのことでもないように「ああ、来ればいいよ」と美ショタ様がおっしゃいました。わたしはそれを肯定するために、つないだ左手を上下させてから離しました。
結局わたしとしてはなんのためのパーティだったのかわかりませんでした。――子ども側に押し込まれたのでね! でも、カヤお嬢様が一歩踏み出すために必要な機会だったのだとしたらよかったです。帰りの自動車の中でレアさんのお話を伺ったら、権謀術数って感じでした。子ども側でよかったと思いました。はい。
ところで、みなさんお気づきのことと思います。昨日はなんとなくオリヴィエ様がいらしたという事実でなにもかもてんやわんや、今日になってからもパーティやらなんやらで忙しかった。
ので。いろいろ気にせずすんでいたのですが。
考えてもみてください。推しです。わたしの人生最大最高最上最愛の推しです。群馬に住んでいたころまでは次元の壁に阻まれて会うことすらできなかった推しです。むしろ会うこととか考えられる立場になかった。グレⅡの世界に行きたいと妄想したことは数あれど、それが本当になるなんて二次創作の中だけです。わたし夢女子ではないですけど。
グレⅡ創作仲間の中でもやっぱり夢小説書いていらっしゃる方はいらして。その場合オリヴィエ様が恋人だったり同級生だったり上司だったりするんですけど。あんまり感情移入できないっていうか。自分がそうだったらいいなーっていう気持ちは、ない方だったんですよね、わたし。
が。ですが。今のこの状況。
――同じ家で共同生活。あきらかに夢小説的設定。
が。ですが。物事は小説みたいにきれいに運びません。わたしの中でとっても今、問題となっていることがあります。こんなこと自分の二次創作内でも考えたことありませんけども。
……お手洗いとお風呂、オリヴィエ様と共用。どのタイミングで使おう。
ということで、オリヴィエ様とつなぎを取りたい有象無象の人々のうち、未成年の家族がいらっしゃる方はこうやって美ショタ様をターゲットにしたわけですね。ひとりずつ近づいてくるなんていうスマートなことはできなくて、わたしもろともわっと子どもたちに囲まれた感じです。ちょっと輪の外に出られませんね、これ。というか逃げようとしたら手首を掴まれて美ショタ様に阻止されたんですけど。
「こんにちは! あたしはクローデット・ベシエールです! パパはベシエール興業の社長です!」
「はじめまして、レオン・カアンです。カアン・ホリジング総帥である、ジョフロワ・カアンの子息です。レオンって呼んでくださるとうれしいな」
「はじめまして! わたしは――」
次々と、我先にとみなさんが名乗りをあげてくださいます。さっぱりです。美ショタ様はちょっと無表情気味にあいさつを返していました。手を離して。おかげさまでわたしもごあいさつ攻撃にあいました。
「こんにちは、お嬢様。あなたはたしか宰相閣下がいらしたとき迎えに来ていた?」
「あはい、そうです」
「アルベリク・サマンです。お会いできてうれしい」
さわやかな笑顔で右手を差し出されたのですけれど、右手は美ショタ様が拘束しています。ら、美ショタ様がさっと手を出して「テオフィル・ボーヴォワールです。こんにちは、サマン氏」と握手されました。サマンくんちょっとびっくりしてました。
わやわやととてもにぎやかです。が、わたしはずっと気づいています。――カヤお嬢様がこの輪に入れていないことを!
「美ショタ様」
「ここでもその呼び方どうなの」
「カヤお嬢様がぼっちです」
「だれそれ」
「ここのおたくの娘さん」
美ショタ様が話しかけられているのを軽くいなしながら周囲を見渡しました。「――ああ、あの子」とおっしゃって、わたしを引き連れて人だかりを縦断します。強い。「お嬢さん、ごあいさつがまだでしたね」と笑顔で近づきながらおっしゃいました。
「以前公使館でお会いした。ソノコから話は聞いています。冬季リーグで始球式をされたと。うらやましいかぎりです。テオフィル・ボーヴォワールと申します。お近づきのほどを」
美ショタ様が右手を差し出すと、カヤお嬢様が真っ赤になりながらあわててその手を取りました。わたしも左手を出してみました。そちらもお嬢様が反射的に取られました。輪になりました。
「……なにしてんの」
「え、なんとなく」
パーティは大人と子どもで別空間みたいな感じでした。大人空間はなんかめっちゃ上辺笑顔の怖い感じです。そして今気づきました。わたし子ども側に割り振られてる。ちょっと待て。
「やあ、仲良しでうらやましいなあ!」
レオンくんが近づいてきて言いました。二番目に美ショタ様へあいさつした子です。レオンくんしか名前覚えられませんでした。いいよねナタリー・ポートマン。輪になったまま美ショタ様が「そうですね、これからも仲良くしていきたいと思っていますよ」ときれいな笑顔でおっしゃいました。ほんと、笑うとオリヴィエ様そっくりなんだよなー。
また子どもたちが集まってきて、わたしたちの輪を取り囲みました。なにを召喚する集まりでしょうか。ちょっとしてからレアさんがとても残念そうな顔で「なにしているのよあなたたち……」と助け出してくれました。ありがとうございます。
パーティ自体はざっくり二時間程度だったような、もっと長かったような気がします。オリヴィエ様が「ではそろそろ失礼いたします」とさっきの美ショタ様っぽい笑顔でおっしゃるのが遠目に確認できました。「では」と美ショタ様はわたしを連れてすたすたとオリヴィエ様の元へ。なんとなくわたしはつなぎっぱなしだったカヤお嬢様の左手をそのままに行きました。ぎゅっとお嬢様が握り返してこられて、「あのっ、テオフィル様、ソノコ様」と真っ赤な顔でおっしゃいました。
「今度、遊びにおじゃましても、いいですか?」
すっごく勇気を出したんだと思います。なんのことでもないように「ああ、来ればいいよ」と美ショタ様がおっしゃいました。わたしはそれを肯定するために、つないだ左手を上下させてから離しました。
結局わたしとしてはなんのためのパーティだったのかわかりませんでした。――子ども側に押し込まれたのでね! でも、カヤお嬢様が一歩踏み出すために必要な機会だったのだとしたらよかったです。帰りの自動車の中でレアさんのお話を伺ったら、権謀術数って感じでした。子ども側でよかったと思いました。はい。
ところで、みなさんお気づきのことと思います。昨日はなんとなくオリヴィエ様がいらしたという事実でなにもかもてんやわんや、今日になってからもパーティやらなんやらで忙しかった。
ので。いろいろ気にせずすんでいたのですが。
考えてもみてください。推しです。わたしの人生最大最高最上最愛の推しです。群馬に住んでいたころまでは次元の壁に阻まれて会うことすらできなかった推しです。むしろ会うこととか考えられる立場になかった。グレⅡの世界に行きたいと妄想したことは数あれど、それが本当になるなんて二次創作の中だけです。わたし夢女子ではないですけど。
グレⅡ創作仲間の中でもやっぱり夢小説書いていらっしゃる方はいらして。その場合オリヴィエ様が恋人だったり同級生だったり上司だったりするんですけど。あんまり感情移入できないっていうか。自分がそうだったらいいなーっていう気持ちは、ない方だったんですよね、わたし。
が。ですが。今のこの状況。
――同じ家で共同生活。あきらかに夢小説的設定。
が。ですが。物事は小説みたいにきれいに運びません。わたしの中でとっても今、問題となっていることがあります。こんなこと自分の二次創作内でも考えたことありませんけども。
……お手洗いとお風呂、オリヴィエ様と共用。どのタイミングで使おう。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
306
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる