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わたしの帰る場所
241話 えっ、まじ?
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式典のあとで、トビくんのお母さんとお話しできました。そのときにトビくんとオレリーちゃんへのお祝いも渡せました。よかった。
お母さんは涙ながらにわたしへとお礼を言ってくれました。ありがとうございますありがとうございますって。ご自身がちゃんと学校を出ないままにトビくんを妊娠しちゃって、本当に苦労の多い生活をされてきたみたいです。子どもたちに自分と同じ生活をさせたくないと思いつつ、どうにもできないジレンマ。ちょっともらい泣きしてしまった。
ご主人とはしっかりと結婚したわけでも、離婚されたわけでもないみたいです。それでも情はあるんだと思います。公営住宅に移動する際、すごくしぶっていたと聞いているので。きっと、帰って来るのを待っているんだと思う。
そんなあやふやな家庭事情が福と転じて、すぐに公的な支援を受けられるようになったんですけれど。その支援策だって、煩雑な手続きが必要なものだから、本当に必要な人には届いていないのが実情みたいです。まず、トビくんのお母さんは読み書きができないしね。
そんな制度の不具合も、きっといつか是正されて行くんだと思います。そんな風に希望を抱けるような、すてきな式典でした。記者席でしたけど、参加できてよかった。本当に。
そして、あれやこれやといううちに、一カ月が経ちました。
その間、リッカー=ポルカのコラリーさんやベリテさん、それにディアモン財閥のカヤお嬢様とお手紙でやり取りしました。みんな元気みたいでうれしい。
リッカー=ポルカの女性陣とはレテソルで再会という形になりそうです。マディア公爵領をあげてのお祭りになると予想されますからね。クロヴィスとメラニーの結婚式!
やろうと思えばきっと公爵邸の中でぜんぶできてしまうんでしょうけれど、領民のみなさんへのお披露目が肝心、ということで、レテソルのスタジアムでセレモニーをやるみたいです。あの、ファピーを見て、カヤお嬢様誘拐未遂があったところ! さすがに領民のみなさんすべては入れないので、招待された方以外は事前申込みの上で抽選とのことでした。倍率すごそう。マダムたちも応募したって手紙に書いてあったしな。
レアさんにいろいろお話を伺ったんですけど、ウェディングドレスは白じゃないみたいですね。この前あったお披露目会が伝統的には白。そして結婚式は『土地色』というものによるんだそうで。
たとえば、メラニーはデュリュフレ伯爵領の出身。そちらの『土地色』は紫。嫁ぐ先はマディア公爵領。そちらは黄色。なのでそのふたつをミックスした色のドレスになるのが通常なんですって。へえー。所変われば文化も変わるものですね。レアさんがにやにやしながらわたしへ言いました。
「ちなみにい、グラス侯爵領の土地色はあ、緑なのよお」
「あっはい……はい……」
なんか上手いこと返せなかった。ぐぬぬ。
そして、レテソルへ。市中のホテルの部屋は軒並み完売。領中から人が集まるからね。わたしとレアさんはマディア公爵邸にってお話があったんですけれど、いくら広いとはいえ新婚さんのお家におじゃまするのはどうよ、ということで、辞退しました。メラニーはめちゃくちゃ残念がっていたけれど。
ぜひ、と言ってくださったので、カヤお嬢様のお宅へお世話になります。……だって、美ショタ様がオリヴィエ様の名代として参加するからね!!!!!
アシモフたんはさすがに連れては来られないねえ、と、ミュラさんがいつもイネスちゃんを預けている方を紹介していただきました。警察犬みたいな子たちを訓練するお仕事をされているんですって。ミュラさんに託したらアシモフたんがおりこうになって帰って来た理由がわかりました。はい。
コラリーさんたちに会うことを想定して、一希兄さんのワンピも持って来ました。実物を見てもらった方が早いかなって。行きの蒸気機関車の中では、一両借り切ったのでわたしもレアさんもパンツスタイルで。楽なんだもん。美ショタ様は無言でした。はい。
レテソル駅は、これまで見た中で一番飾り付けられていました。むしろ、街中がそんな感じ。もともと年中お花が咲いている地域なんですけれど、それが倍になったって言ってもいいくらい。全力でお祭りモードです。最高ですね!
白くて長ーーーーい自動車がお迎えに来ていました。ディアモン家の執事のルークさんが、駅から出て来たわたしたちの姿を見て一礼します。わたしとレアさんは単身ですが、美ショタ様は従者さんをひとり連れていらっしゃいます。その方からルークさんが荷物を受取り、トランクへ。わたしとレアさんのも。従者さんは助手席へ座りました。ちなみに後部座席は向かい合わせに六人くらい座れそうな仕様です。超高級車。はい。
白くてキレイなお屋敷は健在でした。門をくぐってお庭を通り、自動車が本邸の前へ停車すると、緊張した面持ちのカヤお嬢様がそこにいらっしゃいました。今日はツインテ金髪じゃなくて、ハーフアップにしています。それに落ち着いた水色のワンピース。お姉さんっぽくて一瞬だれだかわからなかった。
「おひさしぶりです!」
「ようこそお越しくださいました、みなさん。お疲れでしょうから、すぐにお休みいただけるよう手配しております。どうぞ中へ」
わたしがあいさつをすると、カヤお嬢様から淑女の礼であるリヴェオンスとともにそんな言葉が返って来ました。おおおおお⁉️ なに⁉️ なんかイメチェン⁉️ 戸惑うんだけど⁉️
中に入ると、帰宅拒否症のカヤパパがいました。帰宅できてた。めっちゃいい声で「ようこそ」とおっしゃり、わたしたちを歓迎してくれました。美ショタ様とは握手。なんか人当たりよくなってる。なに、親子でイメチェンなの。なんで。どうして。
わたしたちにはそれぞれお部屋と、専属のメイドさん。美ショタ様の従者さんにまでメイドさん。さすがに断ってた。メイドさんがおっしゃるには、このまま部屋で過ごしてもかまわないし、出ていってカヤお嬢様のところに行ってもかまわないし、みたいな。カヤお嬢様はいつでもお相手できるように懇談室待機しているそう。いやいやいや。そう言われたら行くしかないんですけれど。
そう言えば、カヤお嬢様が誘拐未遂に遭ってわたしがもらっちゃったお金、結局未使用のまま銀行にあるんですよね。もし戦争が激化したら、リッカー=ポルカ再建とか仮設住宅のために寄付しようと思っていたんですが、幸いにもそうせずに済んだので。よかった。あらためて、今の状況が幸せだな、と思えました。
レアさんと美ショタ様に声をかけたら、そのまま夕飯まで休むっておっしゃったので、一人で懇談室へ。ノックすると「はいっ‼️」と緊張した声の返事がありました。
「おひさしぶりです! あ、レアさんとテオくんは、お部屋で休むそうです」
入室してわたしがそう言うと、カヤお嬢様が大きなため息とともに脱力しました。そして「おひさしぶりです、ソノコ様! お会いできてうれしい!」とおっしゃいました。
「あれえ⁉️ ちょっとどころじゃなく背が伸びました⁉️」
「はい。もうソノコ様と同じくらいよ!」
今年十一歳だと思うので、伸び盛りですものね! うらやましい。胴じゃなくて脚が伸びるのうらやましい。それもあって、本当に見違えてしまいました。わたしは「ピンクの服、やめたんですか?」と聞いてみました。
「もう、それをおっしゃらないで! もう子どもじゃないんです、わたくし!」
あらー、なんだか口調までお姉さんっぽくなってる……。しばらく見ない内におっきくなってる親戚の子を見る気分。お姉さん感傷に浸っちゃうよ。トビくんとオレリーちゃんといい、子どもたちはすぐ成長しちゃいますね。
座って近況を話し合いました。お手紙でやり取りはしていたんですけれどね。レテソルに来るのもひさしぶりだし、地域がどんな感じなのかも気になったし。そして、カヤお嬢様がおっしゃいました。
「わたくし、ルミエラの学校を目指そうと思うの」
お母さんは涙ながらにわたしへとお礼を言ってくれました。ありがとうございますありがとうございますって。ご自身がちゃんと学校を出ないままにトビくんを妊娠しちゃって、本当に苦労の多い生活をされてきたみたいです。子どもたちに自分と同じ生活をさせたくないと思いつつ、どうにもできないジレンマ。ちょっともらい泣きしてしまった。
ご主人とはしっかりと結婚したわけでも、離婚されたわけでもないみたいです。それでも情はあるんだと思います。公営住宅に移動する際、すごくしぶっていたと聞いているので。きっと、帰って来るのを待っているんだと思う。
そんなあやふやな家庭事情が福と転じて、すぐに公的な支援を受けられるようになったんですけれど。その支援策だって、煩雑な手続きが必要なものだから、本当に必要な人には届いていないのが実情みたいです。まず、トビくんのお母さんは読み書きができないしね。
そんな制度の不具合も、きっといつか是正されて行くんだと思います。そんな風に希望を抱けるような、すてきな式典でした。記者席でしたけど、参加できてよかった。本当に。
そして、あれやこれやといううちに、一カ月が経ちました。
その間、リッカー=ポルカのコラリーさんやベリテさん、それにディアモン財閥のカヤお嬢様とお手紙でやり取りしました。みんな元気みたいでうれしい。
リッカー=ポルカの女性陣とはレテソルで再会という形になりそうです。マディア公爵領をあげてのお祭りになると予想されますからね。クロヴィスとメラニーの結婚式!
やろうと思えばきっと公爵邸の中でぜんぶできてしまうんでしょうけれど、領民のみなさんへのお披露目が肝心、ということで、レテソルのスタジアムでセレモニーをやるみたいです。あの、ファピーを見て、カヤお嬢様誘拐未遂があったところ! さすがに領民のみなさんすべては入れないので、招待された方以外は事前申込みの上で抽選とのことでした。倍率すごそう。マダムたちも応募したって手紙に書いてあったしな。
レアさんにいろいろお話を伺ったんですけど、ウェディングドレスは白じゃないみたいですね。この前あったお披露目会が伝統的には白。そして結婚式は『土地色』というものによるんだそうで。
たとえば、メラニーはデュリュフレ伯爵領の出身。そちらの『土地色』は紫。嫁ぐ先はマディア公爵領。そちらは黄色。なのでそのふたつをミックスした色のドレスになるのが通常なんですって。へえー。所変われば文化も変わるものですね。レアさんがにやにやしながらわたしへ言いました。
「ちなみにい、グラス侯爵領の土地色はあ、緑なのよお」
「あっはい……はい……」
なんか上手いこと返せなかった。ぐぬぬ。
そして、レテソルへ。市中のホテルの部屋は軒並み完売。領中から人が集まるからね。わたしとレアさんはマディア公爵邸にってお話があったんですけれど、いくら広いとはいえ新婚さんのお家におじゃまするのはどうよ、ということで、辞退しました。メラニーはめちゃくちゃ残念がっていたけれど。
ぜひ、と言ってくださったので、カヤお嬢様のお宅へお世話になります。……だって、美ショタ様がオリヴィエ様の名代として参加するからね!!!!!
アシモフたんはさすがに連れては来られないねえ、と、ミュラさんがいつもイネスちゃんを預けている方を紹介していただきました。警察犬みたいな子たちを訓練するお仕事をされているんですって。ミュラさんに託したらアシモフたんがおりこうになって帰って来た理由がわかりました。はい。
コラリーさんたちに会うことを想定して、一希兄さんのワンピも持って来ました。実物を見てもらった方が早いかなって。行きの蒸気機関車の中では、一両借り切ったのでわたしもレアさんもパンツスタイルで。楽なんだもん。美ショタ様は無言でした。はい。
レテソル駅は、これまで見た中で一番飾り付けられていました。むしろ、街中がそんな感じ。もともと年中お花が咲いている地域なんですけれど、それが倍になったって言ってもいいくらい。全力でお祭りモードです。最高ですね!
白くて長ーーーーい自動車がお迎えに来ていました。ディアモン家の執事のルークさんが、駅から出て来たわたしたちの姿を見て一礼します。わたしとレアさんは単身ですが、美ショタ様は従者さんをひとり連れていらっしゃいます。その方からルークさんが荷物を受取り、トランクへ。わたしとレアさんのも。従者さんは助手席へ座りました。ちなみに後部座席は向かい合わせに六人くらい座れそうな仕様です。超高級車。はい。
白くてキレイなお屋敷は健在でした。門をくぐってお庭を通り、自動車が本邸の前へ停車すると、緊張した面持ちのカヤお嬢様がそこにいらっしゃいました。今日はツインテ金髪じゃなくて、ハーフアップにしています。それに落ち着いた水色のワンピース。お姉さんっぽくて一瞬だれだかわからなかった。
「おひさしぶりです!」
「ようこそお越しくださいました、みなさん。お疲れでしょうから、すぐにお休みいただけるよう手配しております。どうぞ中へ」
わたしがあいさつをすると、カヤお嬢様から淑女の礼であるリヴェオンスとともにそんな言葉が返って来ました。おおおおお⁉️ なに⁉️ なんかイメチェン⁉️ 戸惑うんだけど⁉️
中に入ると、帰宅拒否症のカヤパパがいました。帰宅できてた。めっちゃいい声で「ようこそ」とおっしゃり、わたしたちを歓迎してくれました。美ショタ様とは握手。なんか人当たりよくなってる。なに、親子でイメチェンなの。なんで。どうして。
わたしたちにはそれぞれお部屋と、専属のメイドさん。美ショタ様の従者さんにまでメイドさん。さすがに断ってた。メイドさんがおっしゃるには、このまま部屋で過ごしてもかまわないし、出ていってカヤお嬢様のところに行ってもかまわないし、みたいな。カヤお嬢様はいつでもお相手できるように懇談室待機しているそう。いやいやいや。そう言われたら行くしかないんですけれど。
そう言えば、カヤお嬢様が誘拐未遂に遭ってわたしがもらっちゃったお金、結局未使用のまま銀行にあるんですよね。もし戦争が激化したら、リッカー=ポルカ再建とか仮設住宅のために寄付しようと思っていたんですが、幸いにもそうせずに済んだので。よかった。あらためて、今の状況が幸せだな、と思えました。
レアさんと美ショタ様に声をかけたら、そのまま夕飯まで休むっておっしゃったので、一人で懇談室へ。ノックすると「はいっ‼️」と緊張した声の返事がありました。
「おひさしぶりです! あ、レアさんとテオくんは、お部屋で休むそうです」
入室してわたしがそう言うと、カヤお嬢様が大きなため息とともに脱力しました。そして「おひさしぶりです、ソノコ様! お会いできてうれしい!」とおっしゃいました。
「あれえ⁉️ ちょっとどころじゃなく背が伸びました⁉️」
「はい。もうソノコ様と同じくらいよ!」
今年十一歳だと思うので、伸び盛りですものね! うらやましい。胴じゃなくて脚が伸びるのうらやましい。それもあって、本当に見違えてしまいました。わたしは「ピンクの服、やめたんですか?」と聞いてみました。
「もう、それをおっしゃらないで! もう子どもじゃないんです、わたくし!」
あらー、なんだか口調までお姉さんっぽくなってる……。しばらく見ない内におっきくなってる親戚の子を見る気分。お姉さん感傷に浸っちゃうよ。トビくんとオレリーちゃんといい、子どもたちはすぐ成長しちゃいますね。
座って近況を話し合いました。お手紙でやり取りはしていたんですけれどね。レテソルに来るのもひさしぶりだし、地域がどんな感じなのかも気になったし。そして、カヤお嬢様がおっしゃいました。
「わたくし、ルミエラの学校を目指そうと思うの」
応援ありがとうございます!
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