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グレースお姉様から書類を受け取り、お義母様とグレースお姉様のサインを確認すると、一部をグレースお姉様に返しました。

私の探索状況をうっかり流してしまったことを気にしていたステラさんが、王都支部の支部長さんにサインを貰ってくれたり、いろいろとアドバイスしてくれました。

他の貴族から声がかかっているなどというハッタリを混ぜたりしたのもステラさんの入れ知恵です。
私としては納得のいく交渉ができたと思います。

「これは私と、お姉様、それから冒険者協会でそれぞれ保管します。私達だけの約束ではないので、もし迷宮を踏破した場合にも反故にはできませんので安心してください」

二度と迷宮探索の邪魔はしないでねと遠回しに牽制したつもりでしたが、さっきから不愉快そうな顔を崩さないグレースお姉様には真意は伝わっているようです。

「それでは失礼します。次にお会いするのは報酬をお渡しできる時にしたいですね」

「ふん、あまり調子に乗らないことね」

先程からちょっと大言壮語が過ぎるかなと自分でも思いますが、このくらいでないと足元を見られかねないので仕方ないのです。

私が踵を返して部屋を出ると、ルーナお姉様が後ろからついてきました。

「クロエ、本当に公子様との結婚の権利を渡してしまっていいの?」

まだ廊下なのでグレースお姉様に聞かれているかもしれないのに迂闊なルーナお姉様です。
私はルーナお姉様に用事があったので、お姉様の部屋に案内してもらいました。

「私は公太子妃なんて柄じゃ無いですから。今は冒険が楽しくて、それを邪魔されなきゃ何でもいいんです」

「それじゃ結局グレースお姉様の思う壺じゃない」

お互いの利害の一致と言って欲しいのですけど。
私にとってあまり価値の無いものですが、ルーナお姉様も公子様との結婚を夢見たりしているのでしょうか。

「それはそうと、ルーナお姉様に試して欲しいものがあって」

私は収納袋から液体の入った小瓶を取り出しました。
マッドゴーレムからドロップしたアイテムで、ルーカス君では鑑定できなかったのでリンカーンさんに鑑定してもらったのです。

・霊薬(アイテム)完全回復効果

リンカーンさんがすごい金額で買い取りを申し出てくれたのですが、お断りしました。
身体の欠損も治るはずだとリンカーンさんは言っていました。

訝しそうに薬を見つめるルーナお姉様を半ば強引にベッドに押し倒して、試しに半分を少しづつ左目に垂らして、残りを飲んでもらいました。

「目の奥が熱い……!」

ルーナお姉様は左目を押さえて身体を丸めてしまいました。
部位欠損が治るなんて流石に都合良過ぎかなと思っていると、ルーナお姉様が身体を起こして目を見せてきました。

驚いたことにルーナお姉様の目は、見た感じは元通りになっていました。

「光を感じるようになって白くぼやけているの。見た目はどうなってる?」

ルーナお姉様は瞬きしながら言いました。視力は戻っていないようですが時間の問題なのか、或いはそこまでは効かないのかは分かりません。

ルーナお姉様は自分で鏡を見ると、大粒の涙を流し始めました。ルーナお姉様も年頃の娘ですから、あの見た目には相当悩んでいたようです。

「クロエ、なんてお礼を言ったらいいか。今まで散々酷いことをしてきたのに」

「気にしないでください。まだ完治するかわからないし、拾ったものなので」 

部位欠損している知り合いなんていないので、ちょうど試せて良かったです。また見つけたら次は大事にしましょう。

用事は済んだのでシリウスの家をあとにしました。

その足でルーカス君に謝りに行きます。ルーカス君、結構怒ってたから少し気が重いです。
リンカーン商店には居なかったので、リンカーンさんにルーカス君の家の場所を聞いてそっちに向かいました。
ルーカス君が何か迷惑をかけたのかと、リンカーンさんに理由を聞かれて説明に困りましたけど。

ルーカス君の家は雑貨屋ということでしたけど、来るのは初めてです。言われた辺りを探していると、メイソン商店という看板の雑貨屋を見つけました。
店の先で店員と思われる少女が掃き掃除をしていたので少し緊張しながら声をかけました。
少女はルーカス君と間違えてしまいそうなくらいよく似ていましたが、髪を伸ばしているのとルーカス君より少し小柄でした。

「私はクロエといいます。ルーカスさんはご在宅でしょうか」

少女は私を見て一瞬驚いた顔をしました。

「クロエ様?ほんとにいたんだ!」

聞くと、ルーカス君がお金をたくさん持って帰るようになって訝しがる家族に、ルーカス君が私と一緒に迷宮を探索している報酬だと説明したようですが、家族は半信半疑だったようです。

「お兄ちゃん!クロエ様が来たよー!」

大きな声でルーカス君を呼びに行ってくれた少女はルーカス君の妹さんでナタリーだと自己紹介されました。ルーカス君は可愛い顔をしているので、そっくりなナタリーはとても可愛いです。

入れ替わりでこれまた二人によく似た女性が店から出てきました。

「クロエ様、ようこそお越しくださいました。ルーカスの母のシャーリーと申します。外では何ですから、どうぞお入りください」

シャーリーさんに言われるがまま店の中に入ると、丁度ナタリーに引かれてルーカス君がやってきました。なんだかバツが悪そうにも不機嫌そうにも見える態度で、私からは目を逸らしています。

「何しに来たんだよ」

開口一番そんなご挨拶だったので、私も少しイラッとしてしまいました。謝りに来たので平常心平常心。
そう私が思っていたら、シャーリーさんがルーカス君のお尻をかなり強めに叩きました。

「いてっ!何するんだよ母さん!」

「雇い主に対する態度じゃないよ。しかもこんな綺麗なお嬢さんになんて口のききかたをするんだい。だいたい帰ってからずっと部屋に閉じこもったりして、女々しいったらありゃしない」

「お兄ちゃん泣きそうな顔で帰って来たんだよねー」

「母さんもナタリーも黙っててくれよ!クロエ、ちょっと外に行こうぜ」

ルーカス君は顔を真っ赤にして抗議しています。ルーカス君も結構気にしてくれたみたいで安心しました。

ルーカス君は慌てて私を外に連れ出そうとしましたが、またシャーリーさんがルーカス君のお尻を叩いて、私を店の奥に通してお茶とお菓子を出してくれました。
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