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私はルーカス君と一緒に、ステラさんに今日あったことを話しました。

「へえ、凄いじゃない。もう他のパーティーは諦めているようなものなのに。何かこちらにも情報が入ったらクロエちゃんに連絡するね」

ステラさんがそう言うと、ルーカス君が深妙な顔をして寄ってきました。

「でも、さっきの話だけどさ、ここのダンジョンは破格に美味いから、問題が解決して封鎖される前にもうひと稼ぎした方がいいかもしれないぜ」

「じゃあ明日も探索に行こうかな。本当に旅に出るなら資金はいくらあってもいいよね」

「あら、貴女達は別の街に行くつもりなの?いいわね、冒険者っぽくて」

「いや、冒険者っぽいんじゃなくて、冒険者だよ」

「そうね、この街で一番の冒険者だったわね」

ステラさんとルーカス君は二人で盛り上がっています。私はファーガス王の話が頭から離れなくて、なんとなく落ち着きませんでした。

ちょっと疲れたので、冒険者協会の休憩室でルーカス君と一緒に、何をするでもなくぼーっとしていました。

「そういえば、さっき玉座で拾ったアクセサリーを師匠に見せにいかないと」

「あ、忘れてた。でもなんだか疲れたなあ」

すっかり根っこが生えてしまった私をルーカス君が生暖かく見ています。

暫くして、流石にそろそろ行こうかと思って協会を出ようとしていると、だいぶ前に家に帰ったはずのエルヴィン様が息を切らせながら駆け込んできました。フルプレート姿ではなく軽装ですけど。

エルヴィン様はこちらに気がつくと、近づいてきて息を整えています。

「クロエ、お母様が目を覚ましたんだ!」

「ええっ!?」

どうやら、目に見えた変化が起きているようです。私の心配は取り越し苦労だったようですね。
エルヴィン様の目的が果たせたならめでたいことです。

「帰ったら屋敷が騒然としていて、慌ててお母様に会いに行ったんだ。でも、なんだか彼女はどこ吹く風で、僕が話しかけても全く反応しなくてね」

「暫く寝ていた後遺症でしょうか?それは心配ですね」

「ここに来る途中、どうやら街の方でも目を覚ました人がいるのか、そんな話がちらほら耳に入ってきた。もしかしたら公太子様も目が覚めているかもしれない」

私はルーカス君と顔を見合わせました。

「本当に解決しちゃったのかね。せっかくの財テクが!」

「もう、ルーカス君。とりあえずそれは置いとこうよ。エルヴィン様、良かったですね」

「ああ……だが、あのミイラの言っていた事が気になるんだ。僕達だけで解決しろって」

エルヴィン様は何だか不安そうです。ファーガス王があっさりと引き下がり過ぎて、ひっかかるのは私だけではないようです。

その時、帰ったはずのルーナも慌てて戻ってきました。

「クロエ、大変よ!うちに大公様の使いの早馬がやってきたらしくて、話を聞くとか言ってグレースお姉様とお母様が勝手に馬車で王宮に向かってしまったみたいなの」

「ええっ!?クロエちゃん、きちんと署名はもらったのよね?」

聞き耳を立てていたのか、ステラさんが顔色を変えてカウンターから出てきました。ルーカス君も憤慨している様子です。

「どういうつもりだ?まさか契約を破るつもりじゃないだろうな」

「どうしよう、私達も行った方がいいのかな」

でも、王宮の兵士が下級貴族の娘程度を簡単に入れてくれるはずがない気がします。

「何だかよくわからないけど、クロエが代表で踏破したんだから、こっちが招待してもらえるんじゃないのかい?」

エルヴィン様が不思議そうにそう言うので、今更ですけど私の事情をエルヴィン様にお話ししました。
エルヴィン様は私を不憫そうな目で見ています。

「君も苦労しているんだね。何だか他人事に思えないよ」

正妻の子ではないと言う点では私とエルヴィン様の悩みは似ているのです。エルヴィン様をあっさり受け入れたのはそれもありましたから。

「一応グラジオラスを名乗れる僕なら、家紋があるからこれでも門前払いと言うほどの扱いはされないはずだ。良ければ今からでも一緒に行ってみよう」

「エルヴィン様、ありがとうございます」

私は遠慮なくエルヴィン様に案内してもらうことにして、一路王宮を目指しました。

たぶん私を出し抜こうというよりは、気が焦って勝手なことをしているだけだと思うんだけど。
私が歩きながらそう言うと、ルーナが憐れんだ目でこっちを見てきました。

「クロエはグレースお姉様の理不尽に慣れすぎよ」

王宮に着くと、エルヴィン様が衛兵と交渉してくれました。グラジオラスの名前は有効だったらしく、衛兵はあっさりと中に入れてくれました。

「君の姉君達は謁見の間で大公様と会っているそうだ。公太子様も目覚められて同席しているらしい」

私達は急いで謁見の間を目指しました。

そのときです。

「ぎゃああああああああ!」

女の叫び声が謁見の間の通路にこだましました。尋常な声ではありません。

「お母様の声だわ!」

ルーナがそう言いました。

衛兵が駆け込んだのでしょうか、謁見の間の扉は開け放たれていたので、私達は中になだれ込みました。

そこには、玉座に深く座って俯いている大公様と思われる壮年の男性と、血を流して床で倒れているお義母様、そして、異形の生物に拘束されて身動きが取れなくなっているグレースお姉様がいましたが、公太子様らしき人物は見当たりませんでした。

異形の生物に衛兵達が槍を向けています。
一応ローブを着た人の形に見えますが、頭の左右から大きなツノが生えていて、背中に黒い羽が生えています。

私はその生物を急いで鑑定しました。どう見ても迷宮で出てきそうなモンスターです。

【名 前】アークデーモン
【種 族】悪魔
【スキル】魔術師魔法(7)、ドレイン(4)、レジスト(70%)

かなり危険な匂いがします。少なくとも地下8階で戦ったモンスターよりは強そうです。

「クロエ、助けて……」

グレースお姉様がこちらに気づいて助けを求めてきました。

「グレースお姉様、これはいったい」

「公太子様が突然この化け物になって……がっ!?」

アークデーモンはグレースお姉様を拘束したまま脇に抱えました。何かしたのか、グレースお姉様はぐったりしています。

『ふはははは。美味そうなのがたくさんいるが、今はこいつだけにしておこう』

「モンスターが喋った!?」

ルーカス君が驚いた声を出しました。アークデーモンは不愉快そうに顔を歪めました。

『下等生物の分際で我をモンスター呼ばわりとは』

そう言って手を前にかざして私達に爆裂魔法を放つと、爆風吹き荒れる中アークデーモンはグレースお姉様ごと魔法陣に包まれて消えてしまいました。
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