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外伝 王太子殿下と男装ヒロイン  

第3話 まずは他の連中のフラグをへし折りに行く事にしたんだけど――?

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 「――……成程?そのヒロインは、魔女達とは違うって事だね」

 「はい。寧ろ、ヒロインである事が嫌だと――……なので現状、攻略対象である俺は不利ですね」

 俺の話を聞いて落ち着いたらしい父上が、そう言って安堵の息を吐く。
 彼女のあの様子から考えれば、攻略対象の俺が「好きだ」と言って信じてくれるかどうか……。会ったばかりというのもあるけれど、下手したら「世界の強制力が――!」とか言われかねない。
 強制力は存在しないと言っても信じてくれるだろうか……うん、無理そうだ。

 「まぁ、絡め取る準備はしてるんだろう??転生者というのは得てして孤独なものだ。最初から記憶があるにせよ、途中で思い出すにせよ、いきなり見知らぬ世界に放り出されるようなものだしね……それを理解してあげられる立場を確保出来たのは上出来だったね。頼らせて、逃げるなんて事が頭に浮かばない位に依存させればいいし」

 流石、父上。
 俺の性格を良く分かってらっしゃる。まぁ、そこまでするかどうかは彼女次第だけれどね。でも良かった……この様子なら、求婚する事を認めて貰えそうだ。けれど、言質というものは必要だ。一応確認しておこうと思う。

 「――……そう父上が言うのなら、許可して貰えると思っても?」

 「いいよ。まぁ、こちらでも一応・・その子の事を調べるけれどね。お前程聡い子が騙されるなんて事は無いとは思うけれど、女狐の中には凄腕もいるからなぁ。攻略対象に興味が無い振りをして、相手の興味を引く――手練手管が上手なタイプがいない訳じゃないし。まぁ、聞いた感じ、裏表が無さ過ぎて・・・・・・・・心配になりそうな娘さんって感じがするけど」

 よし!父上からの許可に内心で喜びの声を上げる。そして俺は父上の言葉に頷いた。彼女が『魔女』のような女性で無い事に自信はあるけれど、調査は必要だ・・・・・・
 彼女がヒロインである以上、父上が調査させ『魔女』とはかけ離れた人物であると証明する・・・・必要があるからだ。
 そして心配されてる部分も理解出来た。

 「ありがとうございます、父上!――彼女が表裏が無いだと言う意見には賛成です。だから、サッサと他の連中のフラグを折りたいんですよね……」

 男装している事で、変わり者扱いされつつある彼女だけれど、実際の彼女を知ればその魅力に気が付く者もいるだろう。攻略対象のフラグを折る事もそうだけれど、彼女の魅力に気が付く者が出る前に手に入れたい。

 「まぁ、頑張れ。求婚が上手く言ったら教えてくれよ?ベルも喜ぶ」

 「はい。有難うございます、父上――」

 穏やかなか表情でそう言う父上に、俺も笑顔で頷いた。
 そんなやり取りをしたのは昨日。今は放課後の図書室で彼女と向かい合い他の攻略者のフラグを確認している所だったりする。

 「攻略対象は俺を入れて6人か――」

 「えぇっと、王子様は省くとして、第二王子でしょ?他はエベリンド侯爵家のレクター、デュークス公爵家のフェリクス、ゼスト侯爵家のフィオル先生――後、ハーフエルフのリュティス?」

 「うん――」

 俺は彼女から聞いた名前を脳内で探した――
 これ、ほぼ問題無いんじゃないかなぁ……?聞けば、続きのゲームは前作の子供達が攻略対象として出て来る。例外が、隠しキャラの俺と同じく隠しキャラのハーフエルフのリュティスと呼ばれる男だ。
 まずエベリンド侯爵家――彼は結婚しているけど、子供が産まれたのはごく最近。もちろんレクターと言う名のエベリンド侯爵家の令息は学園に通っていない。
 次はデュークス公爵家かな。家督は弟が継いでるし、あそこの長男は結局神官になった。しかも戒律が厳しい方の神官だ――つまり妻帯できない訳で、勿論子供はいない。
 なら、弟の子供か?と思ったけれどデュークス公爵家にフェリクスはいないんだよね。そもそもとっくに弟の子供は学園を卒業してるし、現在接点の持ちようが無い。
 最後、ゼスト侯爵家のフィオル先生。これは実在する――でも、学生結婚したからとっくに一男三女の父親だ。愛妻家で有名な先生が生徒に手を出す訳が無い。

 ――まずは他の連中のフラグをへし折るつもりだったんだけどな……?

 もうこれ、ほぼフラグ折れてるよね?
 『まぁ、頑張れ』と言った笑顔の父上が脳裏に蘇る。これ、結果的にフラグが無いのって、父上の所為じゃないか??父上が母上と結婚した時点で続きのゲームが始まる要素が無い気がする。
 残るはハーフエルフかな。第二王子に関しては俺がアレクに彼女は俺の番いだと説明するだけで問題無いし……。それにしてもハーフエルフ……そんなに目立つ存在、いただろうか……?

 「ハーフエルフのリュティスのフルネームとか分かる??」
 
 「リュティエス・ジーン・エルダルトン・ティエルラルシュルフだよ!」

 嬉しそうに言う彼女に、少しだけイラッとした。どうやら前世での一番大好きなキャラだったらしい。大変面白く無い――。けれど、彼女が名前を覚えていてくれて助かった。

 うん。このフラグも折れてる。

 彼女曰く、リュティスは父親がエルフで母親が竜らしい。その強大な力に振り回されて孤独に悩んでいるという設定だ。そんな彼の父親に俺は心当たりがあった。
 ティエルラルシュルフは父の友人の名だ――しかも、竜の伴侶を待ち続けてる・・・・・・・。エルフ自体、他種族とあまり混じり合わないのに、その相手が竜なのだ。だったら、リュティスの父親はウォルフおじさんしかいないだろう。けど、ウォルフおじさんは伴侶を未だに待ち続けてる・・・・・・・のだ。
 つまり、まだ子供はいない。よし!最大のライバルはいないらしい。
 それにしても、アレクが攻略対象なのはまだしも、何で俺は隠しキャラなんだ……?隠されるような要素、無いと思うんだけど……。

 「多分、もうフラグほぼ折れてるね……」

 「えぇ?!」

 驚いた声を出す彼女に、さっき考えてた事を教えた。

 「そうなの?!せめて、リュティスは顔だけでも見たかったのに……」

 本気で凹む彼女に、リュティスがまだここにいない事を神に感謝した。そんなに好きだったのなら、うっかり一目ぼれしたりとかありそうだからね。
 万が一両想いにでもなったら、決闘しそう。あぁ、でもリュティスは竜の血をひいてるんだから、俺の番いだって言えば、理解してくれるかもしれない。

 「所で、気になったんだけど、俺は何で隠しキャラなの??」

 過去の資料を読んでいると、時々出て来るのが隠しキャラという存在だ。気になって昔、父上に聞いた所――『隠しキャラが出て来るのには条件があるんだ。それをクリアしないと出て来ないかな』と言われた。
 曰く、全キャラのトゥルーエンド後の解放や、特殊なアイテムを手に入れる等、出て来るのに様々な条件があるらしい。そして総じて、隠しキャラと言うものは特殊な存在らしいのだ。
 まずは、神であったり精霊王であったり――魔王であったり竜であったり……復讐に燃える亡国の皇子だったり、元暗殺者だったり――……俺、どれにも当てはまらないんだよね……。だから、不思議に思って聞いたんだ。
 隠しキャラって、普通はこういう人達がなるんじゃないの?って。

 「俺、どれにも当てはまらないんだけど――」

 「えぇ?!そんなはず無いですよね――だって、その――処刑された第1王子の隠し子ですよね??あれ?でも転生者はお父さんって言ってたから、それは回避できた感じですか??」

 彼女の言葉に俺は固まった……。処刑された第1王子って誰??そして思い出す……。父上が、そうなるはずだった・・・・・・・・・事を――。

 「あははははは!成程っ!!」

 つまり、本来の続きのゲームでは、俺は処刑された父上の隠し子で、復讐に燃えてこの国に混乱をもたらせようとしている役どころだったらしい。うーん?確かに隠しキャラっぽくはあるけれど、正直、ハーフエルフでドラゴンハーフの方が個性があるのでは??少し、隠しキャラにしては地味な気がする……。
 「えっ?え??」と驚く彼女に、俺は自分が誰なのかを説明する事にした。

 「俺はね、その処刑されたはずの・・・・・・・・第1王子――つまり現在の国王の息子だよ。いわゆる王太子だね」

 驚く彼女も可愛いなぁと思いながら、俺は父上の話をした。
 父上が、前世を思い出し、妹が好きだったゲームの世界に転生していると気が付いた事――自分が悪役で、悪役令嬢とともに処刑される運命だった事――祖父に疎まれていた理由を知り、誤解を解いて王太子になった事――悪役令嬢になる筈の母上と婚約し、結婚した事――ついでに、その時の攻略対象とヒロインの話も簡潔に話す。

 「……ぜ、全然違う事になってる……悪役令嬢が、ざまぁするタイプ?でも、この場合は転生者だった前作のヒロインだった人が勘違いしてやらかしただけで自業自得な感じ??」

 「まぁ、自業自得だねぇ」

 呆然とする彼女に、苦笑しながらそう言った。
 色々な所から聞こえて来る話を総合すれば、完全に自業自得な話である。正直、今の叔父さんの姿からは想像できない所業だ。父上が矯正したらしいけれど、何をやったんだろう??

 「……つまり、私のこの努力はまったくの無駄??」

 「始まる前に終わってたってやつかな……?まぁ、でもこれでゲームの強制力とか無い世界だって分かって貰えたんじゃないかな?」

 呟くように言った彼女に俺はそう答えた。

 「まぁ、そうですね……ここまで違っちゃうと……確かに」

 この感じだとやっぱり『強制力』があるかもしれないと警戒していたらしい。どうやら他の人間のフラグが確認できる前に、求婚しなかったのは正解だったようだ。

 「じゃあさ、この世界はゲームに似た世界であって現実だって思って貰えないかな??」

 現実だと思って欲しい――その気持ちは、俺の気持ちをゲームの強制力やプログラムされた気持扱いされたく無かったから……。好きだって気持ちを信じて貰えなかったら哀しいし、ずっとスタートラインにも立たせて貰えないのは困るからね。

 「え?あぁ、現実だとは思ってますよ?思い出したのが最近なんで、混乱しなかった訳じゃないですけど……夢から全然醒めないって思えないくらい、この世界ってリアルですし」

 匂い、味、触感全て――仮想現実の域を超えてますし――そう言って、彼女は寂しそうに笑った。
 おそらく、前世の事を思い出したんだろう。二度と帰れないもう一つの故郷。記憶が戻ったのが最近なら、彼女にとってこの世界は苦い現実だ。
 俺は、それを見て決意を固めた。彼女を前世の世界に帰す事は不可能だ――もう死んでしまっているのだから。
 けれど、この世界をもう一つの故郷にする事は出来るだろう。幸い、今ここに他の者はいない。だから――

 「なら、君に求婚したいエリナ・アルバス嬢――」

 座る彼女の横に跪いて手を取った。

 「はい?!――まって下さい、何でそうなるんです!!」

 彼女はキョトンとした顔をした後、一気に顔を赤く染めてそう叫んだ。

 「俺が、君に一目ぼれしたから……ごめんね?俺のフラグだけ折れて無くて」

 悪気が無いような振りをして、笑顔でそう嘯く。
 笑顔が黒いっ!と彼女に叫ばれたけれど気にしない。敵がいないと分かった以上、全力で君を手に入れに行く。

 「ちょっ!まっ!!一目ぼれなんて設定無――あぁ?!現実だから???」

 「ちなみに、ハーフエルフでドラゴンハーフのリュティスくんの設定とかどうなってるの??」

 大混乱の彼女に、俺はそう聞いてみた。竜の血を引く立場は同じだから気になったのだ。
 竜の血が入っている俺としては、正直彼女が爬虫類苦手だったらどうしよう?と言うのがあったのだけど、竜の血が入ったリュティスが一番好きだったのなら問題ないだろう……一番好きとか、やっぱりムカムカするな……。

 「――へあ?え??えっと、竜の血が入ってるので独占欲が強いとか……?」

 「俺の設定がどうなってるか分からないけどさ――俺にも入ってるよ……竜の血――」

 聞かれた事に混乱しながら答える彼女の言葉に俺はニッコリと笑った。リュティスの事でムカムカしたので、彼女の指先にキスしながらペロリと舐める。「ひうっ!」と声を上げて涙目になる彼女にゾクゾクした。俺って結構、父上似なのかも。苛めて困らせて俺だけを見て欲しい。
 
 「強制は出来ないし、しないけど俺は君に好きになって貰うまで諦めないと思って?」

 満面の笑みを彼女に向ける。彼女は混乱して怯えるような顔をした。それは逆効果だと教えてあげた方が良いだろうか??

 「無理です、無理無理無理~~~~~~~~~~~!!!!!」

 こんな美人さんに求婚されるとかアリエナイ!と叫ぶ彼女――自分より綺麗な人の横に立つとか無理ですぅ!と今にも逃げたそうなそぶりをする。
 正直に言ってしまえば、諦めて婚約に応じるのが彼女の心の安寧に繋がると思うんだけどね。身分がどうとかも言ってたけれど、攻略対象になってる時点で結婚は可能だし、俺が竜の先祖返りだと皆が知ってるから、番いだって言えば文句も出ようが無い。文句を言いそうなお馬鹿さん達は父上が一掃済みだ。
 逆に言えば、先祖がえりの王太子がアプローチしてる子と付き合おうとする男がいるかどうか――。うん、いないんじゃないかな?俺自身が完璧な虫よけだ。

 「美人は三日で飽きるんだろう?慣れれば大丈夫だと思うけど」

 昔、何にかの話のついでで、そんな言葉を父上から聞いた事があった気がする。美人の隣は緊張し過ぎて無理だとか言ってるけど、一緒にいれば慣れると思うんだ。

 「それ、意味違うからぁっ!!!」

 彼女の悲痛な叫びが図書館にこだました――。まぁ、早めに諦めて貰えると嬉しい。

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 ※大ポカしました※
 ※2021.02.14、1話目の『メイベル・リリス・エルグラ―ナ』『後日談 バカスと愉快な仲間達 ――その後――』の一部修正しました。※
 宰相家のデュークスの長男⇒知略家のデュークスの長男に変更致しました。
 上記の話の中でベルぱぱも宰相職に就いていると言う阿呆な間違いをしていたので修正しました;;一国に宰相は二人もいらないです。
 あれ?と思った方がいたらごめんなさい……。
 
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