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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
165話
しおりを挟む龍司のまわりにいる人は、どうしてこうも整った顔の人が多いんだろうか。
セリやルカは綺麗だし、アキは美人。
――少しだけ胸の奥が切なくなった気がした。
気持ちが通じる前まで、この胸の痛みの原因は分からなかった。
でも、今なら分かる。
きっと、これが――
“嫉妬”という感情だ。
「――様?湊様?…どうかされましたか?」
心配そうに見上げてきたアキに、湊は慌てて顔を上げるといつもの笑顔をアキに向けた。
「い、いえ!なんでもありません!こちらこそよろしくお願いします、アキさん」
お辞儀をした状態でどうやら変な事を考えてしまっていたようだ。
「…っ」
「?…アキさん…?」
今度はアキの様子が変だ。
湊の方を見たまま固まっている。顔色も少しだけ赤い気がして、湊は不思議そうに訊ねる。
「……社長が…なぜ貴方だけを大切に想い続けているのか…わかりました」
「え…」
「…いえ。なんでもございません」
きょとんと首を傾げた湊に、アキはもう一度笑みを浮かべると立ち上がった。
アキが立ち上がったのを合図に、頭を下げていたままだったゼロが待っていましたとばかりに口を開く。
「お初にお目にかかります湊様。Z2ことゼロと申します。俺の主な業務内容は、地下にいる囚人達の監視となります。表に立って護衛の仕事をすることもございますが、滅多にないためお会いする機会は他の者よりも少ないかと思います。お気軽にゼロ、とお呼びください。社長が、この世でただ1人愛されている湊様にお会いすることが出来て光栄に思います」
低音で聞き取りやすいのに、どこか安心するような声。
龍司とは違う低音の良い声が湊の耳に届いた。
体格は龍司とほとんど変わらないように感じた。
筋肉質でがっちりとした体格、そして綺麗な赤い髪と、真っ赤な瞳。
普通の人が見れば異様な風貌だが、湊はそうは思わなかった。
「綺麗な目と髪…」
「え‥」
小さく呟いた湊の言葉は、耳のいいゼロにはしっかりと届いていた。
ゼロの深紅の瞳が、驚いたように開かれる。
「あ…いきなり変なことを言ってすみません!すごく綺麗だなって思ったので…」
「…」
その場にいた全員が驚いた表情を浮かべていた。
「俺にそんな事を言ったのは…あなたで2人目です」
「へ…?」
跪いていたままのゼロの表情が柔らかくなったように感じた。
「あ…すみません。自己紹介でしたよね!月嶋湊です。よろしくお願いします。…というか、俺が龍司に愛されているだなんて!そんなこと……そんなこと、ないです…」
俺のことを愛しているって言うのは、あの時に何度も聞いた。
俺だって龍司のことを愛している。
誰よりも…
でも、気持ちって言うのは変わることだってある。
俺は変わらず龍司の事が好きだけど、龍司はまだ俺の事が好きなのかな?
もしまだ好きだと…愛しているのだと言うのなら、なんで…
どうして七瀬さんと結婚するの?
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