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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
166話
しおりを挟む落ち着いたはずの不安の感情が、また溢れてくる。
だって…もし結婚が本当の事だったら、俺はきっと立ち直ることはできない。
目頭が熱くなって涙が溢れそうになる。
震える手を握りしめ、涙を堪えた。
このままここにいたら、セリやルカに気づかれてしまいそうだ。
いきなり黙り込んでしまった湊を不信に思ったゼロがじっと見つめる。
視線を感じて顔を上げれば、ゼロの燃えるような赤い瞳と目が合ってしまってすぐに逸らした。
「ごめんルカ…。俺、部屋に戻るね。…しばらく1人になりたいから、部屋には来ないでもらっていいかな?」
隣に立っていたルカに言うと、取り繕うような笑顔を向けた。
「湊様…?」
ルカは龍司の優秀な部下だ。龍司と同様に感情の変化には鋭い。
すぐに気付かれるとわかっていても、今はそっとしておいてほしかった。
自分からこの場所に来たのに…なにやってんだろう。俺…
勘ぐるように揺れたルカの瞳に湊の姿が映った。
ここにいればまた、ルカだけじゃなくみんなに心配をかけてしまう。
ごめんね。ルカ
「湊様…どうかされましたか?」
「……」
今、ルカに顔を見られたら必死に我慢している涙が零れてしまいそう。
そしたらルカだけじゃない、セリさんやアキさん、ゼロさんは絶対に心配するに決まっている。
なんとなく、そんな気がする。
だから、お願い。
お願いだから今は1人にさせて。
本当は聞きたいことは山ほどあるのに、知るのが怖い。
聞きたくて聞きたくて仕方ないのに、聞くことが出来ない。
それはきっと、俺の弱さだ。
…本当にごめんね
湊の言葉にルカが心配そうに湊を覗きこもうとするも、湊は顔を見られないようにエレベーターの方に歩いて行ってしまった。
「湊様…!」
「――…おいルカ。なんで湊様が泣いてらっしゃるんだよ」
跪いていたゼロが大きな体を起こすと、エレベーターの方向を見て固まったままのルカに問いかけた。
ゼロの言葉に、ルカが心配そうに目を細める。
「…俺が知る訳ないだろ…!湊様のあのご様子…泣くのを必死に我慢してらっしゃった…なにかあったのか?」
ルカの言葉にセリが困ったように微笑むと、色白の手がルカの頭を優しく撫でる。
「理由はわからないけれど、とりあえず今はそっとしてあげましょう?話したくない事は誰にだってあるわ。私達が詮索していい事じゃない…もしかしたら私たちが必要以上に近づくことで、湊様を傷つけてしまうかもしれない…。ルカの護衛に関しては、少しの間だけ距離を取って護衛するのが今はいいと思う」
「…セリ…でも…」
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