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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
182話
しおりを挟む(…なるほど…多少は人を見る目があるみたいだ)
(俺の演技で張り付けられたその奥の感情を見破るとは…)
氷のように冷たい呉橋の手が龍司の首へと触れると、力強く首を絞められる。
「ぐ…ッ…!」
「俺の手で貴方を殺すことができないのは非常に残念ですよ。仕事とはいえ、今日貴方のような人間と七瀬様が結ばれるのも本当は気に入らない…ッ!腸が煮えくり返りそうだッ!!」
「ッ…や…めろ…ッ…!」
体の言う事が利かなくなってきている。
少し前まではなんとか動かすことは出来ていたのに、薬が全身に回り始めているのだろうか。今では信じられないくらいに全く動かせなかった。
いつもであればすぐに返り討ちに出来るはずの体は、首を絞める呉橋を跳ねのける事も、殴る事も、止める事すら出来なかった。
(呉橋は改良したNT-1099を大量に混ぜたと言っていた…原因はこれ以外考えられないだろう)
(なるほど…。地下に監禁されていた奴らはこんな状態だったのか…)
(まさか俺が身をもって体験する日が来るとは思ってもいなかった)
「貴方のような人は、殺すよりも地獄の苦しみを味合わってもらう方が、より効果がありそうだ。殺してしまえばあっという間に終わりになるでしょう?それじゃツマラナイ。だから、死ぬギリギリの所で生かし続けてやる。精神的にも肉体的にも追い詰められ、苦しめばいい。俺が七瀬様の計画に参加させてもらったのは、貴方に復讐をするためだ」
「…ぐッ…」
(狂っている)
(どいつもこいつも…ッ)
(みんな狂っている)
首を絞める力が強くなっていく。
体の自由は全く効かないと言うのに、大柄の男二人がかりで押さえつける意味はあるのだろうか。
薄れそうになる意識の中、ふいにそんな事を思ってしまった。
「貴方にはたっぷりと味合わせてやる…!生き地獄をなッ!!」
(駄目だ…)
(体が言う事を利かない)
(息が…できない…)
呉橋がなにやら口を動かして言っているということはかろうじて分かる。
だが、聞こえるのは断片的な言葉だけ。
頭が朦朧としてきて言葉を聞き取ることさえ難しくなってきた。
(視界、が…ぼやけてきた…)
(くそ…こんな所で死ぬことになるなら…やっぱり湊に会っておけばよかった)
(湊)
(俺の大事な…大事な湊…)
(お前の笑顔が見たい…)
「終わりなんだよ!なにもかも!!苦しみ続けて後悔すればいい!!七瀬様の心を傷つけたことを!!」
(お前に…会いたい)
「みな…と」
龍司の意識はそこで途切れた。
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