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第一章

公爵の逃亡②

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「元帥」
 軍で一番偉い人?びっくりして一言だけ棒読みになって声に出してしまった。
 
「そう、元帥。一体ハインリヒ様はどこまで貴女に伝えたんですか?」
 エリアスが興味深そうに聞いてくる。好奇心でつい聞いてしまった、という感じだ。

「…フルネームと、公爵だってことと…予言書に私が現れると書かれてたこと、生まれる前から婚約者だったこと…」


 あ、あれ…。

 そう言えば、他にはなんにも聞いてない……身体が繋がっていた時間のほうが長かったことを思い出して、顔が火照った。

 同時に最初は無理矢理だったことも思い出してしまう。
 あんなに怖かったじゃない。

 行為中言われたことが脳裏に蘇って鳥肌が立った。それに剣の存在も……

「…逃げようと考えたら、どんなに泣き叫んでも痛がっても、…って言われて……ベッドに剣が立て掛けてあって……拒んだら殺されると思ったら、怖くて…っ…」

 俯いて、あてもなく紅茶を見つめた。
 自分の顔が紅い水面で細かく揺れている。

 …今になって、あの時の恐怖を完全に思い出してしまった……。カップを持つ手が震える。


 エリーゼが私の言葉を聞いて、わなわなと怒りに震えているのを知ったのは、この後だった。
 
 今は、他の人を観察する余裕なんてなかった。

 エリアスが申し訳なさそうに言ってくる。
「…あ~……。剣に関しては、サラディーヌ様を斬ろうなんて目的は全く無かったはずですよ。いつもあの人は剣を側に置いて手放さないんです。ただ、それだけです」

 そうなんだ、と思ったけど、剣は恐怖を感じるきっかけに過ぎなかった。

 結局は処女を奪われてしまったし、私の説明なんて一切聞いてくれなかったし、逆にスイッチを入れてしまって、痛い思いをしたこととかはとてもこの場では話せないよ……。そう思うと、男の人は簡単に痛いことが出来るんだな、と怖くなる。力でも女は男の人に勝てないし……。

「私の目……。元はこげ茶でした。なんでこんな目の色になっちゃってるんでしょうか。ハインリヒ様が言ってた、『公爵家の色に染まっている』っていう言葉と関係があるんですか?」

 エリアスが、苦しそうにうーんうーんと唸って、説明を躊躇しているのが分かった。
 何故俺がこんな説明をせにゃならんのか、とぶつぶつ言っている。
 そんなに言いにくいことなんだろうか……。

「仕方ない…。いずれ必ず耳に入ることです」
 ショックを受けないで下さいね、と言われたけど、聞かないと分からないし。


「ハインリヒ様に抱かれて精を注がれたので、公爵家の色ザフィーアサファイアに、目の色が変化したんです」
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