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学園4年生編

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 今……なんつった?僕が、女性…?
 言葉は疑問系だったが…確信持ってるよね…?

『な…ん、で。そう思ったの…?』

 僕は動揺しすぎて、誤魔化す事が出来なかった。
 グラスは「あちゃー」って感じに頭を抱えているぞ。


『その…魅禍槌丸の「禍」の字。それは歴史上、今から十数年前に他界した「禍月カゲツ」という刀匠のみが刀に与えていた文字なんです。それで…禍月は、ですね』

 禍月が、何…!?ごくりと喉を鳴らし、続きを促した。すると飛白は指で頬を掻きながら続けた。


『えー…と。禍月は…彼が名を付けた刀はいずれも強力な妖刀となる腕前の持ち主だったのですが。
 非常に好色な人物でして…。その所為か彼の打った刀はいずれも……女性しか主として認めないのです…』

「「……………………」」



 ……おい、ミカさん、おい。


【………………】


「おい…いつもおしゃべりな魅禍槌丸はドコ行った………?」

【………………………】

 へし折ったろうか…?
 そう思い鞘に仕舞いぐぐっと力を入れるも…びくともしねえ!!

 僕にとってミカさんは武士なイメージだったのだが…今をもって助平爺へと変化しました。


 そんなミカさんは影の中に放り込み、飛白に事情を打ち明ける事に。
 少那を騙している形になってしまっているが…箏の国王陛下はご存知な事。他には木華と薪名も知っている、と。
 全て説明すると…飛白も誰にも言わないと約束してくれた。
 まあ一時とはいえ公爵家の仲間入りをするんだから、近いうちに彼には言うつもりだったけどね。


『陛下も了承されている以上、自分には何も言う事はございません。ですが…その…指導についてなのですが…。
 箏においては、女性が剣を持つ事はございません。舞の一種、剣舞の道具として使うくらいしか…。なので、その…申し訳ご』

『いやいやいや!!?ここは箏じゃないから、グランツだから!
 こっちには女性騎士とかだっているんだから!全然おかしい事じゃないの!!
 だから教えて!おーしーえーてー!!!』

 イカーン!!なんか断られそうな雰囲気だったので…その先を言わせねえ!!
 僕がやだやだ教えて!!と駄々をこねたら彼は慌てて…

『わ、わかりました!お受けしますから!!』

 よっしゃ言質とった!!手を取って振り回したのが効いたか!?一切手加減無用、ビシバシよろしく師匠!!

 それと同時に…ミカさんが禍月の作品だと箏の人に知られると不味いよねという話になった。
 一般人はともかく、剣士や王族は知識として知っているはずだからと。まあ…刀身に刻まれた名前さえ見られなければ問題ないでしょう!




 ※※※




「……という訳で、今朝から見てもらったんだー。やっぱ師匠がいると違うね、ありがとう少那!」

「どういたしまして。でも貴方の剣は合宿でも見せてもらったけど…今更師匠は必要なの?
 ルシアンに聞いたけれど、上級の3人は今すぐにでも騎士になれる腕前らしいじゃない」

「いやいや、剣と刀は違うもの。僕はねえ、この国で刀を使って騎士になりたいの!」

「そうなんだ…頑張ってね」

 頑張りますとも!

 ちなみに今から魔術の授業。今日は飛行術を学ぶのだ。
 運動着に着替えて屋外の練習場に集まると、タオフィ先生が皆の前に立つ。


「はい、では今日から飛行の実技に入ります。座学でも説明しましたが、飛行は大きく分けて2つの方法があります。
 自分の足下に足場をイメージし、それを飛ばす。
 鳥のように翼をイメージし、体を浮かせる。
 どちらでも構いませんが、落下事故だけはお気を付けてくださいね。
 
 ではまず、すでに飛行術を使える人はいますかー?」

 先生の言葉に、エリゼと少那が手を挙げる。そっか、少那って僕らより1つ上だから…国で学んでいてもおかしくないのか。

「ではお2人はこちらに。テストをしてしまうので、合格したら他の人にアドバイスとかしてあげてくださいね。
 飛行は危険を伴う魔術ですので…必ず誰か先生が見ているところでやるように。
 だから暇を持て余すと思いますけど、そういう時は他の生徒が飛ぶところを見学するように。見ているだけでも勉強になりますからね」

 ふむふむ。普段の授業はタオフィ先生しかいないが、今日は他の魔術教師も4人いる。まあ、落ちたりしたら最悪死ぬもんね…。
 エリゼと少那がテストを受けている間、僕はロッティとバジルと一緒にやる事に。


「どっちにしよっかなー。僕としては…翼のほうがいいな」

「私は足場かしら。そのほうが安定しそう」

「うーん…僕も…翼ですかね。鳥とか、風の精霊様でイメージしやすそうです」

 とまあそれぞれ方法を決めて、すでに座学の授業で描いた魔法陣の紙を広げる。
 魔術師を目指す人なら、いずれ陣を省略するまで特訓を重ねるのだが。これはただの授業なので…とりあえず安定して飛べればクリアらしい。

 だがエリゼのテストを見学するが…彼はすでに陣が無い状態で飛んでみせた!すごいな~、格好いいな~!
 僕もそれを目指したいが…エアとかヘルクリスがいるからいいかな。


 さてさて。先生が来るまで…僕らも見学してようっと。
 そう思い、まずジスランを見る。すると…


「うおあっ!!?」

「あちゃ。ブラジリエ君、ちょっと一気に魔力を流しすぎですね」

 ジスランが一瞬で吹っ飛んでった。タオフィ先生が回収したが…なるほど確かに勉強になるわー。
 上手い人を見れば参考になるし、下手な人を見ればここに気をつければいいのかーと分かる。ちなみにルネちゃんも吹っ飛んでったぞ。
 ルシアンは逆に魔力を制御しすぎて…地面スレスレをつつー…と移動してた。暴走しないだけマシか?
 パスカルは流石に器用で、フラフラしつつも安定して飛んでいた。
 木華は足場をイメージしたらしいんだが…紙と下の地面ごと浮いてた。そしてやっと僕らの番!エリゼが面白そうだと見に来おったわ。


「じゃあ私から!」

 ロッティがやる気満々で陣の上に立つが…ちょっと張り切りすぎでは。
 ハラハラしていたら案の定。

「きゃ~~~!!?」

 真上に吹っ飛んだ……あの、発進!!って感じで…ごめん、ちょっと笑ったわ。
 次のバジルはロッティの暴走を見た後なので、超慎重になってた。そのせいで…

「……あのー、先生。上にも下にも前後左右にも動けません」

 という、地面から30cmほど浮いた所で身動きが取れなくなっていた…。
 その状態で背中を押すと前に動くので…「やめてください~!」という彼を、エリゼと僕でど突いて遊んだぞ。


「よーし、僕の番!やるぞー!」

「飛んでくなよ」

 失礼な!魔術ってのはイメージが重要だ。
 ふ…日本の漫画やアニメで培われた僕の想像力なら、飛行などチョチョイのチョイさ!

 ギャラリーが見守る中、目を閉じ陣に魔力を流し…背中に翼が生えるイメージをする…!
 んー…ヘルクリスみたいな…竜っぽい翼?いや……違う。


 …背中がなんだか暖かく感じる…これは、成功か!?
 すると、おおおおおっ!!と歓声が上がる。なんだ、他の誰かがまた吹っ飛んだか?

「…………姫。此方は翼を「イメージしろ」とは言いましたが…「生やせ」とは言ってませんよ?」

「へ?」

 タオフィ先生の言葉に目を開けて、後ろを振り向くと…

 僕の背中に、大きな翼がくっ付いてた…!しかもなんか燃えてない!?これ、フェニックスの羽根かな!?


「まだ君の中にフェニックスの力が残ってるのかな?……セレスがイメージしたのを、具現化しちゃったみたいだね」

 ヨミが冷静に解説してくれたよ!!刻印が消えたと同時にフェニックスの力は全部抜けたと思ってたけど、残りカスみたいのがあったらしい。
 よく分かんないけど、この翼暖かいけど熱くはないや。それに実体は無いようで、触ろうとしてもすり抜ける。他の人にも同様だし…害は無いね!

 そんじゃあ、このまま飛んでみようっと。羽ばたくイメージで…!
 翼を大きく広げると、僕の体がふわりと浮かぶ。その時、周囲に影が落ち真上から声が聞こえてきた。

「よし、ここまで来い!!私の契約者であれば容易かろう!!」

 ヘルクリス…!なんと彼は上空で、巨大なドラゴンの姿で僕を待っていた。


「…うん!先生、あそこまで行っていいですか?」

「ふむ…風の精霊殿が一緒なら安全でしょう。念の為、此方も同行します」

 そう言うと先生は僕の手を取った。え、なんで繋ぐの!?

「暴走したらすぐ止められるようにですよ。ほら、魔力のコントロールが乱れていますよ」
 
 あわ、わわわ!ちょっとぐらついたが…なんとか持ち直した。よし…このまま、上に飛ぶ!
 勢い良すぎず、遅すぎず。そうだな…エレベーターのイメージかな?


「…おお、上手ですね姫」

 先生の手を引きながら、僕は真っ直ぐに上を目指した。そうしてヘルクリスの待つ、地上から約100m地点に到達した。

 いつもエアに浮かせてもらったり、ヘルクリスの背中から見るだけだった空に…今僕は自分の力だけで飛んでいるんだ!
 すごいすごい、僕すごい!

「ねえ先生、空の上って楽しいね!」

「ええ。怖くはありませんか?よくある事故で、下を見てしまってパニックになり、制御不能になってしまうのですよ」

 そう言われ下を見るも…確かに怖いが震えるほどでは無い。

「いつも見ている景色ですから!それに側にはヘルクリスが、手を繋いだ先には先生がいますから。不安なんてありませんよ」

「……そうですか。ふふっ、それでは授業になりませんね」

 先生はそう言って笑った。そうだね、落ちても平気!なんて考えていちゃ駄目だね。
 という訳で、先生から少し手を離してみる。


 ……うん、大丈夫。離れても安定している。すごい、鳥になった気分!
 なんだか楽しくなって、ヘルクリスの周りを飛んでみた。

「あはは!ヘルクリスのお腹の下を飛んでるよ、変な気分!」

「ふむ、そうか。背に乗せるのも良いが…こうして同じ目線で飛ぶのもたまには良い」

 ね!彼の周囲をクルクル回っていたら、先生が「まるでダンスをしているみたいですね」と微笑んだ。まあ先生は目が細いから、いつも笑って見えるんだけどね。


 僕の飛行は問題ないという事で、その場で合格をもらったぞ。もうちょっと空の上で遊んでいたかったが…今は授業中でした。
 名残惜しいがゆっくりと降りて…


「着地が結構難しいので、気をつけてくださいね」

「は、はい!」

 勢いよく降りて骨でも折ったら大惨事だ、慎重に慎重に…着地成功!!


「お兄様すごーい!」

「やるじゃないか」

 僕が地面に降り立つと、友人やクラスメイト達がわっと集まってきた。いつも厳しいコメントをするエリゼにも褒められて、僕はちょびっと鼻高々いい気分。


 のはずだったのだが…。




「…………………」



 なんか…パスカルが変な顔で睨んでる…。僕、じゃないな。先生を?なんで?


「あの…パスカル?」

「…………何?」

 何じゃないよ。なんか…怒ってる?

「……………いや?怒ってない。怒ってはいない」

 そのまま彼はふいっと背中を向けた。やっぱ怒ってるんじゃん!!?
 な、なんでえ…!?先生に目を向けるも、彼もなんだかよく分かっていなさそう。首を傾げるばかり。
 
 え、僕なんかした…?僕が上手に飛んでみせたから嫉妬してる、って事は無いだろう。彼は他人の能力を素直に認められる人物だ。エリゼと違って。

 じゃあ何…?
 


「「「………………」」」


 ロッティ、バジル、エリゼも微妙な顔をしているのだが…誰もパスカルが不機嫌な理由を、教えてはくれないのであった。


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